医学界新聞

第4回国際IGFシンポジウムを開催して

さらなる研究の発展に期待

高野加寿恵(シンポジウム組織委員長,東京女子医科大学教授・第2内科)


内分泌領域にとどまらないIGF研究

 第4回国際IGF(Insulin-like Growth Factor:インスリン様成長因子)シンポジウムを,昨年10月21-24日までの4日間,東京国際フォーラムで開催した。
 IGFは成長ホルモンの作用を仲介する物質として純化精製されてきた物質であるが,その作用は骨の成長を促す他に,インスリン様作用,各臓器の細胞増殖作用,蛋白同化作用,細胞の分化促進作用等,多岐にわたることが明らかにされている。
 また,現在ではIGFの研究領域は内分泌領域にとどまらず,神経,心臓,消化器,腎,生殖系,腫瘍領域へとその研究分野は拡大されている。
 本シンポジウムは,成長科学協会(理事長=東女医大名誉教授 鎮目和夫氏)が主催し私が組織委員長となって3年前から計画,準備してきたものだが,海外21か国から299名,日本から131名,計430名が参加した。また理事長の意向で若手研究者へのトラベルグラントが設けられたため若手研究者の参加が多く,若さと活気に満ちあふれた雰囲気となった。
 プログラムとしては特別講演2題,ワークショップ3題,13のトピックスのシンポジウム(65題),166題のポスター発表が行なわれたが,最終日の最終セッションまで皆熱心な討議に参加していた。

新呼称「IGFBP関連蛋白」の報告

 IGFにはアミノ酸70個からなるIGF-Iと67個からなるIGF-Iがあるが,これらIGFは血中および組織中では99%以上が蛋白質(IGFBP)と結合している。このIGFBPは,単にIGFの担体としてだけでなくIGFの作用を調節していること,さらに独自のレセプターを介しアポトーシス(自然細胞死)を誘導することなどが明らかにされ注目されている。また,今まで6種のIGFBPの存在が知られていたが,最近,新たに従来のものに比べIGFとの親和性は低いもののIGFと結合する4種の結合蛋白(IGFBP-7~-10)が報告された。
 今回のシンポジウムではその名称について討議され,新たに報告された結合蛋白はIGFBP関連蛋白(IGFBPrp-1~-4)と呼称することになった。これらIGFBPrp-1~-4は,今まで報告されていた6種類のIGFBPとアミノ酸のhomologyが30-45%で,N端にIGFBPに特異的なモチーフ(GCGCCXXC)を有する。これらIGFBP関連蛋白のIGF-IおよびIGF-Iへの結合能は,IGFBP-3と比較してそれぞれ約1/10,1/25程度である。
 Rosenfeld博士らのグループは,この中のIGFBP-7について検討し,これが驚くべきことにインスリンに強い親和性をもって結合し,インスリンがその受容体に結合するのを阻止すること,またその後のシグナル伝達機構である受容体およびIRS-1のリン酸化を阻止する作用のあることを報告した。さらにこれらのインスリンに親和性の高いIGFBPsの存在が,妊娠時,NIDDM,その他の疾患で見られるインスリン抵抗性の病態と関連があるのではないかと示唆した。以上のような作用は,従来から報告されているIGFBP-3の分解産物でも見られ,IGF-independentの作用として注目されている。
 IGF-IのIGF-I受容体を介する情報伝達系についてみると,インスリン受容体とかなりの部分に共通点が見られる。IGF-Iとインスリン作用の違いを考えると,IGF-I受容体とインスリン受容体に特異的な情報伝達機構があることが考えられる。本シンポジウムではCrk,14-3-3がIGF-I受容体の特異的な情報伝達機構に関係しうる候補としてあげられていた。
 これらの研究成果を踏まえたIGF-Iの臨床応用としてGH受容体異常症のLaron症候群へのIGF-I治療や,インスリン抵抗性糖尿病へのIGF-I治療の効果と問題点が報告され,さらに今後のIGF治療の可能性(閉経後骨粗鬆症,創傷,慢性閉塞性肺疾患,心不全,免疫不全症,筋萎縮性側索硬化症等)についても意見が交換された。これら,シンポジウムの成果は“proceedings"として本年5月頃に出版される予定である。

日本の若い研究者の今後の発表に期待

 IGFは1957年にSalmonとDaughaday博士によりsulfation factorとして発表された物質で,1972年にsomatotropinをmediateする物質としてSomatomedinと命名され,さらにこの物質の構造や作用がインスリンと似ていることから,1987年にはIGFと改名された。また,IGFBPの存在は1970年代になり報告されたが,最近のIGFBP関連蛋白の報告を見るにつけ,これらIGF関連因子の研究分野はますます広がっており,今後の研究発表が期待されている。
 本シンポジウムは,第1回目がナイロビ(1982年)で開催,その後第2回がサンフランシスコ(1991年),第3回がシドニー(1994年)と続き,今回第4回目が日本での開催となった。日本の多くの若い研究者に,この分野への興味を持っていただけたことは,大変有意義なことであった。