医学界新聞

第1回「NANDA,NIC&NOC大会」に参加して

木村 義 (NEC文教システム事業部)(E-mail:kimura@elsd.nec.co.jp


第1回大会開催の背景と成果

 昨(1997)年11月7-9日の3日間,米国イリノイ州セントチャールズで行なわれた第1回「NANDA1),NIC2)&NOC3)大会」に参加の機会を得たので報告する。

開催の背景

 本大会は,NIC/NOCを作成したアイオワ大学とNANDAが共通の場を持つこととして開催された。
 1996年に米国ピッツバーグで開催されたNANDA第12回大会では,アイオワ大学のメンバーが精力的な発表を行なった。特にNDEC4)に至っては,アイオワ大学が自らの看護診断定義を提案し,単なる看護診断のみならず介入と目標の分類という看護全体に広がる提案を行なった。「このままでは,ゆくゆくはNANDAの定義もNDECにとって代わられるかもしれない」と感じたのは筆者ばかりではないと思う。
 今回の大会も,実はNANDA側からアイオワ大学のCNC5)に働きかけて実現した大会である。大会冒頭でNANDA会長のジュディス・ウォーレンは,「NANDAは資金が少ないので,より充実した研究・開発を促進するには資金量に勝るCNCに頼らざるを得なかった」と発言している。これに対しアイオワ大学のNICの代表者であるジョアン・マクロスキーは,「今までにNANDAから受けた多くの恩恵はこの連携によってもなお余りある。できればお釣をお返ししたいほどである」と発言し,盛大な拍手を受けていた。
 NANDAは,米国を中心とした看護診断に関係する多くの機関を代表した組織であり,看護診断を使う看護婦全体の標準と言えるが,それゆえに調整に時間と労力がかかり資金が乏しい。一方でアイオワ大学は,NIH6)などから多額の資金を得て,かつ精力的な開発を行なっているものの,やはり1つの大学にすぎない。NIC/NOCを含め多くの機関,施設で受け入れてもらわなければ意味がなく,NANDAとの提携でその道がつけられる機会を得たことになる。つまり,両者の利害関係が一致した結果とも言える。

大会の目的と成果

 本大会の目的は,主にNANDA,NIC/NOCの使用を促進することにある。そして,この大会においては以下のことが提案され,今後の活動のベースとして確認された。
 すなわち,(1)NANDA,NIC/NOCの開発者たちとともにネットワークを作る機会を探ること,(2)2年ごとに定期的に開催すること,(3)いろいろな看護実践について議論し,また教育におけるいろいろな実践を分析すること,(4)言語の開発と使用に関する雑誌の発行,(5)標準化言語を使用する上でマネージドケアの影響と他のヘルスケアがもたらす変化について明らかにすること,(6)未来戦略と成し遂げられるであろう作業のアウトラインを描くこと,の6点である。

参加者の顔ぶれ

 大会参加者は,主催者側発表で300名以上,後日送られてきた名簿では350名が登録されていた。しかし招待者も数名いたために,実際にはその数を上回る参加者が一堂に会したわけである。NANDA第12回大会は300名程度が参加していたが,それよりも若干多めの参加数であった。参加国も多彩で,米国,カナダ,フランス,オランダ,ブラジル,ノルウェー,英国,日本,プエルトリコ,と記録されているが,アジアからの留学生(香港,台湾,韓国)も数名いたので,国際色は豊かであった。日本からの参加は,岡山中央病院の3名と筆者だけであった。これだけ世界が注目している大会に,日本からの参加者が少なかったことは残念であった。

看護用語の標準言語化をめざして

コンサルテーション

 大会前日に予約制のコンサルテーションとQ&Aが設けられた。会場は3つに分けられ,それぞれに2人ずつ対応していた。その3つとはNANDA,NIC,NOCである。1人当たり15分の予定であったが,時間帯によっては1時間以上も対応しているケースもあった。特にNANDAの部屋では,複数のメンバーが同時に集まったために自由討論形式になってしまった。
 ここで注目すべきことは,米国内の教育者が看護診断を教えるに当たっての悩みや疑問,質問を投げかけるのに対して,逐一ていねいにアドバイスをしていた点である。質問者は,「学生にクリティカルシンキングを教えることは難しい」,「看護診断ラベルが使いづらい」,「社会の変化の速さに追いつかない」などと訴えていた。これは1人が質問をしていたのではなく,複数の人たちが言葉は違えながらも同様の悩みとして訴えていた。
 これに対し回答者は,「教育者のあなたがもっと理解を深める必要がある」と諭すようにしながらも,「看護診断もまだ開発の途上にあるから曖昧な点は多々あるであろう。しかし25年にわたる研究者たちの仕事は決してむだではないはず。1つひとつ慎重に吟味すれば自ずと道が開ける,ぜひこの大会を通して多くのヒントを持って帰りなさい」と語りかけていた。比較的若い教育者が質問をしていたのだが,看護診断の発祥の地であり先進的な教育が行なわれている米国でも同様に悩む姿は,未熟な筆者には安心感を与えるものであると同時に励みにもなった。日本の看護婦たちも,米国の看護婦たちも同じ土俵で闘っているという感があり,もっと胸を張って世界の場に出てほしいと感じた。

標準言語化

 本大会の隠れたテーマは,看護用語の標準言語化である。NANDAも1989年にタクソノミⅠをICD7)へ提出したが,ICD-10には採択されなかった経緯がある。理由は筆者にはわからないが,NIC/NOCを含めた標準言語化は主催者側の悲願のようである。まずSNL8)として体系化しUNLS9)への登録をめざす。UNLSはすでにUMLS10)へ登録済みであるので,UNLSへの登録が実現すれば自動的にUMLSとして使用される。これらのシステムはコンピュータによって検索可能なデータベースとして運用管理される。NANDAとNICはすでにUNLSへ登録済みなので,NOCと合わせてSNLとして再登録することのようである。

多言語化と多職種化

 本大会で頻繁に使われたキーワードとして,「Multilanguage」と「Multidisciplinary」をあげなければならない。それぞれ多言語化と多職種化(チーム化)とでも訳すのだろうか。NANDAもNIC/NOCも使われなければ意味がないわけだからであろう。しったがって各国語に訳され,チームでの使用に耐える普遍性が求められることは言うまでもない。
 また,今さら言うまでもないことと一蹴されてしまいそうだが,これまでの研究者のレベルから今後はまさに臨床現場の実用レベルに移されたと言える。医療における職種の多様化,国際化を意識すれば,21世紀に向けて新世紀への入口として位置づけられるこの時期に,本大会が開催された意義は大きい。これらの分類の何が使われ,何が廃れ,何がよくて,どこに矛盾があるのかが,これから臨床の現場で検証されていくであろう。

本格的な実用レベルとして臨床現場に還元

ライセンス

 マクロスキーは,NIC/NOCのライセンスについて次のように語った。「NIC/NOCは今後,臨床の現場で多く使われるに違いない。今後の研究の発展のためにも多くの資金が必要だ。NIC/NOCはNIHや他の機関から高額の研究費を引き出しているが,これらの分類の維持管理にはまだまだ多くの金がかかる。NIC/NOCの出版およびソフトウェアへのインプリメントに関してはライセンス料を要求する。研究目的は別として電子化も同様である。ライセンス料はすべて50%である」。
 この50%の意味がよくわからないが,出版社のMosby社が間に立っていることからすると,表示価格または導入価格の数%がライセンス料で,その内50%はMosby社の取り分となり,残りの50%はNIC/NOCの事実上の管理者であるアイオワ大学のCNCに入ると考えられる。

おわりに

 本大会を受けて,25周年を迎えるNANDAの第13回記念大会が,本年4月22-26日まで,看護診断発祥の地であるセントルイスにて開催される。NANDAはNIC/NOCと手を結びながら,新たな世紀への一歩を踏み出すことになるであろう。筆者もこの記念すべき大会に参加登録した。これから何が変わるのか,臨床現場の叫びから生まれ,研究室レベルで育てられた分類が本格的に実用レベルとして,再び臨床の現場に還元されていくその様を,じっくりと注目していくつもりである。
 再度機会が与えられれば,ホットなニュースとして報告したいと思っている。


〔参考:略語一覧〕
1)NANDA(North American Nursing Diagnosis Association:北米看護診断協会
2)NIC(Nursing Intervention Classification:看護介入分類
3)NOC(Nursing sensitive Outcome Classification:看護成果分類/患者目標分類
4)NDEC(Nursing Diagnoses Extension Classification:看護診断拡張分類
5)CNC(Center of Nursing Classification:アイオワ大学看護分類センター
6)NIH(National Institute of Health:米国立衛生研究所
7)ICD(International Classification of Diseases:国際疾病分類
8)SNL(Standardized Nursing Language:標準化看護言語
9)UNLS(Unified Nursing Language System:統一化看護言語体系
10)UMLS(Unified Medical Language System:統一化医療言語体系
※これらの分類が,インタネットのホームページで参照できるようになっている。そのアドレスを記載しておくので興味のある方は参照されたい。
アイオワ大学http://www.nursing.uiowa.edu/
デューク大学=http://nelle.mc.duke.edu/standards/termcode/codehome.htm