医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


MRI物理学を理解しやすく解説

図解 原理からわかるMRI M.NessAiver 著/押尾晃一,百島祐貴 訳

《書 評》荒木 力(山梨医大教授・放射線医学)

 メリーランド大学医療センターのMoriel NessAiver先生の執筆による“All You Really Need To Know about MRI Physics”を,ハーバード大学の押尾晃一,慶應義塾大学の百島祐貴両先生が翻訳したのが本書である。

技師やレジデントへの講義から生まれたテキスト

 NessAliver先生は,Ph.D.で南カリフォルニア大学卒業後,William G Bradley Jr率いるハンチントン記念研究センターでMRIの研究を始め,エルシント社で体動補正パルス系列,ピッカーインターナショナル社で心臓MRIの研究開発に携わった後,現在は技師や放射線科のレジデントにMRIの物理学を教えている。この講義に使用するOHP原稿が,本書の重要な構成要素となっており,そのことがそのまま本書のユニークな特徴となっている。
 第1章「予備知識」,第2章「NMRの基礎」に始まり,第6章「K空間入門」,さらに第11章「アーチファクト」まで,その扱う項目はMRIに関する物理学的側面をすべて網羅したオーソドックスな構成になっているが,実は本書はかなりユニークである。各ページが上下に2等分され別々の事項を扱っている。さらにこれが左右に2等分され,左半分が図,右半分が解説という構成である。つまり,左半分に掲げた図,表,画像,数式などで,直感的,視覚的に読者の脳を刺激し,右半分で詳細に説明している。
 また各項の区切りがよいため理解しやすい。とはいっても細切れにはならず,著者が本書の使い方として,「はじめの数章では,一見無関係な項目が並んでいるように見えたり,つまらないことに時間を割きすぎているように思えるかもしれないが,あせったり飛ばさないようにしてください。後半はこのような事項を理解していることを前提として深い議論に入っていく」と述べているように,全体の構成もよく考えられている。ただし電磁気学を主に扱った第1章は適当に流して,第2章から始めてもよいと思う。先に進んでわからなかったら,第1章に戻ればよい。
 本の外観もユニークで,A4判に比べて縦は2cm短く,横が2cm長いという安定感のある大きさである。これは左半分が図という構成によるものであろう。内容は初歩的な事項から高度なことまで扱った本格的なもので,図も精密である。そして,何よりも感心したのは,このような素晴らしい講義をするPh.D.を病院内に受け入れることができるアメリカの医療,教育システムである。
 最後に本書の弱点を加えておく。1)図が精密すぎて,老眼が始まった人間には厳しい,2)大きさがユニークなので本棚に並べると出っ張る(目立ってよいとも言える)。
A4変・頁158 定価(本体4,000円+税) 医学書院


大腸内視鏡検査のポイントを押さえた解説書

大腸内視鏡挿入法 ビギナーからベテランまで 工藤進英 著

《書 評》武藤徹一郎(東大教授・外科学)

 1970年冬,筆者は町田製大腸内視鏡を携えてSt.Marks病院を訪れていた。わずか70cmで先端の可動性は2方向。吸引装置も内蔵していない,今からみればどうみても大腸内視鏡とは呼べないような代物であったが,勇敢にもこれを用いて,Dr.C.Williamsと病院内で内視鏡検査を始めたのである。経験者ぶってはみたが,筆者は日本でたった5回の大腸内視鏡検査を経験したにすぎず,Rsを越すことすらおぼつかなかった。2人の間には自然に10minutes rule(10分間たっても前進しない場合は役割を交代する)が成立し,何度も役割を変えて検査をしたものである。
 オリンパス製スコープが入って右半結腸への挿入が可能になったが,盲腸に到達するまでがまた一苦労であった。挿入法はとにかく押しの一手で,トルク操作やpull back操作などは全く知らされてなかった。挿入法を教えてくれる人も成書もなく,ループ形成を阻止する目的で鉗子孔に入れたピアノ線(弾性があって硬いのに目をつけたWilliamsの発案)が,スコープの外側に突き出しているのを透視スクリーンでみて肝を冷やしたこともあった。1972年,ロンドンからの帰りにMt.Sinai病院にDr.Shinyaを訪れてpull back操作やトルク操作に接し,目が洗われる思いがした。親友のDr.Williamsに直ちにその詳細を手紙で知らせたことはもちろんである。

名手による操作のエッセンスを伝える

 あれからほぼ四半世紀が経ち,上述の如き状況で大腸内視鏡検査を始めた者にとって,本書のようにすばらしい技術書が出版されたことに,深い感慨を覚えずにはいられない。あの頃,このような成書があればどんなに助かったことであろう。いまさら紹介するまでもなく著者の工藤氏は表面型大腸腫瘍のワールドリーダーであり,すでにそれに関する2冊の名著を著している。表面型の如き微小病変をたくさん発見するためには,それを支える優れた挿入技術が不可欠であるが,そのノウハウが本書に余す所なく記されている。
 従来から挿入法の解説書は数多く出版されているが,本書の如く簡潔かつ実際的で,ポイントを押さえた解説書は類を見ない。ふんだんに挿入されているシェーマが実に要を得ていてわかりやすく,簡潔な記述とともに読者の理解を容易にしている。著者もあとがきで述べているように,名手が無意識のうちに行なっている操作のエッセンスを,言葉にして人に伝えることは至難の業であろう。挿入術は1つのアートであるから,その本質を言葉で伝えることはほとんど不可能に近いが,本書では優れたシェーマの力を駆使してその不可能を可能にしている。著者ならびにその若い門下の諸氏の情熱と工夫とが,この難事を克服したことに敬意を表したい。

かゆいところに手が届く記述

 かつて大腸内視鏡検査に熱中した筆者にとって,本書の記述の内容は1つひとつ納得ができ,かゆいところにもよく手の行き届いた説明に満ちていて嬉しくなる。経験の多少を問わず読者はとにかく一度通読して,自らの技術をチェックしてみるとよい。それによって自らの技術レベルが明らかになるだろう。
 筆者も初めからone man method派であり,pull back操作やトルク操作を活用してほとんど本書の記述内容と同じテクニックを使っていたが,やはり著者のようには上手に挿入できてはいなかった。著者によれば挿入レベルは1から4まであるが,筆者はベストの時でレベル3と4の間くらいかなと自己採点してみた。「読むとやるとは大違い」で本書を読んだら直ちに名手にはなれないが,名手をめざすための確実な道標となることは間違いない。挿入技術の向上と普及が大腸疾患の診断・治療に及ぼす影響は計り知れないものがあり,その意味での本書の果たすであろう役割はきわめて大きいと思われる。本書を読んで,しばらく離れていた大腸内視鏡にまた挑戦してみたいという気になってきた。
 経験数の如何を問わず,大腸内視鏡検査を行なっている人,これから行なわんとする人のすべてに薦めたい本である。
B5・頁134 定価(本体12,000円+税) 医学書院


刺激的でユニークな新しいテキスト

眼球運動の3次元解析からみた 平衡機能とその異常 八木聡明 著

《書 評》加我君孝(東大教授・耳鼻咽喉科学)

 “眼振”と“失語症”だけは厄介なので手をつけないほうがよいと,Charcotが100年前に言ったという。しかし眼振は,昭和30年代に電気眼振計(ENG, EOG)の開発と普及で,病巣診断に貢献するようになり,厄介ではなく重要な症候となった。同時に,三半規管の障害で生じる前庭性眼振を背景に,神経耳学が生まれ,視覚障害や眼運動系の障害から生じる眼振などを中心に神経眼科学が生まれた。眼振の中には回旋運動を伴うものがある。眼球運動を水平(x軸),垂直(y軸)に分けて記録するENG(EOG)では,この回旋運動が記録できない。カルテに回旋成分を伴う眼振と記録することが長い間続いた。他覚的に記録できないということは解析ができないので,研究が発展しにくいということでもあった。
 眼振あるいは眼球運動の回旋成分の生理学的機序の解明と診断への応用は,神経耳科学領域の夢であった。先人はただ手をこまねいていたわけでない。虹彩や眼底の写真判定,眼球の映画やビデオ記録で定性的に分析したこともあった。Eye Coil方式すなわち角膜にコイルのついたコンタクトレンズを用いて磁気の動きを記録する方法は,動物実験や臨床にも使われた。ただし,角膜につけるためのトラブルが起きやすいという欠点がある。

挑戦の成果をまとめる

 八木聡明教授は若き日に,米国UCLAの神経学のMarkham教授(昨年引退)のところで前庭神経のadaptationの基礎研究に従事したことがある。その時に,Markham教授の研究テーマの1つが,眼球反対回旋であった。これは頭部を傾斜させると,傾斜方向とは反対の方向に,5度前後の回旋が生じるが,これを眼球反対回旋といい,固視機能維持のための耳石器反射と推測されている。このUCLAの検査装置は,被験者の体をまるごと写真撮影の装置にのせる大掛かりなものであった。眼球の回旋成分の記録方式は写真撮影法であった。筆者は八木聡明教授とは25年来の畏友で4-5年同じ教室に在籍したこともあるが,眼球の回旋成分の容易な記録法の開発と臨床応用は,静かな人柄の中に隠された挑戦であった。
 本書は1988年より独自に始めたコンピュータによる画像認識技術を利用した研究の成果をまとめたものである。この内容の一部は1997年の日本耳鼻咽喉科学会で宿題報告として発表されている。本書の内容は(1)眼球運動記録法の従来の方式の解説,(2)日本医科大学方式という3次元記録解析方法の解説,(3)三半規管反射と耳石器反射という生理的な反応の分析,(4)末梢性めまいと中枢性めまい,および前庭代償からなる。
 本書の素晴らしい点は,眼球運動を水平,垂直に加えて回旋運動記録を同時に示してある点である。普通のENGを見慣れている筆者にとって,興味深く,かついろいろ考えさせられる。特にoff vertical axis rotationの結果は興味がそそられる。
 コンピュータの画像認識技術を応用した3次元の眼球運動解析システムは,米,仏,独からも発売され,かつ毎年より精度の向上したものが発売され大いに注目されている。私の知る限りでは,八木聡明教授ほど,この方式を利用して,末梢から中枢まで徹底して追求している人はまだいないように思う。その意味でも本書は,この領域の世界でもユニークな新しいテキストである。若い世代の刺激になることが期待される。
B5・頁136 定価(本体7,500円+税) 医学書院


時代に即した臨床検査医学の標準的教科書

標準臨床検査医学 第2版 猪狩淳,中原一彦 編集

《書 評》河野均也(日大教授・臨床病理学)

 山中學,河合忠,宮井潔の3教授の編集で出版された『標準臨床検査医学』が,10年ぶりに猪狩淳,中原一彦両教授の編集のもとに全面改訂され,第2版として出版された。

学生教育の実情に即した記述

 現在,ほとんどの国,公,私立医科大学には臨床検査医学に関する講座(臨床病理学,臨床検査医学,臨床検査診断学,病態検査学,検査医学など)が設置され,医学部の学生に対する教育が行なわれている。しかし臨床検査医学に関する教育に割かれる時間は必ずしも十分なものとはいえない。近年の臨床検査の長足の進歩にともなって増加し続けている臨床検査医学領域の知識を,限られた時間内に修得することは至難なものとなっており,時代に即した標準的な教科書の出版が待たれていた。本書は初版と同様,日本臨床病理学会の定めた臨床病理教育カリキュラム試案との整合性をもたせるとともに,医師国家試験出題基準の内容も勘案して項目建てを行なうなど,主として医学部の学生を対象とした臨床検査医学に関する標準的教科書となることを目的として出版されている。
 第2版では執筆者が全員交代し,現在臨床検査医学の学生教育を実際に担当している新進気鋭の方々を中心に執筆陣は構成されており,この10年間の臨床検査医学に関する大幅な進展を的確にとり入れ,学生教育の実状に即した記述が明快かつ簡潔になされている。

医学生が卒前に身につけるべき知識

 全体の構成は,検査の基礎,検体検査,生体機能検査,核医学検査,および医療情報の分野に大別されている。これまでの臨床検査医学に関する教科書との大きな違いは,従来の教科書のほとんどに見られた検査技術を中心とした記述を避けた点であり,それぞれの項目ごとに,どのような生理的な意義があるか,何を知るための検査か,基準範囲,異常値と異常値を示すメカニズム,および異常値が認められた場合に次に行なうべき検査など,医学生が卒前に身につけるべき検査の適切な利用に対する知識がきわめて要領よく,コンパクトに記載されている。また,随所にわかりやすい図表が数多く使用されていることも特徴であり,きわめて理解しやすいものとなっている。したがって,本書は医学部の学生を対象に臨床検査医学の標準的な教科書となることを目的に出版されてはいるが,実地診療に多忙な研修医や実地医家にも診療の現場で利用できる書物として,また,臨床検査技師をはじめ,コ・メディカル分野においても臨床検査医学,臨床病理学の教育・診療に利用価値の高い書物として推薦したい1冊である。
B5・頁398 定価(本体6,500円+税) 医学書院


糖尿病網膜症のすべてを網羅

糖尿病眼科の臨床 福田雅俊,他 著

《書 評》岡野 正(東医大霞ケ浦病院教授・眼科学)

 この本は,長年わが国の糖尿病網膜症の診療や研究に指導的役割を演じてこられた福田雅俊,松井瑞夫,猪俣孟の3教授の分担による。本書は福田先生の生涯のテーマの集大成の1つで,その企画とまとめ役は福田先生であろう。“序”の中に記されている清水弘一教授は,周知のごとく本症の臨床的解明や治療の牽引的指導をされてきた。そのご執筆もぜひほしかったと,その薫陶を受けた者として残念であった。読み進むと,福田先生のポリシーが伝わってくる。その意味では,哲学的意向と情熱が紙面から受けとれる。
 内容は6章から成る。序,1章「網膜症の背景」,2章「網膜症が発症する理由」,3章「最近の話題」その1 内科的,全身的話題までを福田先生が,その2 眼病理学的話題を猪俣先生が担当。4章「眼科的治療」1.網膜症治療方針のための分類,2.光凝固の適応と実際,3.硝子体手術の適応と術式までを松井先生が分担。4.血管新生緑内障,5.糖尿病網膜症の薬物療法,および5章「網膜症の病期分類」6章「患者との対応」,“むすび”は福田先生の執筆。

糖尿病という全身疾患と眼

 ともすれば眼内の状況や治療だけにとらわれがちな眼科医に,1,2,および6章は,糖尿病という全身疾患と眼とのつながりをあらためて認識させる。この3つの章は,いわば福田論説としてきわめて重要で意義がある。将来を担う若い学徒は,この論旨を理解し,良識的かつ適切に対処してほしい。
 第3章の猪俣先生の眼病理学的話題は圧巻。特に眼内血管新生の項では,近年ようやく解明されてきた増殖性網膜症の元凶である血管新生の本態がわかりやすく解説されている。サイトカインの分野は,本症解明の重要な鍵となる領域。猪俣先生門下の業績も含まれ,読者は新しい知識を会得させてもらえる。この点でも本書入手の意義がある。これと猪俣先生の日眼特別講演論文(日眼101:906-926,1997)を併読すれば,眼内血管新生に関するサイトカインについて相当の知識が習得できる。
 第4章の眼科的治療の光凝固と硝子体手術は,松井先生の分担。門下の佐藤講師の影が窺える。文献から数字をあげ帰納法的に論述。演繹的記載より読書に忍耐を要するが,内外論文の要旨が手間暇かけずに得られる。ただし,先行発表が触れられず,せっかくの引用も文中に番号がないなど,文献整理の難しさを痛感させられた。光凝固や硝子体手術が普及した現在,術者によって流儀が異なるが,原則はあまり相違がない。この点で,細部には異論がある術者もいようが,臨床経験が深い松井門下の方法は標準的方式の一翼を担っている。
 また,前増殖網膜症の分類と前房フレア値での検索に蘊蓄が傾けられている。汎網膜光凝固途上での分割凝固後の前房フレア値上昇が2-3週で改善することは,凝固後の毛様体剥離がほぼ2週間以降で改善するというUBMでの報告(結城ら,1996)と併せて興味深い。分類に関する意見相違は福田先生の文中でも指摘があり,論点が明確なら読者の判断と理解を求める面があってもよい。

眼科臨床医が心すべき事態を具体的に指摘

 終盤の,治療での患者への説明や説得および患者教育や失明対策の項では,眼科臨床医が心すべき事態を具体的に指摘され慄然とさせられる。本書を敢えて企画した福田先生の懸念と焦燥が随所に読みとれ,身につまされる。先達の意見を後進の学徒は素直に受けとめるべきである。知識の習得だけでなくいろいろな意味で,ぜひ一読をおすすめしたい。
B5・頁200 定価(本体13,000円+税) 医学書院