医学界新聞

1・9・9・8
新春随想

長野オリンピック冬季大会を目前にして

清澤研道(信州大学教授・長野オリンピック村総合診療所長)


 今世紀最後のオリンピックである第18回長野オリンピック冬季大会が,きたる2月7日から22日の間,長野市を中心に開かれる。読者の中にはこの世紀のイベントに関心のない方も多いのではないかと思われるが,さる高官の「スピードスケート競技は水すましみたい」発言や,長い間迷走しつづけた“男子スキー滑降スタート地点1800m”論争で少しは話題となり,さすがにあと1か月あまりと近づくにつれ盛り上がりをみせているようである。私自身は華麗な演技やダイナミックな競技を楽しみにしていたから,ある程度関心を持っていた。
 しかしながら,ひょんなことから長野オリンピック村総合診療所の所長の役を仰せつかったことから,一転して重荷を負う羽目となり,楽しみどころではなくなったというのが現在の心境である。ちなみに信州大学医学部では千葉茂俊学部長のもと全面協力態勢をとっている。多くの学生がボランティアとして参加し,小林茂昭教授(脳外科)が長野オリンピック組織委員会(NAOC)の医事委員長として,また勝山努教授・降旗謙一助教授(臨床検査医学)がドーピング検査・ジェンダーベリフィケーション検査を担当することとになっており各々の立場で苦労されている。
 今回の長野オリンピックはスノーボードとカーリングが新たな種目として増え,7競技68種となり今までの最高の種目数となっている。したがって競技会場は15か所と多い。参加国・地域は70前後,選手数は約2200人と予測されている。なお,オリンピック村には役員を併せると3500人が居住する。
 会期中の医療施設はオリンピック村に総合診療所,各競技場に医務室が置かれ,動員される医療救護スタッフは1日最大524人,総延数7920人である。このことは,医療関係者の強力な支援なしにはオリンピックができないことを物語っている。各競技場には地元の病院から医師・看護婦が派遣され,オリンピック村診療所には信州大学,松本歯科大学を中心に地元医師会,日本医大,長野県理学療法士会,検査技師会とボランティアの協力により運営される。
 オリンピック村総合診療所につき若干紹介する。診療は1月24日(開村日)から2月25日(閉村日)の間開設される。
 診療科は内科,外科,整形外科,眼科,歯科で理学療法科,臨床検査科,レントゲン科が備わっている。競技は多くが昼間行なわれることから早朝と夕方に重点が置かれるが,内科は24時間診療を提供しなければならない。運営についてはNAOC医事委員会と若手スタッフの努力により準備万端整い問題ないと思われるが,予期せぬ事態はいくらでもあるだろうと考えられる。その他,危惧されることとして,精神的・心理的ケアの必要が生じた場合の対応,言葉の障害,チームドクターとの軋轢など,があげられるが,細心の配慮をするつもりである。
 いずれにせよ大変なエネルギーを投入しなければならない。これだけのエネルギーを大学が提供する必要があるのかという議論もある。オリンピック精神からすればすべてボランティアで賄うのが本筋ではある。しかし,これだけのスタッフをすべてボランティアで揃えるのは今の日本の現状では無理というもの。考えようによってはこれくらいのイベントをさらっとやってのけるパワーを持ち合わせるのも大学に求められる資質の1つであろう。頼もしいのは,本学加齢適応研究センタースポーツ医学分野の能勢博教授の研究に弾みがついていることである。
 オリンピックは世界中の選手が最高の技と力を競う場であり,特に冬季オリンピックにおいては厳しい自然との闘いを強いられる競技が多く精神力の極限が試される。診療所を運営するにあたり心がけたいことは,選手が最高の実力を発揮できるよう最良のコンディション作りを提供することである。チームワークと心温まる態度を持って責務を果たしたいと願っている。