医学界新聞

“技術,経験と科学”をテーマに

第51回日本消化器外科学会総会 開催


 第51回日本消化器外科学会総会が,鈴木博孝会長(東女医大消化器病センター教授)のもとで,さる2月19-20日の両日,東京国際フォーラムにおいて開催された。
 「技術,経験と科学」をテーマに掲げた今学会では,会長講演「胃癌外科治療のあゆみ」の他,多田富雄氏(東京理科大生命科学研究所長)による招待講演「超(スーパー)システムとしての生命」や,中村恭一氏(東医歯大),加藤洋氏(癌研),中野雅行氏(千葉大),渡辺英伸氏(新潟大),笠島武氏(東女医大)らによる特別講演「消化器癌における初期病変の臨床病理(食道・胃,大腸,肝,胆・膵,間質)」の他,シンポジウム,ビデオシンポジウム,パネルディスカッションがそれぞれ6題,ワークショップ5題,ビデオセッション89題,口演487題,示説973題が企画された。


会長講演「胃癌外科治療のあゆみ」

 会長講演「胃癌外科治療のあゆみ」で鈴木氏は,6000余例におよぶ30年間の自身が経験した胃癌症例を分析し,その過去と現在から今後の治療法を再検討した。
 対象とした症例はほぼ術後5年以上の経過を観察しえた1968年から1993年の初発単発症例。「1980年までを前期,1993年までを後期として多変量解析により患者の疾患側因子である年齢,性別,占居部位,肉眼型,大きさ,深達度,リンパ節転移の程度,組織型,リンパ管侵襲,静脈侵襲,腹膜転移,肝転移などを同一条件に整えて検討した結果,治療成績は前期のハザード比1.0に対して後期は0.59(0.55-0.65)と有意差(p<0.0001)をもって良好であり,治療側因子は切除範囲,郭清程度あるいは合併切除など,互いに相関する要因が多いが,その治療成績向上の主たる因子は進行性癌におけるリンパ節郭清程度に求めることができた」と報告。また,1981年から経験した拡大リンパ節郭清症例と標準郭清症例を多変量解析によって比較した結果,「腹膜あるいは肝転移のないt2,n2・t3, n1・t3,n2症例では標準郭清のハザード比1.0に対して,拡大郭清は0.48であり,有意差(p<0.001)をもって拡大郭清の治療成績が良好であり,この進行程度を大動脈リンパ節郭清の適応と考える」と述べた。


パネルディスカッション
「消化器癌取扱い規約の進行度分類と治療成績」

TNM分類との比較をベースに

 鈴木会長は「今回のシンボルマークは癌進行の程度(stage)を知り,治療戦略(strategy)を立案し,外科手術(surgery)を施行し,臨床的,基礎的問題を解析した消化器外科の科学(science)を学び取る意思を表した」と述べているが,パネルディスカッション「消化器癌取扱い規約の進行度分類と治療成績」(司会=千葉大 磯野可一氏,東女医大 高崎健氏)では,各種消化器(管腔臓器=食道・胃・大腸,実質臓器=肝・胆・膵)における癌取扱い規約の進行度と治療成績が検討された。比較のベースは,昨年UICC(International Union Against Caner)から第5版が発表されたTNM分類(TNM Classification of Malignant Tumours)で,T(primary Tumour=原発腫瘍),N( regional lymph Nodes=所属リンパ節),M(distant Metastasis=遠隔転移)による分類である。

食道癌取扱い規約第9版について

 食道癌の取扱い規約は10年前から術前照射を行なわず手術を優先する治療方針となり,リンパ節郭清範囲が広範囲となり,N群のリンパ節内容が大幅に変わったために3年前から改訂作業に入っているが,新しい規約(第9版)については,杉町圭蔵氏(九大)と渡辺寛氏(国立がんセンター)が紹介。日本食道疾患研究会のリンパ節委員会委員長の杉町氏は,新規約案における主な変更点として,(1)両側の鎖骨下動脈上縁と胸骨上縁を結ぶ曲線を頸胸境界とする,(2)頸部リンパ節の細分類は頭頸部癌取扱い規約との整合性を重視,(3)気管傍リンパ節106を反回神経リンパ節106‐rec,気管前リンパ節106‐pre,気管気管支リンパ節106‐tbに細分化,(4)後縦隔リンパ節112を細分化してその範囲を明確にした,(5)2領域以上にまたがる癌および食道内多発癌は主占拠部位および主病変が存在する部位で判定することにしたと報告。また,同委員会が多施設間に行なったアンケート結果から,「(1)リンパ節転移頻度からみると新リンパ節規約案は妥当であり,(2)遠隔成績からみると新規約案のGradingは不十分であったが,転移個数による補正を加えることにより予後をよく反映することが示された」と報告した。

胃癌取扱い規約第12版について

 胃癌取扱い規約(以下JRSGC)については,吉野肇一氏(東歯大)がJRSGC第12版(1993年)における胃癌のstagingの基本概念として(1)胃癌の進展程度を示す,(2)多数例の統計に基づいた合理的なもの,(3)今後の臨床研究に役立つ,(4)国際的共通性,(5)単純で使いやすい,(6)改正前のstagingとの互換性を指摘。また慶大における「食道」,「胃」,「直腸」,「中下部胆管」,「膵」などの各種消化器癌の術後生存率と,内視鏡・体腔鏡などによる非観血的癌治療が一般的に行なわれるようになった現在の状況から新しい進行度分類を検討。その結果,「第 I 期=非観血的治療,第 II 期=縮小手術の適応,第 III 期=標準手術の適応,第 IV 期=根治手術不能」を「治療面からみた胃癌の新病期分類試案」として提案した。
 次いで愛甲孝氏(鹿児島大)はJRSGCとTNM分類との整合性を検討し,鹿児島大学とGGCSG(Germany Gastric Cancer Study Group)の切除単発胃癌を対象として,(1)JRSGCとTNM分類のstaging systemの比較,(2)新TNM分類の問題点,(3)JRSGCの問題点を論じた。

大腸癌取扱い規約について

 「大腸癌取扱い規約」における大腸癌の病期(stage)分類は「壁深達度」,「リンパ節転移」,「腹膜転移」,「肝転移」,「腹腔外遠隔他臓器転移(M)」によって,I ~ IV の4段階に分かれるが,その第5版(1994年)については,高橋孝氏(癌研病院)と進藤勝久氏(近畿大)が検討した。
 一般にstage IV は高度進行癌を指し,治療によっても生存率の低い癌を指すが,進藤氏は特にこのstage IV に焦点を当てて分析。氏の教室の統計によると,病期別の5年生存率は,結腸癌ではstage I ;92.9%,II ;74.1%,IIIa;69.8%,IIIb;39.8%, IV ;14.6%,直腸癌では I ;88.0%,II ;74.4%,IIIa;39.0%,IIIb;44.5%, IV ;8.5%であり,stage IIIbとstage IV 以外は予後が良好である。
 進藤氏によれば,消化器癌のstage IV の頻度の全国登録は膵臓;50.0%,胆嚢;46.6%,食道;40.2%,胆管;39.3%,大腸;19.3%,胃;17.3%,肝;13.1%であり,近畿大学の大腸癌のstage別症例はそれぞれstage I ;23.7%,II ;25.2%,IIIa;16.9%,IIIb;15.0%, IV ;19.2%である。また,全症例中stage IV は結腸癌が15.5%,直腸癌が10.4%を占め,stage IV になった理由は全国登録症例中,肝転移;84.6%,腹膜転移;51.9%,腹腔外遠隔他臓器転移;18.6%,リンパ節転移(N4);29.2%で,大部分に肝転移が関与する。
 また,一般にstage IV の癌は根治不可能の予後不良癌という概念の他に,非常に広い進行程度の癌が含まれるが,進藤氏は「大腸癌のstage IV は特に広い進行程度を含んでおり,必ずしも根治不能癌のみでないことが他臓器の癌と異なる点である」と述べ,「大腸癌のstage IV は外科切除によって治癒可能なものが含まれており,これらはstage IV という一般的な進行・末期癌の概念から外れている。これらをどのように分類するかという問題が大腸癌には残されている」と指摘した。

肝癌取扱い規約について

 肝癌取扱い規約については,山崎晋氏(国立がんセンター)と山岡義生氏(京大)が検討。山崎氏は,同センターで切除された肝癌1160例のうち,再切除・絶対非治癒切除・在院脂死亡・追跡不詳249例を除いた911例を対象として分析し,「stage I と II には生存率に有意差が認められたが,stage IIIと IV にはそれが認められなかった」と報告した。
 また,現行の肝癌取扱い規約では肝臓の両葉に癌腫が分布するとstage IV に分類されるが,山崎氏は「現行の規約は1980年代前半のデータを根拠として制定されたもので,その後肝癌における“多中心性多発肝癌”の存在が明らかになるとともに,それらを臨床的に診断する能力も普及し,個々の病巣は比較的早期の多発例が出現してきた」と指摘して,“多中心性多発肝癌”について言及。従来「両葉に及ぶ癌腫」は一葉から発生したものが他葉に浸潤・転移することで,末期癌を意味した。しかし,山崎氏は“多中心性多発肝癌”を「(1)複数の病巣があり,腫瘍径からはどれが原発巣でどれが転移巣であるかの判定が不能,(2)画像所見から高分化型肝癌が推測される病巣を含む」と規定し,「肝癌の多中心性多発で両葉に存在する症例はstage IIIとするのが適当」と述べるとともに,「肝癌症例の予後は,解剖学的状況のstage分類だけでなく,同時に肝障害程度も考慮して判定することを要する」と指摘した。

胆道癌取扱い規約について

 胆道癌取扱い規約については,永川宅和氏(金沢大)と二村雄次氏(名古屋大)が検討。永川氏は「局所の進展とリンパ節転移からみた進行度分類は,全国胆道癌登録事業の成績では,胆管癌,胆嚢癌,乳頭部癌のいずれにおいても,進行度分類と5年生存率にはある程度の相関性があるが,従来の規約では進行度分類を表す因子が多すぎたため国際的に理解されなかったこともる」と述べて,今回の改訂(第3版)の要点を概説した。永川氏によれば,今回は胆道癌の局所的進展因子の中で,その進展程度を胆道癌登録成績を勘案しながら若干の修正を施してT因子としてまとめ,これとリンパ節転移(N)と遠隔転移(M)を含めたstage分類を新たに作り,TNM分類に近似した表現にした。また,stageについても特に IV については5年生存は稀であるが,治癒切除が可能であるものを IV a,治癒切除が不可能であるものを IV bとしたことに大きな特徴があると指摘した。

膵癌取扱い規約について

 膵癌取扱い規約(以下JPS)については,松野正紀氏(東北大)と高田忠敬氏(帝京大)が解説。改訂4版では,癌の進行度分類や手術の根治性の評価である従来の「肉眼的,組織学的」という表現を廃して,「手術的,総合的」という表現に改められ,さらに手術の根治性の評価について従来の「絶対治癒,相対治癒」などの用語を廃して,「根治度A・B・C」に分類している。
 松野氏はJPSとTNMを比較検討し,「両者は歩み寄りが見られるものの,まだ隔たりがあり,JPSのstage分類は煩雑で臨床の場では使いにくい。また,JPSのN因子,T因子はともに予後と相関した」と報告するとともに,「各国の症例をTNMとJPSとで分類,比較した上で万国共通のstage分類確立する努力が必要である」と強調し,JPSでは複雑な取扱いとなっている膵周囲浸潤の各因子の単純化,リンパ節転移範囲の共通化と単純化を行なって,両者の分類の溝を埋めていくことを今後の課題とし,高田氏は(1)T-category,(2)N-mapping,(3)Staging,(4)EWの問題点(Teminologyとその意義),(5)Curability(根治性)の5点から英文版JPSとTNM分類の問題点を詳細に分析した。