医学界新聞

第10回日本臨床腫瘍研究会 開催


 第10回日本臨床腫瘍研究会が,大橋靖雄当番世話人(東大教授)のもとで,さる2月6-7日,東京の東大・安田講堂において開催された。
 癌の臨床試験研究のあり方を議論する場として設立された同研究会は,これまでは臨床腫瘍学研究者や製薬会社の開発担当者,臨床研究方法論の専門家である統計家などの参加を得て開催されてきた。しかし今回は,「新GCP(Good Clinical Practice)の完全施行やそのための施設の体制作り,ICH(International Conference on Harmonisation)のプロセスが予想以上に進んだことによる医薬品開発の国際化等,臨床試験を取り巻く環境が大きく変わりつつある」(大橋氏)という認識を踏まえて,特に臨床研究を現場で支えるスタッフの参加を促し,欧米ではすでに確立されつつある看護婦(Research Nurse)や薬剤師による「CRC(Clinical Research Coordinator:臨床試験コーディネーター)」のための研鑽の場とすることが意図された。(関連記事を掲載)


同研究会設立の趣旨と目的

 同研究会は今回は10回を数えることになったが,その発足に当って,「早期発見例の増加や癌治療の改善などにより,約50%に達したと言われている癌の治癒率はすでにプラトーに達しており,癌治療の成績向上には画期的な新薬の臨床導入を柱とした癌薬物療法への期待が大きい」と述べ,「日本における癌薬物療法の臨床研究はいまだに発展途上の段階にあり,国際的に評価される臨床研究は少ない」と指摘。さらに,「研究結果を発表する従来の学会とは異なり,第一線の研究者に癌薬物療法研究を勉強する場を与え,各臓器癌の“State of Art”に挑戦する臨床研究の発表と十分な討論の場を設け,日本における臨床腫瘍学の発展を計ることを目的とする」としているが,今回は教育セッション「若手オンコロジストを対象として」の他,シンポジウム&パネル「QOL評価に意味があるか,可能か」,「臨床試験の基盤整備―今何ができるか,何をすべきか」,特別講演「抗癌剤の評価―日米の審査の現場から」などが企画された

「審査センター」における審査体制

 周知のように,昨年7月に厚生省では薬務局を中心として内部部局および国立衛生試験所の組織再編が行なわれ,薬務局は医薬安全局へと改組された。それに伴い,審査担当部門は審査管理課と,旧国立衛生試験所が改組されてできた「国立医薬品食品衛生研究所」に所属する形で新設された「医薬品医療機器審査センター」の2部門が担うことになったが,特別講演「抗癌剤の評価―日米の審査の現場から」(座長=県立愛知病院 有吉寛氏,近畿大 福岡正博氏)では,藤原康弘氏(審査センター主任審査官)が同センターにおける医系審査官の役割を報告した。
 同センターは企画調整部,審査第1部,第2部から構成され(ただし,1998年度予算では審査第3部の新設が認められている),医系審査官の役割は通常の新薬審査業務の他に,GCP査察(調査),治験副作用情報・治験計画届出書・治験計画変更届出書の臨床的観点からみたチェックなどだが,藤原氏は,「しかし,医系審査官の役割がこれらに固定されたものとは考えておらず,今後審査センターが発展していく中で,柔軟かつ迅速そして科学的センスを要求される臨床医学の現場経験を生かした幅広い活動をしていきたい」と抱負を述べた。


シンポジウム&パネル「臨床試験の基盤整備」

 続いて新GCPの完全実施(本年4月)を目前に控えて,内外の注目を集めているテーマを正面に添えたシンポジム&パネル「臨床試験の基盤整備―今何ができるか,何をなすべきか」(司会=国立がんセンター東病院 吉田茂昭氏,国立がんセンター 渡辺亨氏)では,海外からの招聘演者やナースを含めたパネリストによる発表と討論が行なわれた。

CRCとしてのResearch Nurse

 NSABP(National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project)は,乳癌(1958年~)と大腸癌(1976年~)の術後補助療法臨床試験を行なうために米国NCI(国立癌研究所)によって創設された組織であるが,NSABPのW. Cronin氏による講演「NSABPにおけるデータ管理と監査」に続いて,同じくNSABPのD. Wickerham氏が,「CRCとしてのResearch Nurseの役割」を紹介した。
 Wickerham氏は,まず「癌臨床試験におけるResearch Nurseの役割の重要性」を強調。その具体的業務としては,(1)管理業務;IRB(薬物治験審査委員会)に対する種々の業務,(2)症例登録促進,(3)適格条件のチェック,(4)チームアプローチによる説明と同意,(5)メディカル・マネージメント(プロトコールケアのモニター,副作用のモニター)などをあげた。またResearch Nurseは教育やトレーニングの役割をも担っており,スタッフに対する「プロトコールの内容や予想される副作用」,患者に対しては「服薬・投与指導や副作用報告」などがそれに当たる。さらにWickerham氏は,「臨床試験の“データ管理”にかかわる職種」としてCRA(Clinical Research Associate)を紹介し,「NSABPは両者の重要性を十分に認識しており,グループミーティングを持つことによって円滑な運営を行なっている」と述べた。

JCOGとJCOGデータセンター

 次いで福田治彦氏(国立がんセンター)が,JCOG(Japan Clinical Oncology Group)の現状と課題を報告した。
 JCOGは厚生省がん研究助成金指定研究「固形がんの集学的治療の研究」(主任研究者:国立名古屋病院長 下山正徳氏)を主体とする多施設共同臨床試験グループで,主として手術や放射線療法などの局所療法では治癒が困難な進行癌患者を対象に,癌薬物療法を中心とした集学的治療を開発し,標準的治療法を確立することを目的とする。参加施設は全国で約190医療機関,320施設で,登録症例数は累積で約1万900例,年間600-1000例(1997年は649例)である。一方,同氏が所属するJCOGデータセンターは臨床試験における「データ管理」の重要性の認識を定着させることを企図して国立がんセンター内に設けられ,ICH‐GCPの枠組みからは公的なCRO(Contract Research Organization:開発業務受託機関)と位置づけられる。
 福田氏は,(1)JCOGとJCOGデータセンター,(2)公的なデータセンターの役割と問題,(3)データ管理における施設とのinteraction, (4)施設間差,(5)JCOGデータセンターの課題と施設に望むこと,の順に沿って分析。特に「データセンターの今後の課題」として,「運営基盤の安定と人材育成」,「CRF(Case Report Form)デザイン・データ管理システムの改善」,「ガイドライン・SOP(Standard Operating Procedure:標準業務手順)の整備」などを指摘した。

米国における臨床試験の実施状況

 また水野清史氏(日本製薬工業協会)は,米国の臨床試験の進め方やその実態を把握するために昨年2月に行なわれた「米国モニタリング調査団」の「米国における臨床試験の実施状況に関する調査結果」を報告。
 治験依頼者である米国の医薬品の社内開発体制はプロジェクト・チーム制で,“データマネージメント部門”,“モニタリング部門”などの部門から選出されたメンバーで構成され,“マネージメント部門”の医学もしくは薬理学の専門家がプロジェクトを統括するマネージャー(プロジェクト・マネージャー)になる。プロジェクト・マネージャーは,チームで検討された内容を最終的に判断して「治験実施計画書」を完成させ,当該の治験のモニタリングを治験のモニターが実施するか,前述したCROに委託するかを決定し,その選択を行なう。 水野氏によれば,治験依頼者はコストベネフィットの観点からこのCROの活用が重要であると判断しているが,これはCROが育っている米国であればこそできるものであって,「新GCPでは,CROに業務の一部を委託した場合,治験データの品質と安全性に関する業務の最終責任は常に治験依頼者にあるとされており,治験依頼者はCROに対して密接な関与を維持し,育成を図ることがここ数年の課題であると考えられる」と指摘した。
 さらにシンポジウムは,松浦千恵子氏(癌研病院)と新美三由紀氏(国立がんセンター)による「看護の立場から」の発言,および下山正徳氏からの「臨床試験(治験)の研究体制の在り方」という提言を受けて閉会した。