医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内

先天性心疾患に携わるすべての医療従事者に

図解 先天性心疾患 血行動態の理解と外科治療 高橋長裕 著

《書 評》門間和夫(東女医大教授・循環器小児科学)

 先天性心疾患の手術で有名な千葉海浜病院の内科部長 高橋長裕先生による手頃な先天性心疾患の解説書が出た。高橋先生は,米軍病院でのインターンののち米国で小児科と循環器学の勉強をして,Hahnemann医科大学のassistant professorを最後に帰国され,国立循環器病センター小児科医長,千葉大学第3内科講師を勤められたこの方面の権威である。小児科,内科の研修医,麻酔医,外科,産科,看護婦,コメディカルスタッフにわかりやすい成書を書くのに適任の内科医兼小児科医で循環器専門医である。

若い医師の格好の入門書

 本書を一読して,その明快さ,正確さに感心した。先天性心疾患は種類が多く,病型が多岐にわたるが,本書では各疾患について各病型がきれいに整理して図解されているので,複雑な心奇形が明快に理解できる。これだけの知識は小児科と内科の研修医の先天性心疾患の日常診療上,是非必要であろう。また実際に先天性心疾患患者の診療にあたっては,これだけの基礎知識があれば,高尾-門間-中沢-中西の大著改訂版(中外医学社)やMoss-Adamsの大著第5版(Williams & Wikins)も容易に読みこなせるはずである。小児科,内科,外科で先天性心疾患の診療にあたる循環器専門医をめざす若い医師にも格好の入門書であろう。
 本書は,2色の模式図で血行動態を解説する形ですべての先天性心疾患を記載している。心電図,写真,心エコー図は一切ない。このため本書では先天性心疾患各病型とその手術法がきわめて明快に理解できる。完全大血管転位症の手術は心内修復手術の方法だけでもMustard法,Senning法,Rastelli法,Jatene法があるが,本書ではそのすべてがきちんと記載されている。患者が「Rastelli法で手術してもらいました」と言った時,本書があればどんな手術をしたかわかる。
 本書は先天性心疾患を持つ患者の診察にあたるすべての科の医師,看護婦やコメディカルスタッフにとって理解容易な先天性心疾患の解説書となっている。特に看護婦,コメディカルスタッフにとり心電図や心エコー図は要らないわけで,本書はきわめて読みやすい。先天性心疾患の大部分が手術可能となり,先天性心疾患手術後の成人が急増している現在,循環器専門以外の医師がこれらの患者を診察する場合に本書は必要かつ十分な知識を提供してくれる。値段も手頃である。
B5・頁200 定価(本体6,600円+税) 医学書院


現在の緑内障治療を理解するためのガイドブック

緑内障の治療戦略 谷原秀信 著

《書 評》新家 眞(東大教授・眼科学)

外来診療の傍らに

 最近,医学書院より谷原秀信著『緑内障の治療戦略』という本が上梓された。「戦略」と書いてあるが,一読してわかるごとく内容はむしろ「戦術」本であり,外来診療中,傍らにおいてすぐ役立つ本である。
 緑内障に対する考え方は,白内障手術,網膜硝子体手術ほどではないにしても,私が眼科医となって以来の20年でもかなり変わってきている。ちなみに日本における緑内障教科書の定版である『緑内障クリニック』をひもといてみると,昭和54年初版では「緑内障とは,眼圧の上昇と上昇した眼圧による一時的あるいは永久的な視神経障害の現れである視機能障害を特徴とする」と書かれているが,平成8年第3版では「眼圧,視神経乳頭,視野の特徴的変化の少なくとも1つを共有し,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害の改善,あるいは進行を阻止しうる,眼の機能的構造的異常を特徴とする」と17年間で疾患の定義の仕方がかなり変わってしまっているのである。その間には数々の新しい薬物,レーザーの緑内障治療への応用,濾過手術における代謝拮抗剤併用の導入等,日常診療上きわめて重要な事柄の発展があったわけである。そしてこれらの種々の治療技術の緑内障治療における位置づけは,現在の病態およびその進行状態についての理解に立脚したものでなければいけないということは論を待たない。

臨床現場の要求に応える

 では具体的にどうすればよいのか?『緑内障の治療戦略』は,このような臨床の場における要求に応えたまさに実践的治療の解説書である。本書は総論,薬物治療,レーザー治療,手術治療の4部から構成されているが,緑内障治療の意義,あるいは眼圧測定の意義に始まり,1つひとつの薬物,あるいは術式について,それぞれがどのような意味を持っているのか,その問題点は何かがていねいに解説されている。このため各項目を個別に読んでも日常臨床にすぐ役立つことは間違いないが,通読することによって,現在の眼圧を下げるということを目的とする緑内障治療のあり方が自然に理解できるように構成されている。また各検査法,治療法,手術法についてのワンポイントアドバイスや,最新研究に対する話題などが各所に織り込まれ,新進眼科基礎研究者としてだけではない著者の緑内障臨床家としての造詣の深さが示されている。
 本書は一般眼科医だけでなく,学生にとっても緑内障の現在の治療法を理解するためのガイドブックとして優れている。従来,緑内障関係の教科書には,眼圧測定理論や視野理論等が必ずはじめのほうに書かれており,何か「硬い」感じがするものが少なくない。その点本書では,視野や視神経乳頭の状態の治療法選択に対するインパクト(これがわかりにくいところである)を省略し,そのため緑内障関係では最近まれにみる読みやすい本となっている。本書が広く市場に受け入れられ,患者さんのより有効な治療の実践に役立つことを切望すると同時に,優れた企画を実現された著者に敬意を表する次第である。緑内障を治療しようとするにあたって一度は目を通すべき本と信じる。
B5・頁152 定価(本体7,500円+税) 医学書院


皮膚科診療のエッセンスをコンパクトに

皮膚科外来診療マニュアル 宮地良樹,竹原和彦 編集

《書 評》島田眞路(山梨医大教授・皮膚科学)

 この『皮膚科外来診療マニュアル』は,新進気鋭の群馬大学教授の宮地良樹先生と金沢大学教授の竹原和彦先生が編集され,現在の皮膚科診療のエッセンスがコンパクトにまとめられている。両教授は皮膚科学の診療・研究について現在の日本を代表する先生方であるが,その特徴は非常に臨床を大事にされる点にある。本書はその両先生の特徴を活かした本と言える。執筆者の顔ぶれはすべて両教授の出身大学である京都大学・東京大学の医局員ならびに出身者,あるいは現在の所属大学のスタッフの先生方である。それだけに診療の内容はオーソドックスであり,極端に特殊な診断法や治療法は最小限に抑えられている。この本を読めば,現在の皮膚科診療の概略はすべてわかるように構成されている。

疾患の概略,診断・治療法が一目でわかる

 各々の疾患の記述は具体的で実際に則している点が特にすばらしい。疾患の概略,診断法,治療法が一目でわかるように工夫されており,実際われわれは経験しているが,なかなか言い表せないような診療のコツまで惜し気もなく記述されていたりする。またふとしたことで見落としやすい注意点などもよくわかるようになっている。さらに,簡単そうにみえても入院を要するような重症の疾患については,入院のめやすなどが親切に示されている。かゆいところに手が届く本である。
 したがって本書はわれわれ大学の教官がポリクリで実習する際,あるいは病院・開業などの先生方が診療に従事する際,あるいは研修医・学生が簡単な教科書として使用する際など,気軽に白衣のポケットに入れ参考にしたい本である。
 また付録にも配慮が施されており,外用ステロイド剤の分類,妊婦に与えてよい薬,小児の投与量,注意すべき併用薬など具体的に記されておりきわめて有用である。
 皮膚科診療に携わるすべての人々に推薦したい1冊である。
B6・頁280 定価(本体4,000円+税) 医学書院


気道に関わるすべての問題を網羅

エアウェイブック B.T. Finucane,他 著/井上哲夫 監訳

《書 評》稲田英一(帝京大教授・麻酔科学)

 エアウェイの管理がいかに大切かは,心肺蘇生法のABCのAがエアウェイの開通であることからもうかがえる。麻酔科医にとって,エアウェイの評価や管理は日常の大問題である。救急患者の処置においても,エアウェイの管理なしには,いかに高度の技術も無用の長物となってしまう。エアウェイ管理は基本であるが,その奥は深い。
 本書は“Principles of Airway Management”の翻訳である。監訳者である日本医科大学附属千葉北総病院麻酔科の井上哲夫教授は,世界麻酔学会に出席された折り,原著と出会い一目惚れなさってしまったようである。その一目惚れした本を,医学生,研修医,ナースなどコメディカルの人たちに紹介したいという情熱がよく伝わってくる訳書となっている。原著のウィットに富んだ文章も,わかりやすい日本語に見事に訳されており,ついニヤッとしてしまう個所も多い。

エアウェイ管理の原則

 本書は12章から構成され,気道の解剖から始まり,心肺蘇生,装置や器具,挿管前の評価や準備,挿管手技,挿管困難や換気困難の処置,小児の気道確保,さらに機械的人工呼吸の設定,ウィーニングに至るまでと,「エアウェイブック」の名前にふさわしく,気道に関わるすべての問題が網羅されている。各章の最後には,まとめがついている。各章は一気に読み終えることのできる長さである。一気に読み終え,そのまとめを読めば,その章の概観がさっと頭に浮かぶ。図表や写真が豊富であり,ちっとも飽きさせない。本書の真髄は,手技についてわかりやすく説明されているだけでなく,エアウェイ管理の原則がきっちりと述べられていることである。例えば,「気道管理の外科的アプローチ」の章では,精神的な準備,機材の準備,臨床上の準備として項目分けし,原則論,心構えが細かく述べられている。
 新生児の心肺蘇生や気道確保について多くの図表,フローチャートを含め,詳述されているのがありがたい。小児のエアウェイの特徴,気管内チューブの太さや長さの選択についてもよく述べられている。気道管理に関係するエアウェイ,ラリンゲルマスクエアウェイ,マスク,喉頭鏡ブレード,各種気管内チューブなど,豊富な写真が掲載されており,見ていても楽しい。器具類の破損,故障が起こる可能性は常にあるので,バックアップ用の器具の準備が必要であることを原則として強調している。
 「ファイバースコープによる挿管」の章では,局所麻酔の方法,気管内チューブの取り扱いなど,ステップごとに記載されている。逆行性ガイドワイヤーによる挿管,ラリンゲルマスクエアウェイを通してのファイバー挿管など特殊な場合についても記載されている。豊富な写真が掲載されており,イメージトレーニングの助けとなる。エアウェイ管理に関しても本書のような良書を読み,写真や図から手技をイメージし,模型やシミュレータで訓練を行ない,そして臨床的経験を積むことによってしか,真のエアウェイ管理は行なえないことを肝に銘じておくべきである。

気道確保困難への対応を細かく紹介

 エアウェイ管理においては,気道確保困難を事前に予測しておくことはきわめて重要である。「挿管前の気道評価」の章では,気道確保困難が予想される状況について,写真や図で細かく紹介してあり,非常に有用である。いくら術前評価を綿密に行なっても,ときに予想外の気道確保困難症例に出会うことがある。緊急症例では,正常な気道の解剖が失われているために,挿管困難のことがある。エアウェイ管理の恐さは,エアウェイを失えば数分もしないうちに患者は重篤な状態となり,永久的脳障害を起こしたり,死亡する危険があることである。その意味で「挿管困難」の章は,きわめて重大である。特殊な器具についてもよく紹介されている。気道確保困難な症例のアルゴリズムも紹介されている。アメリカ麻酔学会の調査では,このアルゴリズムが広まってからエアウェイトラブルが減少したという。この章にある「援助を申し出る経験未熟な野心家に注意」という漫画には,いろいろな経験があるだけに,思わず苦笑してしまった。「気道管理の外科的アプローチ」の章では,輪状軟骨甲状膜切開術,ミニ気管切開法,迅速経皮的気管切開法,定型的気管切開法について,図や写真を用いてよく説明されている。
 本書は,楽しく学びながら,比較的短時間のうちに通読できる。本書は通読するだけでなく,常に座右に置いて,繰り返し読み,その内容すべてを頭の中にたたきこんでおくべき種類の本である。初心者には初心者の読み方が,ベテランにはベテランの読み方があるはずである。自分のためだけでなく,人にエアウェイ管理を教えるのにも有用な本である。井上教授の一目惚れは,読者にもすぐ伝染しそうである。
B5・頁316 定価(本体5,700円+税)MEDSi


呼吸生理学を学ぶ人のために

呼吸の生理 第3版 J.B. West/笛木隆三,富岡眞一 訳

《書 評》山内広平(岩手医大助教授・内科学)

呼吸生理学の最初の1冊

 この本は,これから呼吸生理学を学びたいという人にぜひ最初に読むことを勧めたい1冊である。
 われわれは大気中の酸素を肺という臓器を通じて体内に取り入れているが,呼吸を行なうための肺の構造の精緻さや驚くべき機能は,呼吸生理学を学ぶことにより一層深く理解されると考えられる。本書は,最初に肺の持つ機能の巧みさに対する読者の感動を引き起こすとともに,読み進むにつれて,いくつかの物理公式を交えながらのわかりやすい解説は,おそらくは以前には考えもしなかった肺の機能に対する科学的感動をも引き起こすであろう。さらに多くの読者は,こうした感動や興味が減ずることなく,最後の頁に至るであろう。
 近年,呼吸器病学にも分子生物学が導入され,RNAやDNAを標的にした免疫生化学的研究や遺伝子治療に関する研究が飛躍的に増加している。しかしながら,呼吸器疾患の成因および病態の理解に関して,呼吸生理学の重要性は変わらない。いやむしろ肺という臓器の細胞レベルでの解析が進むほど,呼吸機能との関連に興味が持たれている。また,高齢化社会の中で呼吸器疾患の頻度は上昇しており,呼吸器疾患の病態や重症度の理解,慢性疾患の長期管理の指標に呼吸生理学の重要性は今後とも増すことはあっても減ずることはない。
 しかしながら,呼吸生理学においてはいくつかの物理学公式を基にした数式での理解が必要とされ,「難しい」とか「理解しにくい」などの印象を持つ医学生は少なくない。また一方,教える側に立つと,学生に対して呼吸生理学の講義をどうするかはいつも悩むところであるが,その点この本は呼吸機能の重要な点を理解しやすいように実にうまく考えて配置してあり,またそれぞれの章における解説は本質的であるとともに実に簡潔でわかりやすい。

呼吸生理学の第1人者の手による

 呼吸器病学においては呼吸生理学は古い歴史を有し,多くの高名な学者が林立しているが,ウエスト教授はその中の1人であり,換気血流分布を世界で最初に測定し,ガス交換については世界の第1人者である。血流分布に対する重力の影響を測定し,そうした方向性から高地での呼吸生理学や宇宙での無重力での呼吸生理へとつながっていったと考えられる。米国における宇宙政策は米国を代表する国家プロジェクトの1つであり,第1人者のウエスト教授に声がかかったものと考えられる。
 私も十数年前にウエスト教授から,あの当時新しい分野の宇宙の人工衛星での呼吸生理についての講演を聞いたことがある。何か浮世離れした学問のような気がしたが,現在日本人宇宙飛行士が宇宙遊泳を行なう時代に入り,あの当時,実に先端的な研究していたことが現在は理解できる。講演ではこの本のように難しい内容をわかりやすく説明され,感激したことを覚えている。実際,ウエスト教授の呼吸生理の講義は人気があり,講義室は朝早くから満員の盛況だったそうであり,この本の構成,内容,表現形式は実際の講義に対する現場の学生の反応や理解の程度に基づいてデザインされていると推察される。
 最後に,この本は医学生,看護婦,検査技師,さらには呼吸器疾患患者に関わる医療従事者に最適であるし,呼吸器科医にとっても有用な本であることを強調したい。
 また,このようなすぐれた本を日本の読者のためにウエスト教授の意をくみ,わかりやすく翻訳された故笛木隆三先生,富岡眞一先生に深く感謝したい。
A5・頁208 定価(本体3,200円+税) 医学書院