医学界新聞

【鼎談】

介護保険法と看護
-介護保険法の制定で何が変わる?

山崎摩耶氏
(日本看護協会常任理事)
小山秀夫氏
(司会/国立医療・
病院管理研究所部長)
栃本一三郎氏
(上智大学文学部
社会福祉学科助教授)


 1997年12月に成立した介護保険法は,2000年の実施に向けてサービスの基盤整備が進められている。しかしながら,今年度から全市町村で拡大実施される「要介護認定モデル事業」をめぐっては,先行モデル事業から1次(厚生省コンピュータ)判定と2次(各地域の認定審査会)判定で,介護サービス内容に不一致がみられることが報告されている。また,介護支援専門員(ケアマネジャー)の育成に関しては,標準テキストの作成が進む一方,先頃実務研修受講資格試験が本年9-10月に実施されることが決まったが,日程の遅れから必要人数(全国で4-5万人)の確保を危ぶむ声も聞かれる。
 2000年実施に向けた対応の遅れが懸念されている「介護保険制度」であるが,本紙では,この介護保険法について看護に焦点をあて,その成立の意義や将来に向けたあり方など,小山秀夫氏,栃本一三郎氏,山崎摩耶氏の3氏に忌憚のない話をしていただいた。


難産の末の介護保険法

実った水面下の作業

小山 昨年の12月に介護保険法関連3法案である,介護保険法,医療法改正法,介護保険施行法が成立し,2000年の4月1日から介護保険制度が始まることになりました。老後の最大の不安要因である介護を,社会保険方式で支えていこうという介護保険ができたのは,それなりに意義があったと思います。しかし法案は通ったものの,これからが政省令の細かな部分で,例えば介護の保険料や介護報酬料をいくらにするとか,まだ未確定の要素も多いという現状です。そこで,今日は介護保険成立の印象,意義などについて,看護との関連を中心に話し合いたいと思います。
 栃本先生はドイツの介護保険についてかなり早くから研究されてきましたが,どのような感想をお持ちでしょうか。
栃本 先進諸国においては,高齢者の介護の問題は共通した課題だと思いますが,日本では十数年に及ぶ水面下の作業がようやく去年の暮れに実ったわけです。医療改革をどう進めるかが究極の目的なのですが,その出発点として介護保険法が成立したというのはとてもいいことだと思います。ただし,これから政省令をどういう形で詰めていくのかは確かに問題ですね。特にこういう法律というのは,適切なサービスを限られた財源を使って提供することにつながりますから,単に財源だけを決めるものではなく,具体的な現場の知恵や工夫をどんどん取り入れて,2000年の施行に向けていいものにしてもらいたいと希望します。
小山 山崎先生は厚生省の進めたモデル事業ですとか,関連する委員会などで成立に向けて活躍されてきましたが,いかがでしょうか。
山崎 介護保険法案が国会に乗せられてから1年がかりで成立したわけですが,流産しそうな時もあり,難産の果てという感想です。この法案の前段として,高齢者介護・自立支援システム研究会が1994年12月に報告書を出しましたが,そのメンバーの1人として参加した時から数えますと4年がかりです。そういう意味では感慨深いものもあります。
 ただ,法律が成立する過程の狭間でいろいろな利害関係が働き,生みの親集団が議論してきたコンセプトが,政治の舞台で少し翻弄され,骨格が若干歪んだりはしました。私は専門職にとって,介護保険の勝負はさあこれからだと,そんな感じがしています。言ってみれば第2ステージを迎えるわけですから,そこで保健・医療・福祉の専門職がきちんとこれまでのキャリアを生かした発言をしていくことがとても重要だと思います。
 また,税金を払い,なおかつ保険料をこれから徴収される被保険者である国民の立場で,これから自分の住む市町村がどのような制度を整備していくかをきちんと目配りする必要もあるでしょう。
小山 日本では,1948(昭和23)年に医療法ができて以来,1961年には国民健康保険法,1963年に老人福祉法ができ,1973年には老人福祉法の改正で老人医療費が無料化され,1982年に老人保健法が成立,1988年には老人保健施設を作ってという過程があって,いま「介護」でくくるという大きな時代の変わり目があるということかと思いますが,栃本先生,ドイツでも介護という言葉はあるのですか。
栃本 「アルテン・フレーガー」という言葉が該当します。だけど,キンダー・フレーガー,障害者介護という言葉もありますが,要するに何とか介護というようなものですね。ただ,職能団体は一本化しています。それと,介護というのはかなり幅広い概念であるということですね。
小山 イギリスで言う,パーソナル・ソーシャル・サービスとは違うのですか。
栃本 もう少し看護に近い感じがしますね。

保健・医療・福祉にまたがる介護の概念

小山 いままでは医療と福祉あるいは看護で同床異夢みたいな形で,それぞれが違う思いを持ちながらやってきたことを,これからは介護という1つの形で制度化し,市町村を保険者としてやっていこうという意味を正確に理解しておいたほうがよいと思いますが。
山崎 単にヘルパーや家族がする介護というようなことではなく,もっと広い意味で,保健・医療・福祉と,各分野にまたがる高齢者ケアを「介護」というキーワードでくくり,自立支援システムという新しいシステムを構築していくという,マクロなとらえ方をすることですね。
栃本 従来から,高齢者が在宅で生活するためにというので,医療と保健と福祉と看護が連携しなきゃいけないと言われていました。それが介護という枠でくくるということなのですが,これがシステム化されると,逆に連携せざるを得なくなると思いますね。単に自分たちだけの,看護の世界,医療の世界,福祉の世界からちょっと出張という発想だけじゃだめで,自分たちがそれぞれ変わっていかなければいけない。自分たちの領域自体を変えていくという視点を見失ってはいけないと思います。

介護支援専門員の教育と資格

ケアマネジメントシステム

小山 介護には欠かせない介護支援専門員についての話をうかがいたいと思います。介護支援専門員については,その役割をどの職種が担うのかと大フィーバーになりました。介護支援専門員はこれまでケアマネジャーと呼ばれていたものですが,介護保険の成立,施行に伴い表記が変わります。同様にケアマネジメントは介護支援サービスとなるのですが,介護保険とケアマネジメントというのは結局一緒に議論もされましたし,ケアコーディネーション,ケースマネジメントについても議論されました。このあたりの整理について山崎先生はどうお考えになりますか。
山崎 介護保険でのサービス給付,つまり運用を「ケアマネジメントシステムでやる」と法律では明記されています。このケアマネジメントシステムとは何かというところに,認識の違いがあります。施設でも在宅でもチームケアには変わりがありませんから,仮に山田太郎さんという要介護老人がいると,必ずチームでケアプランを立てます。そしてその目標や情報,結果を共有しながらきちんとケアしていきましょう,そして誰かがそれをモニターし,コストの管理をしつつ,利用者のクオリティを高めていくというシステムが基本なわけです。それがケアマネジャーの仕事はケアプランを書くだけ,そのケアプランも介護保険で給付されるサービスをパッケージするだけというような誤解があったりします。ですからケアマネジメントシステムにおけるケアマネジャーの役割というものがどのようなものかをはっきりさせておく必要があるかもしれませんね。
栃本 介護保険があるなしに限らず,本来はケアマネジメントがあるべきです。ケアプランを作るとかケアマネジメントするというのは,サービスの質の管理,適切なサービスを提供するという観点からすれば,それは必要なことだと思います。
 ただ,介護保険が導入されなくともケアプランを作るということを,いろいろな先生方が主張されたかといったら,必ずしもそうではありませんでした。むしろ介護保険ができると,それに合わせてケアマネジメント,ケアプランというもので一緒にくくらなければいけないというのでこれだけ盛り上がったのだと思います。
 介護保険が導入されることによってようやく本当の意味でケアマネジメントやケアプランが脚光を浴びたということは確かだと思いますね。

新しい資格?

小山 イギリスの考え方が主となったのか,ケースマネジメントといえばそれは看護婦が中心という理解がされて,外国と日本の違いが全然議論されずに,何か「新しい資格」と見られています。しかし,介護支援専門員というのは,国家資格でもありませんし,都道府県知事の認定資格でもなく,ただ任用の条件です。ですから市町村が保険者ですし,市町村に任用されなければ介護支援専門員とはならないわけです。
山崎 そうですね。修了証を持っているにしてもね。
栃本 確かにその通りなのですが,例えばドイツではケアマネジャーになろうという医師はいません。日本で言う診療報酬のようなものは出ますが,それでもやろうとしませんね。それは,医師は医師の独自の世界があって,医師としてはお手伝いするかもしれないけれど,ケアプランとかケアマネジャー料をもらって,いうのはあり得ないわけです。ただ,これは日本的なよい部分でもありますよね。それで共通の理解が生まれるとしたらいい制度と言えるのではないでしょうか。
山崎 私は,看護の立場から見てこれは非常に重要なことだととらえています。いままでも看護職は,病院の中や在宅でいわゆるケアマネジメントを実践してきているのです。例えば「継続看護」という言葉がありますが,入院した時から退院のことを考えてケアをし,退院時にはきちんとサマリーを書いて他の機関に送ったり,継続看護票をつけてというように連携をしていくものです。支援が必要な患者さんが場を移してもドロップアウトしないようにという仕組みをもうここ20年来学習し,試行錯誤の中から,看護なりにシステムを作ってきています。
 医師に関して言えば,病診連携や診診連携で診療点数,情報提供料がつくという世界なのですが,看護の場合は継続看護にチャレンジしてもシステムになっていかなかったし,経済評価も受けないというあたり,じりじりする感じがありました。
 今回の介護保険でのケアマネジャーが行なう仕事というのは,継続看護の領域をもう少しワイドに生活全般のケアのプランを立て,目配りをするというものです。しかも,場を移っても高齢者がドロップアウトしないで継続したケアが受けられるという内容です。まさしくこの制度で,従来看護職がやってきたことがシステム化され,明確に報酬がついたというわけです。そういうとらえ方ができますので,私はここで本当に私たちの力をきちんと陽の目を見せて頑張りましょうと言いたいのです。介護保険という仕組みの中で国が評価したのですから,私は歓迎しています。ケアマネジャーという資格ができ,その役割がとれるのですから,1人でも多くの看護職に資格をとるべく頑張ってほしいと思っていますし,ケアマネジャーの役割というものは看護職が最適なのだと申し上げたいですね。

行政主動型から民間活力参入へ

標準化と基盤整備

栃本 これまで高齢者福祉というのは行政主導型で行なわれてきましたが,実態は,行政の直営サービスというのは必ずしも多くはありませんでした。ところが,今度の介護保険では営利,非営利を問わず看護専門職,社会福祉関係の専門職と,そういう人たちが活躍できるという可能性が生まれました。実際には認定審査会などで決定されるのでしょうが,専門家が判断して必要なサービスを提供できるわけです。
 要介護認定を行なうには,介護支援専門員が要介護度をチェックし,コンピュータで処理をして,それを認定審査会の合議で決めるということです。これは言ってみれば,各種の専門家が一緒に診断するということですよね。そういう意味では,適切なサービスを専門家が判断して提供するということですから,福祉の世界,利用者からしたら本当に望ましいことですよね。
山崎 特にいまの公的サービスや福祉の分野で行なわれてきた介護は標準化されたものがありませんでした。私としては,この標準化ということが,日本の介護保険における1つの大きなエポックメーキングになるのではないかという気がしています。
小山 看護職も医療職も福祉職も,みなさんかなり大きな変化があるということは薄々感じているのだと思います。在宅の場合は支給限度額というのが要介護度で決まります。その支給限度額が設定されれば,そこまでのサービスは利用者が自分たちで抱え込むことができます。そうしますと,サービス提供者にすれば,自分たちが恩恵的に提供しているのではなく,利用者が財源を持っているということになりますね。
山崎 そうですね。サービスの購入者となるわけですから。
小山 そうそう,主客逆転と言いますか,利用者にも提供者にもお客さま意識が出てきて,そのお客さんを取れなかったら困るということになるのでしょうかね。
山崎 なります。先ほど栃本先生がおっしゃいましたように,直営か委託かは別にしても,いままでは市町村がサービスの提供者だったわけですが,購入者となります。これは基盤整備と言われますが,保険者は自分の市町村というエリアの中で,いいサービスをどれだけ生み出していくかが課題になります。そのサービスを保険者も被保険者も購入者になっていくことは,実は非常に大事なことです。だから本当によいサービスがないと,被保険者から市町村はいろいろと言われるでしょう。そうしますと市町村は相変わらずサービス提供者でしかない。これでは地域活性になりませんね。
栃本 例えば老人福祉の領域に限って言いますと,結局,行政が責任を持って実施しました。実際には社会福祉法人等に措置委託という形で実行,もしくは,社会福祉協議会に補助金という形でお金を出して実施していただくということでした。しかし,一般の国民はあまり関心を持ちませんでしたし,実際に福祉を必要としているご本人と,家族,あとはその担当する行政官の中だけで悩み,かつやっていたわけですね。ところが,これからは40歳以上の人が被保険者となります。そうしますと,パカッと福祉の世界は開かれてしまったと言えると思います。

株式会社の参入

小山 今回民間活力と言いますか,多様化ということで,株式会社が指定事業者として参入できるようになります。そうしますと,福祉関係者,医療関係者,看護の関係者も,乗っ取られてしまうというネガティブな見かたもありますが,これについてはどのような意見をお持ちでしょう。
山崎 そのような見かたはあるでしょうね。いま栃本先生がおっしゃったことは,戦後50年の総決算で,さあ,保健・医療・福祉をこれで近代化しようかという動きですよね。と言いますと近代化されていなかったのかとなりますが,少なくとも,戦後間もない頃,昭和20年代,30年代に作ってきたシステムが,その時代時代ではフィットしたけれども,いまの高齢社会にはフィットしていないわけです。それを近代化して新しくシステムを作ろうというわけですから,いままでのシステムの中で生きてきた人間にとっては,株式会社が入ったら大変だとかいう意識は当然持ちますよね。と言いますのも,福祉は市町村で公的サービスとして行なわれ,医療は国民皆保険で政府に護送船団され,民間病院が多いのですが非営利として扱われてきていたわけですからね。それが民活で一挙にこれが営利になるかどうかと。
 それが,介護保険で一挙に,このサービスはこうするというように標準化したり,ベーシックなところで整備されたら,あとはもう競馬のゲートを開けるのと同じで,みんなで一緒に走ってごらんなさいとなって,結果として質が高くてポリシーが明確であれば,利用者から選ばれ生き残っていくでしょうという競争になる。それ自体は,私は否定するものではないんですね。
栃本 競争と同時に,緊張感を持って仕事をするというのは重要だと思いますね。むしろこういう時代だからこそ,きちっとしたことをやれば生き延びられるというのか,そういうものだと思います。
山崎 ただ,皆保険だったり,福祉や医療というものが公的サービスだった世界から,私たちが一挙に競争ができるかとなりますと,これはまたできません。アレルギーもあるかもしれません。それと同時に,介護保険の世界は自立支援という,ある種,権利性がはっきりしているわけですが,この自立支援ということば1つ取ってみても,実は大変厳しい世界が展開されるんだなと,受けとめなければいけませんね。
 また,利用者自身も選択の幅が広がると同時に自己責任といいますか,自立支援の裏返しで,本当はとても厳しい選択が迫られる制度かもしれません。いままでは,病院であれば医師,看護婦にお任せ。福祉でも,行政の世話は受けたくないと思いながら一応役所にお任せにしていたというところからの転換となるわけですから,「自分で選択」というのは,これはもう本当に意識が変わっていかないといけませんね。

団塊の世代の介護保険

団塊の世代の悲惨な老後

小山 介護保険ができるまでにはいろいろな議論がありました。私は全国の905の市町村と今回のモデル事業でつき合いましたが,日本の市町村行政は結構優秀なんですね。で,1度方針が決まったら本当に動き出すわけです。ですから,毎日のように介護保険事業計画を市町村単位で立てるためにはどうするのか,数量の根拠はという議論をしているわけですね。高齢社会が急激に進んでいるのですから,かなり急ピッチに整備していかないと,団塊の世代が65歳,75歳となった時にいまの基盤ではつぶれてしまうことにもなりかねません。
山崎 介護保険は,われわれ団塊の世代が自分たちのために頑張っているんだと思っています(笑)。
小山 いまの高齢者は戦争があったりと,いろいろと苦労も多かったと思いますが,団塊の世代はすごい人数となるわけで,その老後を考えますともうひどいわけです。
山崎 そう,悲惨ですね。
小山 で,保険料の話もよくされるんですが,65歳以上の年金から2,500円集める金額というのは全体の12%しかありません。その他は結局現役の労働者が支えていかなければなりません。つまり,後は私たちで何とか支えていくけども,僕たちの老後も支えられるように作ってよと,これは普通の発想ですよね。
山崎 少子・高齢化が言われていますけれど,出生率は1.43で,1家族の平均人員が2.9人ぐらいです。さらに75歳以上の全世帯の3分の1が単身世帯。こういう構造を見ていますと,これはもう身内,家庭内だけで介護をしていくというのは,本当に難しいことが実証されていると思いますね。
小山 20年ぐらい先を見てみますと,介護経験者がどんどん増えていくわけです。これまでは,先ほど栃本先生がおっしゃったように,行政や病院でみてきたものが,自分たちの現実の問題になってきたわけで,世の中変わってきているんだと思いますが,どう思われますか。
山崎 日本看護協会では,4年ごとに看護職員の実態調査を実施し報告を出しているのですが,先日調査結果の速報(本紙6面参照)が出ました。それによりますと,医療職能集団で最大多数を誇る看護職は100万人近く働いているわけですが,彼女たちがやめなくなってきています。数年前に比べ離職率が大幅に下がっており,「今後も働き続けるためには何が一番の課題か」という質問に対しても,「家庭生活と両立できること」を一番にあげています。育児・介護休業法が今年から完全実施されますが,看護職は女性の職業集団でもあるわけで,親の介護のために仕事をやめるかやめないのかという問題になりますと,患者,家族と同じ立場になってしまうわけです。そういう意味でも,親の介護のために仕事をやめざるを得なかったとか,遠方にいる親の介護をどうしようと悩む看護職が増えてきています。そういう老人ケアの問題が身近に聞こえる,切実な時代になってきました。
小山 少子化で生産労働人口が減るかもしれないけれど,共稼ぎが当たり前になるはずなんですね。ヨーロッパなどを見ますとほとんど共稼ぎです。そういう意味でも,私たちの世代は急激に社会が変わってきている。アメリカで言えば,親父の世代よりも息子が,息子の世代よりも孫という形で,どんどん生活が豊かになっていったというけれど,私たちの場合はじいさんの時代よりも介護が問題になって,おやじの時代よりももっと大変になって,自分の時代には最悪,ということになってきていると考えられますよね。いまお話されたように,看護職自身も大変な問題だという意識はあると思いますね。

介護保険法下での看護の戦略

小山 ところで,介護保険ができることで実際には看護はどう変わるのでしょうか。
山崎 平成12年度には医療の現場はドラスティックに変わってくるという前提があります。介護保険はいわばその前触れとの話がありましたが,そのとらえ方はまさに大変重要ではないかと思いますね。介護保険法の成立とともに,医療法も一部改正されました。総合病院の制度廃止などを含む第3次医療法改正もこの4月に通知されましたし,在院日数短縮を図るべく医療に関するシステム理論はどんどんと動いています。病院という施設も,急性期の病棟と慢性期の病棟で完全に線が引かれます。それから,ケアミックス型の病院では,療養型病棟が介護保険の施設となりますから,ケアマネジャーを必置ということになるわけです。そこでは若干看護管理的なところが違ってきますよね。ここはきちんと押さえておかなければいけません。
 また,有床診療所も今回の法改正で同様の療養型病棟(診療所療養型病床群)を持つことができます。訪問看護ステーションとリンクして,地域の有床診療所が持っている療養型病床というのは非常に有効に使われていくだろうと思いますから,そこでは看護職がきちんとケアして差し上げたい。ここも大きく変わる1つですね。
 それと,在宅ターミナルケア,これも増えてくると思います。そこではエキスパートが必要になる。訪問看護ステーションはこの領域をしっかりカバーできるように,体制を整えておかなければいけませんし,ステーションもケアマネジャーを置けば,ケアマネジメントもできる機関になります。そういった新たな看板を下げることも可能ですので,これからは事業の多様化を考えていかなければならないでしょう。ヘルパーと一緒に働くヘルパーステーションという看板も下げられますので,その仕組みを押さえておくことも必要でしょうね。
 最後にもう1つ,私は訪問看護だけが地域で看護職がかかわるサービスではないとあちらこちらで申し上げているのですが,在宅の12種類の給付サービスすべてに看護婦はかかわります。そのように介護保険を看護婦の新しい職場の開拓ととらえることも必要になるだろうと思います。平均在院日数が短くなると,必然的にベッド数も減少するわけですから,臨床で雇用の場が少なくなります。新たな雇用の場をいまから拡大しておかなければいけないというのが私たちの戦略でもあるのです。

看護婦が変わらなければ

小山 栃本先生のご専門から見て,これから看護はどう変わるとお考えでしょうか。
栃本 いま山崎先生が壮大な構想を提示されましたが,そのためには看護婦さんの教育,勉強が必要で,相当変わらなければならないと思います。どうしても看護は看護の職業が重視され,結果として制度論には弱くなりますよね。それから,要援護性のある人をどう社会復帰させたり,その地域で生活できるようにするかということも重要になります。そういう意味では,これからの看護職は従来の専門性に加え,いわゆる福祉という援助技術論の部分を十分理解していなければならないのですが,これがなかなか難しい。
 それと,障害児・者に対する看護の仕方,お手伝いの仕方ってありますよね。医療的な意味で非常にコントロールされた環境の中におかれていない人を,これからどのように生活を支え,介護をしていかなければいけないのかということも考えていく必要があるでしょう。基本的な前提である医学的な知識を持つことと同時に,視野の広さというものを持っていないと,先ほどの壮大な計画も,結局「看護婦さんはこの部分よね」ということになりかねないと思いますね。
山崎 おっしゃる通りです。基本的に看護というのは,ナイチンゲールの言葉を借りれば,「生命の消耗力を防ぐために,生活過程を整える」というものです。別に切った張ったで聴診器や注射を持って飛んでいるばかりが看護ではなく,ただ生活過程を整えるということは,臨床という箱の中で一生懸命やってきたことですから,あまり世の中の人に見えてなかった。そういった側面を,私たちはきちんと受けとめていく必要があると思います。生活過程を整え,悪化を防止し,よい状態に置いているのは誰かというと,地域で言えば訪問看護がそうですよね。今後私たちも,ここはヘルパー,ここは看護婦,ここはお互いに一緒にやっていきましょうというような連携や,ジョブ・ディスクリプションも,介護保険がスタートする前には作っておかなければいけないのかなと,そんな感じがしています。
栃本 いままでにも地域の中で,看護婦さんが自分の家に来てくれていろいろしてくださるというところではうまくいっていたと思います。ただ,今回はケアプラン,ケアマネージメントと,そういった機能が生まれるわけですから,これは大分変わっていくと思いますよ。
小山 看護の「看」という字は,手と目という字だけど,それを経済評価する時には,手だけの評価ではだめだと思うんですよ。よく言われるような,看護と介護がどう違うのかとか,どう棲み分けるのかという議論ではなくて,ヘルパーさんや介護福祉士さんのお話を聞いていると,すごく優秀な人もいるわけで,そういうところをみんなで出し合ってシステム作りをしていったらいいと思いますね。看護婦さんが自分たちの職を取られてしまうのではないかというつまらない議論じゃなくて,これから急激な高齢社会と団塊の世代のために,看護婦さんの知恵がほしいと思います。
 本日はどうもありがとうございました。