医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


糖尿病網膜症の診療のすべて

糖尿病眼科の臨床 福田雅俊,他 著

《書 評》安藤文隆(国立名古屋病院・眼科)

 糖尿病はわが国の成人病検診の対象になって久しく,最近では40歳以上の人口では10%を超える罹病率で国民病とまで言われるに至っている。この患者数の増加に伴い,その合併症の1つの糖尿病網膜症も増加の一途をたどっている。この現状に合わせて,厚生省は「糖尿病調査研究班」を平成元年に発足させた。その中の糖尿病網膜症のグループは内科医と眼科医が約半数ずつで構成され,基礎的な研究にも配慮されていた。その研究班で討議された内容の一部を盛り込んで書かれたのが本書である。

新しい話題を提供

 糖尿病や糖尿病網膜症の疫学から始まり,網膜症の発症や進行の危険因子,防止法などにつき,仮説を含む種々の新しい学説がわかりやすく説明されている。そして,病理学的な話題が猪俣先生により展開される。眼内の血管新生が素晴らしい組織標本で示されると同時に,最新の眼内血管新生因子の解説で読者は納得させられる。平易な文章で,必要な事実のみから組み立てられたストーリーは非常に理解しやすく,一気に読み終えられるが,引用文献も豊富で,非常に参考になる読み物になっている。
 続いて網膜症の治療について解説されるが,治療の要・不要,治療法の選択は病期により異なるため,まず網膜症治療方針設定のための分類について述べられている。そして,病期別の種々の治療法が具体的に述べられているが,特に光凝固法は最も重要な治療法であり,その適応の時期,方法など,研究班で討議された最新の結論が示されている。これから糖尿病網膜症に対する光凝固治療を勉強しようとしている眼科医はもとより,日常治療を行なっている経験者にもお勧めしたい。

網膜症の病期分類

 本書でもう1つ興味のあるのは網膜症の病期分類が,それぞれの異なる見解を持つ2人の著者で堂々と論議されていることであろう。それぞれ言い分はあり,全く納得できないわけではないが,これらの病期分類はあくまでも治療方針決定のためのものでなければならないと思われる。治療方法,検査法は時とともに進歩し,より安全で確実な方法に変っていく現実を見れば,網膜症の分類もまた自ずと少しずつ変っていくのが当然で,本書に見られる見解の相違もその一端と思える。ぜひ一読を勧めたい。
B5・頁200 定価(本体13,000円+税) 医学書院


インターベンションの臨床から病理までを網羅

Coronary Interventionの臨床と病理 野々木宏,他 編集

《書 評》西山信一郎(虎の門病院循環器センター・内科)

 Gruntzigが1977年に初めてPTCAを施行して以来20年が経過するが,この間,ハードウェアの著しい進歩と技術の向上により以前は禁忌と考えられていた病態,病変にも適応が拡大されてきた。現在ではステント,DCA,TEC,ロータブレーターなどさまざまな新しい器具(new device)も登場し,PTCAをはじめとするインターベンション療法は虚血性心疾患の治療の主体をなしている。特に本邦においては内科治療,CABGに比較してインターベンションの施行件数が圧倒的に多く,その是非が問題となっている。

日本のインターベンションを学ぶ絶好の書

 このたび,国立循環器病センターの野々木,宮崎,由谷先生の編集になる『Coronary Interventionの臨床と病理』が出版された。序にも書かれているように,GruntzigがPTCAを始めたまさに同じ年に国立循環器病センターが設立されたとのことであり,この時期に本書が出版されたことはわが国におけるcoronary interventionに関する考え方の変遷と成績を学ぶうえで絶好の書といえよう。
 本書はいわゆるインターベンションのテクニックだけを解説したものではなく,インターベンションの基礎知識を歴史から説き起こし,また実際的な方法についてもPTCAはもちろんのこと,new deviceから外科治療,それも最近話題のMIDCABまで紹介している。さらに各治療法の成績についても短期,長期ともに自験例ばかりではなく最新の欧米の多施設共同試験の結果も解説してあり,さらには今後わが国でも問題になるであろう医療経済の面からみた各治療法の成績も比較されており参考になる。また粥腫の破裂,再狭窄,vein graft diseaseに関するカラー写真もきれいで病理所見も充実しており,まさに外科治療まで含めたインターベンションの臨床から病理までがすべて網羅され,臨床医にとって理解しやすいよう工夫されている。

インターベンションの適応を詳述

 特筆すべきはわが国ではおろそかにされているインターベンションの適応について項目を設けて詳しく述べている点であろう。このことは「PTCAの実際-症例提示」の項目を読むと,1例ずつインターベンションを選択するまでの過程が書かれていることからも理解され,いかにスタッフの先生方が個々の患者に対して良心的に取り組まれてきたかが手に取るようにわかる。これからインターベンションを始められる若い先生方,またテクニックは身につけたが日頃インターベンションの適応に疑問を抱いている先生方にぜひ参考にしていただきたい点である。このほか重要と思われる文献は1997年の最新のものまで引用されており,読者には参考となろう。また英語の綴りの単純なミス以外は誤字脱字がきわめて少ないことも特筆されよう。
 ただし複数の筆者によるもので致し方ないかとも思うが,再狭窄と血栓溶解療法などいくつかの項目に関しては重複がみられる箇所があり,今後検討していただければと思う。
 本書は国立循環器病センターの内科,外科,病理が一体となった設立以来の経験の積み重ねから生まれたものであり,まとめあげられた編者の先生方のみならず,開設以来関わられたスタッフ一同に深い敬意を表する次第である。本書が虚血性心疾患の治療に携わる1人でも多くの医師に読まれることにより,インターベンションが適切に運用され,国立循環器病センターの貴重な経験がより多くの患者に還元されることを願っている。
B5・頁204 定価(本体10,000円+税) 医学書院


若い外科系医師に必須の1冊

外来診療・小外科マニュアル 「臨床外科」編集委員会(編)

《書 評》山本英司(中野共立病院・外科)

 ある当直の夜のことである。都内A病院に定期通院中の患者が,腹痛を主訴に当院受診を希望した。ちなみに,A病院は外科,内科,婦人科,眼科,耳鼻科の外来と病棟を持つ120床規模の病院で,当直医は1人体制であった。電話では入院治療が必要そうだったが,当院は満床なのでA病院受診を促したところ,患者はすでにA病院に受診の問い合わせをしていた。その日の当直医が外科医師ではなく(内科医師でもない),腹痛は診察困難とのことであったそうだ。結局その患者は当院を受診したが,入院適応ではなく,診察,治療後に帰宅した。
 A病院には外科,内科患者も入院しており,夜間救急の代表ともいえる腹痛の患者を診察できない医師が当直していることを知り,大変驚くとともに憤りを感じた。もし入院中の患者が腹痛を訴えたなら,その医師はどうしたであろう。他院受診を指示するのであろうか。この出来事は,この医師が自分の力量では診察できないと判断して診察を他医に委ねたということで,結果的には患者にとってはよいことであったと評価されるべきであろうか。
 大学病院や全科そろっている病院では,前述のようなことは起こらないだろうが,大多数の病院では全科の医師が当直しているというのはあり得ない。しかし,患者はまず,かかりつけの病院や主治医を頼りにして相談してくるのが普通である。ある医師が「自分の専門外であるから診察できない」というのでは,その医師が当直のときなど安心して患者を任せられない。
 しかしながら,1人の外科医がすべてのことに精通しているということもあり得ない。むりに自分1人で慣れないことをして,結果的に患者に不利益を与えるようでは最初から手を出さないほうがまだましである。せめて外科系の疾患の患者の診察,治療,応急処置,適切な病院への紹介などは,主治医として,または当直医として最低限の責任であり使命である。

日常外来で遭遇する疾患をまとめる

 この『外来診療・小外科マニュアル』であるが,外科,脳外科,形成外科,整形外科,耳鼻咽喉科,皮膚科,眼科,泌尿器科,小児外科,そして内科の臨床で活躍しておられる先生方が,体の部位別に,日常の外科外来や外科系当直で遭遇する疾患について1疾患を2-4頁にまとめている。どの疾患も「診断」「治療」「Dos&Don'ts」というように形式が統一されていて,非常に読みやすく(調べやすく)なっている。ただ,この本が1冊あれば,この本で網羅した疾患についてすべてのことがわかるわけではなく,項目の最後にある文献を参考にしてさらに調べることが必要である。
 経験の浅い外科医が外来で1人立ちするとき,また外科系の疾患すべてに対応することが期待される病院で当直するときは,誰もが不安な時間を過ごす。しかし,本書を片時も離さず診療に当たれば,経験豊かな先輩医師がそばにいるとまではいかないが,かなりの安心感が得られると思う。特に若い外科系医師には必須の1冊だろう。
B5・頁376 特別定価(本体7,800円+税)「臨床外科」第52巻11号(増刊号) 医学書院


最新の知見を取り入れた皮膚科学教科書

標準皮膚科学 第5版 池田重雄,他 編集

《書 評》田上八朗(東北大教授・皮膚科学)

 皮膚科学が他の分野の臨床医学と大きく違い,また,近づき難くもしている点は,けた違いに多い疾患の数とカバーする範囲の広さである。目で見える臓器である皮膚の変化を,ひとたび気にして患者が訪れてくれば,医師はなんらかの病名を付け,治療の必要の有無は別として対処せざるを得ないからである。
 さらに,皮膚科へのアプローチを難しくしているのは,肉眼的,病理組織学的に止まらず,多岐にわたり,統一性のない見地で命名された疾患名にあふれていることである。ホクロ,ニキビ,ミズムシなどの日常的な皮膚疾患の日本語病名ですら,色素性母斑,座瘡,足部白癬であるように,ほかの医学用語の体系で,まず出会わないめずらしい漢語が羅列している。そのため,教える側も理解を得るために神経を使い,学習する側もとまどいが多い科目である。
 1人の著者が執筆した皮膚科学の教科書は,全体として著者の奏でるテーマにそって読者が引き上げられていくことも可能であるが,著者の得意としない分野の記載に物足りなさが出てしまう欠点がある。一方,多くの執筆者の参加でできあがった本は,それぞれが得意の分野を扱い手抜き部分は少ないが,全体の統一性に欠ける欠点がともなう。

洗練された教科書

 そういう目で『標準皮膚科学』(第5版)を手にしてみての印象は,3人の編集者の満遍なく配慮のいきとどいた,洗練された教科書であるということに尽きる。次々と,執筆者だけでなく編集者も交代し,常に新しいアイデアが加えられ,数年で版を改め,進歩を取り入れる努力のもとに作られてきた結晶と言えるであろう。あえて,さらに贅沢な要求をするならば,総説の部分では詳しすぎるくらいに基礎的な事項の記載がされている一方,それを受ける各論での疾患の発症機序の記載には,やや物足りなさが残る,歴史的でしかない皮膚の薬理学的検査の記載のある一方,近年急速に発展した機器の診断への導入の記載が不十分である,執筆者間での文献の選択基準が統一性に欠けるなど,将来に改善の希望もあげておきたい。

臨床の場で必要十分な知識を網羅

 一見,初心者にとっつきにくい皮膚科学も,ひとたび臨床の場で接すると病変が直接観察でき,ユニークな臨床所見の生ずる背景も,病理組織学的レベルまでは容易に迫れるため,論理的な理解もしやすい医学分野である。本書には,「標準」という冠名がついているように,研修医が臨床の場で用いても,十分,必要な皮膚疾患が幅広く網羅されている。さらには巻末で,冠名疾患,冠名症候群の詳しい記載もあり,百科事典的機能まで備えている一方,医学生の理解に資するように,本文中には,学習のポイントがあげられ,わかりやすく要点がまとめられていることや,ブルー(色)頁では,皮疹さえ的確に把握すれば,診断にいたるポイントが簡潔に表示されているなど細心の配慮がなされており,1983年の初版発行から,15年間,本書が高い人気を誇ってきた秘密も理解できる。豊富な内容にくらべ,値段は学生にも手頃であり,広く推奨したい教科書である。
B5・頁620 定価(本体7,800円+税) 医学書院


胸部画像診断をプロセスを踏まえて学ぶ

フィルムリーディング(3)胸部 池添潤平 編集

《書 評》土井 修(聖路加国際病院・放射線科)

 胸部の画像診断は従来,単純X線撮影を中心に行なわれ,補助的に断層撮影が多用され,必要に応じて気管支造影や血管造影が行なわれていた。
 その後のCTの進歩と普及が,一時停滞していた胸部の診断学を飛躍的に進歩させた。特に薄層の高分解能CTは2次小葉レベルの診断学の導入を可能とし,macroからsubmacroの病理組織と画像との対比が可能となり,肺癌をはじめとする限局性肺病変や縦隔腫瘤ばかりでなく,数が多く,難解なびまん性肺疾患の画像解析に大いに役立っている。また,逆にCTの情報が還元されて単純写真の読影に深みが増すと同時に,読影力の向上に寄与している。一方,最近の超音波断層,MRI,ヘリカルCTの普及は心大血管疾患の診断学を大きく前進させている。

フィルムリーディング・セッションを再現

 本書は放射線学会やその関連画像診断学会で頻繁に行なわれ,常に多数の参加者を集めている「フィルムリーディング・セッション」の内容を再現する目的で作られたシリーズの胸部編である。本書の内容は大阪大学医学部とその関連病院の症例の集積で成っているが,大阪大学放射線医学教室は立入弘教授以来,日本の胸部画像診断を常にリードしてきた代表的な施設であり,執筆者の顔触れは毎年のように学会で新しい話題を提供してくれる方々である。
 100例に近い症例が呈示されているが,心大血管疾患を含めて,広い範囲の呼吸器疾患をカバーしており,バランスよく構成されている。目次は読者が取り付きやすいように,症例を考えるkeywordsで分類されている。構成は「フィルムリーディング・セッション」の時と同じように,まず年齢,性別,主訴の簡単な臨床情報と画像の呈示から成っており,解答欄では画像所見の記述と鑑別診断の進め方にポイントが置かれている。すなわち,与えられた画像から重要な所見,意味ある所見の取り出しに重きが置かれており,簡潔に記載されている。さらに臨床情報を踏まえながら,論理的に鑑別診断を展開し最終診断に結び付けることを企図して書かれているが,執筆者の各々の分野での経験の豊かさ,造詣の深さが感じ取られる。

自分の現在の力を知る

 心疾患については超音波断層像が診断に必須となることが多く,慣れない読者にとってはやや難しく,抵抗があるかも知れないが,避けて通れないものである。解答欄最後の枠に囲まれた疾患に対する豆知識を読むのも楽しいし,なかなかためになる。
 胸部画像診断を勉強している方々には,自分の現在の力を知り,知識をまとめ,鑑別診断の進め方を学ぶ,お薦めの書である。
B5・頁216 定価(本体6,500円+税) 医学書院


神経学を学ぶ人のために

Principles of Neurology 第6版 R. D. Adams,他 著

《書 評》岩田 誠(東女医大脳センター教授・神経内科学)

新しい著者を迎えた名著の改訂版

 米国なら,どんな駆け出しの神経内科医でも,レイ・アダムスの名前を知っている。それはもうほとんど神話の世界に属する名前である。私にとっても,それはもう30年以上前からの既知の名前であった。学生時代に,私が内科の教科書として買ったのは,丸善から出されていた,Harrisonの教科書『Principles of Internal Medicine』のアジア版だった。その最初の部分は内科症候学であるが,その神経症候学の部分を書いていたのがレイ・アダムスであり,その明解でオーソドックスな記載は大変わかりやすかったため,その後神経内科を専攻したいと思った時,神経症候学の教科書として真っ先に勉強したのはこの教科書だった。
 今回書評としてここに取りあげることとなった『Principles of Neurology』は,1977年にこの教科書の中のAdamsの書いた部分にVictorが書き加えて,1冊の神経内科学の教科書としたものが始まりである。ちょうど私がしたように,彼の書いた部分のみを読もうという読者が多かったために,Harrisonの教科書から独立させたものであろう。今回出版されたものはその第6版であり,Allan H. Rropperが新しく著者として加わっている。

精神科,心療内科領域をクローズアップ

 本書は,総頁数1500頁を超える大著であるが,その約1/3は症候学を扱っている。この部分こそがこの書物の原型であり,最も読みごたえのあるところである。ここは,運動障害,痛みと感覚障害および頭痛・腰痛,特殊感覚の障害,てんかんと意識障害,知能・言語障害,そして不安・情動障害・自律神経内分泌系障害の6つのセクションからなり,それぞれのセクションは,さらに4-5の章に分かれている。
 この書物における神経症候学のテーマの分け方はかなり斬新,かつ大胆なものである。例えば,通常の症候学では脳神経系の中で記載される眼球運動や瞳孔異常の症候学が,特殊感覚の障害のセクションの中で,視力障害の次の章として扱われていたり,神経科や心療内科にかかわる部分が1つのセクションとして大きくクローズアップされていたりする点は,他書にない特徴であろう。
 しかし一方で,この症候学の部分には脳神経の症候学の記述がほとんどなく,これらは後半の疾患の部にある末梢神経疾患の章で扱われているため,症候学の部分だけを読むと,例えば球麻痺と偽性球麻痺,あるいは上位運動ニューロン性と下位運動ニューロン性の顔面筋麻痺の症候学などが脱落しているかのように思われてしまう。
 また,わが国とは用語の使用法や神経機構の概念が異なっている点も,読者には注意が必要であろう。例えば,脊髄前角の運動神経細胞は,わが国では普通2次運動ニューロンと呼ばれているが,本書の運動障害の冒頭には,これを1次運動ニューロンと呼ぶと記載されており,初心者には混乱を与える可能性がある。また,同じ章の図3-2では,大脳皮質前頭眼野からの下行性運動路が直接動眼神経核に至っているように描かれているが,これもわが国で一般に記載されている内容とは異なっている。
 このように,いささかびっくりさせられる箇所もあるが,名著といわれる書物は,いつになっても常に新しい装いをまとってわれわれの目の前に現れるものであるということを,頁を繰りながらしみじみと感じた。
1618頁 1997年 12,640円 McGraw-Hill, New York 日本総代理店 医学書院洋書部