医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


看護教師の教育実践活動を支える手引書

看護を教える人への14章
ヴィクトリア スクールクラフト著/豊澤英子,他 訳

《書 評》黒田喜美子(国立病院九州医療センター附属福岡看護学校副校長)

 看護教育は質の時代となり,ますます,教師の力量が問われるようになった。多くの看護教師は煩雑な業務に追われつつも,常にレベルアップを模索する毎日である。教師の役割を果しているか,効果的な教授方法は,と試行錯誤し,悩み,手だてを求めている。

教育現場の問題解決に応える

 このような教師のニーズに見事に応えてくれたのが本書である。タイトルそのままに,看護教師に向けて教育現場で直面する教授活動の14項目について,実に具体的かつやさしく書かれた手引書である。翻訳本だから私たちの日常と異なるかと思いきや,教師生活のすみずみまで見られているような共感を覚えたり,反省したりするうち,問題解決の光明を与えてくれる。
 本書の構成は,(1)臨地実習の目的と展開,(2)実習指導の実際,(3)学習契約の実際,(4)グループ学習の方法と指導,(5)講義の計画と実施,(6)セミナーの計画と促進,(7)コースの設計と実施,(8)教科書および課題図書の選定,(9)主要な課題の設計と成績評価,(10)副次的な課題の設計と成績評価,(11)テストの作成と分析,(12)コンピュータ活用の実際,(13)自己学習の方法と指導,(14)学生の文章表現力を高めるための援助,の14章からなっている。
 カリキュラムの要素である臨地実習,講義評価の文献は多いが,本書は日頃頭を痛めているグループ学習やセミナーの指導方法,さらに理論的な教授活動を軽視しがちなレポート指導や自己学習,教科書・参考書の選定にまで言及したものとなっている。著者が序文で「あなたの教育実践を勇気づけ,教師としての役割を果たせる」と述べておられるように,長年の教育経験を踏まえて,後に続く教師への行き届いた心配りが感じられ,心強い。

教授活動の実際を具体的に詳述

 本書の特徴は,各章ともに「目標」「手段」「指導のポイント」「まとめ」で構成され,系統的に整理されていることである。グループワークの時間割,演習の設計,レポートの評価基準,シラバス形式等,要点は的確な資料で提示してあり,活用しやすい。困ったとき,迷わず手にしたくなるような現場の教師向きとなっている。さらにほとんどの章で文献紹介がなされているため,教育理論の根拠づけやテーマを深めることができる。指導のポイントでは具体的な指導例が必ず添えられてあり,非常に理解しやすく体験を踏まえた価値ある内容となっている。
 全体を通して,学習の主体は学生であり,教師は学習を支援する存在であるとの教育観が貫かれ,教師としてのあるべき姿に多くのヒントを与えてくれる。まさに初心者にとっては丁寧なガイドブックであり,ベテランの教師にとっては真髄に迫るバイブルといえる。バックに入れて持ち歩きたくなる手触りが嬉しい。
A5・頁256 定価(本体2,800円+税) 医学書院


当事者の地域復帰・自立生活の広がりに期待

地域生活支援のSST 八木原律子,他 著

《書 評》本間玲子(前サンフランシスコ精神保健部長)

診療報酬化されたSST

 アメリカでは1970年代頃から精神障害を持つ当事者たちの社会復帰を積極的に援助するために,SST(Social Skills Training)が受け入れられるようになりました。
 SSTはそれまで精神障害で入院した患者が,伝統的な医療的精神療法ではなかなか満足な社会復帰ができない点を認め,それに代わって日常の社会的生活を送る際必要な技術の具体的な訓練,習得を強調する学習,行動療法として開発されたものです。
 日本でも最近SSTが診療報酬化されましたが,それによって日本での精神障害者の治療,リハビリが大きく前進していくことと思います。私も日本で東京のJHCグループや新潟県の常心荘病院などでSSTを実際にやっておられるところを見学させていただきましたが,当事者や患者さんが生き生きと参加しておられるのを見て,心強く思いました。

いかにSSTを取り入れるか

 『地域生活支援のSST』は東京で当事者の自立生活援助に目覚ましい活躍をしておられるJHCグループ各施設のリーダー,およびその協力者の方たちによって書かれたものですが,これからSSTを取り入れようとしている施設,専門家,そして当事者に貴重な資料となると思います。主に退院後の自立生活,作業,就労の場や,セルフヘルプグループ等で行なわれているSSTを例として,具体的なケースを入れながら,くわしく説明してあり,これを読むと,日本で色々な所で,どのように応用が可能であるかということがよくわかってきます。
 第1,2章でSSTの原則,自立生活との繋がりについての説明がされた後,第3章からはSSTに入るウォーミングアップに使われるエチュードとか,リビングスキル,職業生活に必要なスキル,また各所で実際に行なっているSSTについて具体的に紹介されています。その中には地域で自立して,日常の生活を進めていくための基本的生活習慣の改善方法についていろいろなケースがあげられています。
 例えば挨拶の仕方,会話の進め方,好感がもてる話し方,言葉遣いについて,電話の応対,身だしなみについて等,慢性の障害を持った当事者には苦手な対人関係を,ロールプレイを豊富に導入して練習することが紹介されています。
 そのほか当事者が生活で困った時の解決方法,就労能力の強化,お客様との応対,名刺の使い方,作業の手順,アイロンのかけ方,金銭管理,余暇の過ごし方,服薬,症状自己管理についてといろいろな問題を検討し,各個人が自己決定で,適切な解決方法を作り上げていくような援助の仕方も紹介されています。
 先日,日本からサンフランシスコに来られたグループの研修のお世話をする機会に恵まれましたが,それに当事者の方2人が参加しておられました。その方たちは,過去いく度にわたる入院を繰り返された後,外来の治療を受けながら,セルフヘルプグループに参加したり,SSTの勉強をされたりして,地域での自立生活に成功されているということでしたが,これからもっとこのような資料を通して,SSTが広く紹介され,当事者の地域復帰,自立生活が広がっていくことを期待しています。
A5・頁186 定価(本体2,200円+税) 医学書院


看護婦・看護学生の力強い味方

看護診断に必要なヘルスアセスメント
P. A. ポッター著/大石実,大石加代子 監訳

《書 評》稲光禮子(東海大医療短大教授)

質の高い看護実践のために待ち望まれた書

 本書は,パトリシア・A・ポッター(RN,MSN)による“Pocket Guide to Health Assessment”の訳本である。患者の健康状態をアセスメントするために,臨床看護婦だけでなく,学生にも理解できる内容で,大いに活用できる本である。
 本書の特徴は,まず,手軽に持ち運びができるコンパクトサイズであることがあげられる。これまでにも,いくつか看護診断のためのフィジカルアセスメントの本が出版されているが,学生にとっては理解しやすいが,いざ臨床で活用するには内容が不十分で,さらに別の本が必要になったり,あるものは内容が高度すぎて学生には理解が難しいと思われた。そして,いずれも大判サイズで持ち運ぶには不便であった。
 看護診断がわが国にも紹介され,質の高い看護実践が求められているが,それは,患者の健康状態をいかに的確にアセスメントできるかにかかっている。そういう点で,この本は待ち望んでいた本であると言えよう。

驚くほど豊富な内容と効率的な学習のための配慮

 本書は3部構成になっており,第1部はヘルスアセスメントの意義,看護歴収集のためのモデル・心理社会的アセスメント,視診・聴診・触診・打診などの技術の解説など,ヘルスアセスメントの全体像が理解できる内容が盛り込まれている。
 第2部ではバイタルサインのアセスメントが解説されている。「体温」を例に見てみると,まず,正常な体温の定義,熱の産生と放散のメカニズム,生理的変動因子が解説され,体温をアセスメントする目的,発熱患者のアセスメントの項目と,そこからどのような診断名が考えられ,どのような看護ケアが必要かが関連づけて展開されていくのである。つまりこの本は,看護アセスメントに必要な解剖生理・病態の知識が看護の視点で1冊におさめられているのである。一読した読者はその内容の豊富さに驚かれるのではないだろうか。
 また,従来の検温方法に加えて,今後日本で普及してくるであろう鼓膜での体温測定まで,その利点と禁忌,測定方法が詳しく解説され,体温測定に関して患者に教育するべき内容,小児学的,また老年学的に考慮すべき事項までおさえられている。
 本書でバイタルサインのアセスメントを学習することで,看護婦や看護学生は,これまでになく効率的な学習が期待できる。
 第3部は身体系統のアセスメントで,外皮から神経系までの15項目のアセスメントに必要な知識が網羅されている。内容は第2部同様に,解剖生理はもちろん,何をアセスメントすべきか,正常所見はどのようなものか,患者に何を質問しなければならないかがまとめられている。また,豊富な図表や,アセスメントしている場面の写真も随所に挿入され,視覚的な理解を促す工夫がされている。
 この本は,看護婦や看護学生がヘルスアセスメントを行なう時に,力強い味方となることは疑いないであろう。ぜひ,ご自分で手にとって確かめていただきたいと思う。
A5変・頁384 定価(本体3,500円+税) 医学書院MYW