医学界新聞

第31回日本腎移植臨床研究会開催

献腎移植の適応と限界を検討


 さる1月22-24日の3日間,第31回日本腎移植臨床研修会が,遠藤忠雄世話人(北里大泌尿器科教授)のもと,新横浜プリンスホテルを会場に開催された。
 特別講演には養老孟司氏(北里大)が「社会と身体」をテーマに口演。また教育講演4題が企画され,さらにワークショップでは,「免疫抑制剤のコンバートに積極的な意義があるか」が開催された。
 一方,看護部会が別プログラムで同時に開催され,多数の参加者を集めた(詳細は2278号看護版で報告)。
 本紙では,慢性的なドナー不足を背景に企画されたシンポジウム「献腎移植における献腎の適応と限界」(司会=名大 大島伸一氏,筑波大 深尾立氏)を中心に報告する。

献腎移植の適応を拡大するために

 日本における腎移植は,現在1万5000人の移植希望者に対して,移植施行例は年間200例に満たない。1995年4月に「日本腎臓移植ネットワーク」(「臓器の移植に関する法律」施行後「日本臓器移植ネットワーク」に改称)が発足し,腎移植の拡大が見込まれていたが,実際には施行件数が増加していないのが現状。本シンポジウムは心停止後の移植腎(献腎)の適応範囲をどこまで拡大できるかを論議する場となった。
 まずはじめに,絹川常郎氏(社会保険中京病院)は,移植の予後の重要な指標となるドナー側の摘出前の腎機能を検討。105例のドナーの死亡直前のクレアチニン値を測定し,たとえ提供腎が良好な値を示しても移植後の腎機能には必ずしも反映しないことを明らかにした。続いて,玉置勲氏(日本臓器ネットワーク・関東甲信越ブロックセンター)が,開設から1997年12月までの移植件数110例を摘出前の処置法で3グループに分け,その生着率を検討した結果を,症例とともに報告。
 次に,坂本薫氏(国立佐倉病院)が,移植腎の阻血時間により,どの程度判断できるかを自験例から検討。心停止後の腎移植の温阻血時間は40分以内,総阻血時間は24時間以内を適応とし,それを越える場合は各種措置や患者の同意が必要とした。

マージナルドナーをどうするか

 松野直徒氏(東医大八王子医療センター)は,心停止後摘出や高齢者などのマージナルドナーの適応におけるviabilityの判定や機能改善に,低温持続灌流保存法が有用であることを明らかにした。続く天田憲利氏(仙台社会保険病院)はドナー年齢と移植後の腎機能との関係を,石川暢夫氏(東女医大)が小児腎不全患者を対象とした低年齢ドナーからの献腎移植を検討。石川氏は,小児のHLAマッチ率が成人に比べて悪いことから,組織適合が優先される現在の移植体制では,小児への移植が不利になることを指摘し,「小児に関しては,組織適合以外の適応基準が必要」と述べた。
 また,秋山隆弘氏(近畿医大)が腎提供者の死戦期低血圧の程度や持続時間と移植後の腎機能との関連を自験例から報告。最後に田中信一郎氏(国立岡山病院)が,現在,禁忌とされている感染症を持つドナーへの対応について,特にHCV,ATLV抗体陽性の場合,レシピエントが抗体陽性であれば,その適応拡大を検討すべきと語った。続く追加発言では星長清隆氏(藤田保衛大)が,MRSAや緑膿菌などの感染ドナーに「PCR法とshaking cultureの両方を行ない,どちらかが陰性であれば適応を検討すべき」と述べた。
 すべての演題終了後,フロアを交えてのディスカッションに移行し,演者が提供した各問題点について多数の意見が述べられた。特に感染症腎について,フロアから「ATLV―1陽性ドナーは移植の適応になっていないが,患者の中には陽性レシピエントも移植を待っている。地域に見合った基準を検討すべき」との意見があがった。