医学界新聞

シンポジウム「新GCP完全施行前夜」開催

モデル病院の成果と今後の取り組みを報告


 さる3月14日,新GCP本格施行となる4月を目前に,新GCP推進委員会主催によるシンポジウム「新GCP完全施行前夜-モデル病院の成果と今後の取り組み」(司会=大分医大 中野重行氏,聖マリアンナ医大 小林真一氏)が,東京のシェーンバッハ・サボーで開催された。医師,看護婦を含めた医療従事者や製薬企業関係者など多数の参加者を集めた。
 冒頭に添田紘氏(厚生省医薬安全局)と水島裕氏(聖マリアンナ医大)が開会の挨拶を述べ,両氏ともに新GCP実施の重要性を訴えた。続いて司会の中野氏はこのシンポジウムの意義を「新GCP施行に向けて医療機関側の基盤整備における解決策を考えること」とし,シンポジウムが開始された。

新GCP適正運用推進モデル事業

 まず最初に,望月靖氏(厚生省医薬安全局)が,この日報告された聖マリアンナ医大と都立駒込病院で施行されたGCP適正運用推進モデル事業や,本年2月に,治験を円滑に推進するための検討会が置かれ,その中で治験支援スタッフ養成に関するワーキンググループを設置するなど,厚生省の取り組みを概説した。
 続いて青葉安里氏(聖マリアンナ医大)が,(1)適正運用推進モデル研究事業の概要,(2)治験協力費(協力者には1万円ずつ実費で渡す)に対する患者アンケート,(3)患者のリクルートのシステム,(4)治験の現況(モデル事業前と事業後を比較),(5)患者エントリーの迅速化の5点を報告。(1)では治験倫理委員会(IRB)編成や治験責任医師の適格性をみるため工夫や,インフォームドコンセントのためのビデオ作成などさまざまな試みを提示。治験専門外来を設置し,クリニカルリサーチコーディネーター(CRC)として専任の看護婦を採用したことで,治験を施行する上で大きく貢献したことを報告。治験費用については,経費は旧制度の3-5倍かかり,またモニタリングについては1時間7万円かかることを明らかにした。また(2)では「参加してよかった」との回答が7割,治験協力費は妥当とする意見がほとんどで,「参加の理由に協力費は関係したか」との問いに,ほとんどの患者がないと答えたことを明らかにした。患者へのインセンティブ(報奨金)についてフロアから,「WHOが示すように,治験参加によって患者に新たに加わる費用(交通費,食費など)はすべて負担すべき」との指摘があった。
 続いて,同時にモデル事業を行なった田中慧氏(都立駒込病院)が,自身が治験責任医師として行なってきた事業の概要を報告。治験事務局を設置して,さらにCRCとして看護婦と薬剤師1名ずつを採用し,標準作業手順書の作成などの準備を行ない実施に臨んだことを明らかにした。CRCの業務として「治験事務局としての業務と,治験チームの一員としてプロトコル検討,患者の治験の適格性の判断や良好な関係づくり,治験実施計画書のダブルチェックなど,2つの側面で行なっているのが現状で,今後検討が必要」とし,CRCが患者に対応する「外来治験相談室」設置を予定していることを述べた。さらに治験責任医師には「10年以上の臨床経験,治験と関係した分野の専門医であること」など必要な条件をあげた他,治験経費の算出法,IRB設置の問題点,インフォームドコンセントや同意文書のあり方について基盤整備に向けて多数の問題点を明らかにした。

臨床試験を適正に行なうために

 直接閲覧実施上の問題点を大橋和史氏(日医大臨床薬理センター)が,大学に設置された「モニタリング・監査検討班」の活動から口演。データ照合におけるワークシートの有効性を明らかにした。モニタリングの問題点として「照合に長時間を要する」点や,データの散逸が多いことから「原資料が何かをはっきりさせるためにはCRCの確保が必要」とした。また,直接閲覧の実際上の問題点として,逸脱事項への対処法を明確にする必要があるとし,チェックリスト作成の必要性を訴えた。直接閲覧による患者への人権問題にも触れ,「モニター側に知り得た情報を漏洩しないという人権保護の認識が必要である」とまとめた。
 続いて河合眞一氏(聖マリアンナ医大)が臨床試験の日米比較を行ない,「臨床研究」とは「最終的にアウトカムとして患者に役立つものをさすもの」で「治験」はその一部と,両者の概念の違いを指摘。さらに治験のシステムに触れ,アメリカにおいては「臨床研究にからんで起こるビジネス性の暴走を防ぐためにGCP,IRBが存在する」と示した。また,患者リクルートについては新聞,インターネット等で広告を出したり,患者リスト(データベース)からCRCが依頼して被験者を募る方法がとられていることや,被験者は医療費が無料とされるメリットがあることを紹介した。
 最後に井部俊子氏(聖路加国際病院)が,首都圏に勤務する看護婦453名を対象とした治験に関する実態調査の結果を報告。旧GCPで「全体の86%が患者さんからの相談など何らかの形で関わりを持っていた」とし,「看護職自身は治験に看護の果たす役割が大きいと認識していた」と結論。さらに今年の5月と10月に予定される日本看護協会主催のリサーチナース養成教育プログラムについて触れ,今後の協会の取り組みを明らかにした。