医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


病態の把握と治療法選択に大いに役立つ

胆石の溶解・破砕療法 超音波分類の応用 土屋幸浩 著

《書 評》大藤正雄(前千葉大教授・内科学)

多数の臨床例に裏付けられた有用性

 臨床医学の研究を志す者にとって,自分が創造した方法を使って病気を見つけたり治すことができたならば,これほど嬉しいことはない。また,その成果を集大成して成書とし,多くの臨床家に有用性を理解してもらえたなら,それも大変に意義のあることである。しかし,そうあるためには方法が独創的というだけでなく,多数の臨床例に応用した成績から有用性を明らかにしなければならない。それには長い期間にわたる努力と忍耐が必要である。
 今回,出版された土屋幸浩博士著『胆石の溶解・破砕療法-超音波分類の応用』は,まさにそのような経緯のもとに生まれたものと言える。
 胆石症は患者数も多く,一般的消化器疾患とされているけれども,その病態は無症状や疝痛発作,緊急処置を必要とする急性化膿性胆管炎まで千差万別である。それに対応してさまざまな治療法が応用されており,内科療法として鎮痛剤投与,胆石溶解療法,体外性衝撃波破砕療法(ESWL),内視鏡的胆石除去術,また外科的治療法として腹腔鏡下胆嚢摘出術,開腹下胆嚢摘出術があげられる。治療に当たっては胆石症の病態を正確に把握し,適切に治療法を選択して応用することが大切である。
 ここ十数年来,新しい治療法が次々と登場しており,各治療法の適応と限界,相互の関連について検討し,治療体系をあらためて見直すことが必要となっている。

見事な超音波像と要を得た記述

 胆石の溶解療法とESWLは,外科手術にとって代わる根治的内科療法として大きな期待が寄せられているのであるが,両者ともに胆石の性状によって治療効果が大きく左右されるといった制約がある。両治療法を十分に活用するにはまず胆石の性状を正確に判定することが必要であり,その際著者の胆石超音波分類が大いに役立つことになる。
 本書に見られる症例の素晴らしい超音波像,また簡潔にして要を得たわかりやすい記述は,治療法への関心を一段と高め,同時に臨床研究の在り方と1つの研究に打ち込むことの大切さを教えてくれる。一編の論文からはわからないが,1冊の成書としてまとまって初めて,人間性をそなえた臨床研究の真価が浮き彫りとなってくる。そこに成書をつくることの意義があるものと考える。
 長年にわたり臨床研究を共にし,苦楽を分かちあった者として,本書が胆石症の臨床に大きな役割を果たし,また若い医師の人たちに臨床研究の大切さを知ってもらう一助となることを願っている。
 本書の刊行に当たって,著者の多年の研鑽に深く敬意を表するものである。
B5・頁136 定価(本体4,700円+税) 医学書院


豊かな実践に裏づけられた好著

司法精神医学と精神鑑定 小田晋 編集

《書 評》山上 皓(東医歯大教授・犯罪精神医学)

  最近,凶悪な犯罪が相次ぐ中で,司法精神医学および精神鑑定に対する社会的要請は一層高まってきている。わが国では,いわゆる簡易鑑定を含めると,毎年一千件ほどの精神鑑定が行なわれていると推定されるが,この領域の専門書,手引き書とされるものはきわめて少ない。
 本書は,この領域において多くの業績をあげられた小田教室の貴重な研究書であるとともに,同教室の豊かな実践に裏づけられた実用の書でもあり,司法精神医学および精神鑑定を学ぼうとする者にとって有用な,類書の及ばぬ好著である。

全編に流れる真摯な姿勢と情熱

 本書の編者小田晋氏は,東京医科歯科大学犯罪精神医学研究室において中田修教授に師事されて以来,司法精神医学領域で多くの研究業績を上げられ,1974年に筑波大学教授(精神衛生学)に就任されてから本年3月に退官されるまで,後進の育成に熱意を注がれるとともに,数多くの重大事件被告人の精神鑑定を手がけられた。本書は,33人の執筆者による共著の形をとっているが,共著者の多くは同教授が育てられた門下生であり,全編を通じて編者の一貫した真摯な姿勢と情熱とが伝わってくる。
 本書は全12章よりなり,第1章「司法精神医学の先覚」,第2章「司法精神医学の諸理論,現状および課題」,第3章「司法精神鑑定はどう行われるか」,第4章「精神鑑定における心理テスト」,第5章「種々の精神障害と精神鑑定」,第6章「鑑定書のまとめ方と責任能力の判定」,第7章「精神鑑定の臨床と指導」,第8章「民事鑑定」と続く。
 一貫して流れるのは,実践を重んじ,現実を直視する姿勢で,多くの事例を紹介しながら,鑑定の進め方を具体的に記し,実務の上で問題となりうるさまざまな問題を取り上げて,その対処法を論じている。
 第4章は,鑑定における心理テストの特殊性について多く論じ,学ばされるところが多い。第5章は,各種精神障害ごとに事例をあげて鑑定上の問題点を論じ,さらに宗教と犯罪,外国人の精神鑑定等についても項を設けて記している。第6章では責任能力判定について論じ,小田教授は不可知論の立場をとるとしながらも,疾病観や時代の変化に応じて「慣例」の見直しが必要であると指摘する。第7章には,小田教室における精神鑑定例のカンファレンスの記録が詳細に記され,多くの優秀な人材の育った同教室の雰囲気が描出され興味深い。第9章以下では,被害者学,文化人類学,精神保健学等諸領域との関連における司法精神医学が幅広く論じられている。

編集者の研究・教育の集大成

 本書はまさに,司法精神医学者小田晋教授の研究・教育の集大成と言うべきもので,関連諸領域についても広く論じており,読者に広くご覧いただきたい好著である。とくに,精神鑑定に携わる機会の多い方,これから鑑定に取り組もうとされる方にとっては,きわめて有用な手引き書ともなると思われ,是非ご一読をお勧めしたい。
A5・頁546 定価(本体9,600円+税) 医学書院


こどもの検査値の辞書

こどもの検査値ノート 戸谷誠之,他 編集

《書 評》黒田恭弘(徳島大教授・小児科学)

正常小児の検査値をコンパクトに

 小児の特徴は成長と発達である。加齢に伴って臓器の大きさおよび機能が変化するにつれて,体液中,尿中等の物質の値も当然,変化する。しかし,ほとんどの医療施設で示される検査の正常値あるいは基準値は成人のものである。したがって,小児科医をはじめ小児医療に携わる人々は,こどもの年齢別あるいは小児期別の検査正常値あるいは基準値を医療現場ですぐに見られることをいつも望んでいる。
 この度,この希望をかなえる『こどもの検査値ノート』が医学書院から出版された。本書は10年の歳月をかけて収集された正常小児の検査値を,コンパクトな本にまとめたものである。小児科診療に携わる医師,看護婦,臨床検査技師,放射線技師,栄養士,薬剤師などいわゆる医療人を対象にして,簡便にこどもの検査値を理解し,判定の参考にすることを目的としている。
 本書は,著者の編集方針によって次のような特徴をもっている。 (1)検査項目は1項目1頁を原則とし,項目名,検体種,検査値,測定法,SI単位,解説および文献に分けてコンパクトにまとめられており,余白も十分にあるので大変見やすい。(2)項目の選択ならびに項目名は日常的に使用されている範囲とし,現在,試験的に実施されている検査項目は対象外とされている。しかし,今後,検査項目数をできるだけ多く増やすことが望まれる。 (3)検査値は慣用単位による表示を原則としているが,これからの普及が予測されるSI単位系への換算の可能性を考慮し,換算式(現行慣用単位×換算値=SI単位)が示されているので便利である。 (4)各項目には解説欄が設けられており,とくに小児由来検体の検査値に特徴的な事項や測定上の注意が示されているので,病態診断判別値として利用する場合に役立つ。

白衣のポケットに入る携帯サイズ

 本書は,日常的に使用されている小児の年齢別あるいは小児期別検査値が豊富に掲載されており,本の大きさもコンパクトで白衣のポケットにも入るので便利である。小児科医だけでなく看護婦など小児科診療に携わる人は,「こどもの検査値の辞書」として持っておきたい1冊である。
B6変・頁228(本体2,500円+税) 医学書院


脳・神経領域の最新の動向がわかるミニ総説集

キーワードを読む 脳・神経 岩田誠,他 編集

《書 評》早川 徹(阪大教授・脳神経外科)

 これは単なる辞書ではない。最近脳・神経科学領域において話題となっている基本的な用語や病態・治療法などについての簡明な解説書であり,また,臨床と基礎的研究との関連を理解し,今後の研究の動向と展望についても示唆を得る興味ある書でもある。
 近代科学の急速・多岐な発展にともない,医学の分野でも専門分化の傾向がますます著しくなってきている。一方,近代医科学の進歩とともに病因・病態の解明に分子生物学的概念が広く導入され,また診断・治療法の開発には遺伝子工学やコンピュータ工学が活用されるようになるにつれ,医学各領域を通じて共通の新しい基本的な概念や用語が一般的に用いられるようになってきた。臨床医といえども,それらの知識や理解なくして各種疾患の病因や病態を十分に理解することができず,また先進的な良質の診療を施すことができない。

時代のニードに対応

 このように,近年の医学的動向には,臨床においても基礎においても,細分化と統合化の2つの大きな潮流があり,関係者はそれに的確に対応することが要求されている。近年の医科学の進歩は驚くほど早い。それに対応して絶えず最新の情報を得,専門的知識と普遍的知識を吸収し,広く医科学の進歩を理解するとともに,専門分野の発展を計るためには,それなりの工夫と努力が必要であろう。
 本書は,最近の医科学における基本的な用語や概念のなかで,とくに脳・神経領域に関連したものを選び,本領域における最近話題の病態・治療法などとともに159テーマにしぼって,簡潔な解説と現況の説明を行なっている。まさに「キーワード」となるような語句がテーマとして選ばれており,これを一瞥すると,脳・神経領域における医科学あるいは臨床の最近の動向が把握でき,座右においては論文の理解を助け,さらに通読すれば広く本領域の学識を増すことになろう。本書は脳・神経領域の医科学用語の簡便な解説書というより,「ミニ総説集」と位置づけたい。まさに時代のニードに対応した編者らの着眼点に敬意を表する次第である。

基礎と臨床の橋渡し

 各語の解説はそれに通暁した比較的若手の研究者が中心となってなされている。主要テーマについては,「なぜ話題になっているのか」,「概念」,「研究の動向」,「臨床的意義」,「将来の展望」の各項目について簡明に記述されており,また末尾には,そのテーマに関する数編の総説的文献が記載されている。本書により基本的な認識が得た後,欲すれば,さらなる情報が得やすいように配慮されたものである。
 本書は,脳・神経領域における最新の基本的な医科学的知識の解説書であるが,その分野の研究者にとっても,自己の知識を総括し,解説者の現状認識や将来展望を知るうえに興味深い書ともなっている。また,編者らが「臨床的意義」という項目をとくに設定しているのは,基礎的研究と臨床との間に距離感を抱いている臨床家たちに対する配慮であり,また基礎研究者にとっては臨床家が何を期待しているのかを,知る上の参考になろう。
 本書は時代のニードに応えて編纂され,出版されたものである。今後,日進月歩の医科学の進歩を考えるとき,できれば数年ごとに内容を変革し,時代に即応した用語を加え,永く改訂版を重ねるよう編者らや出版社に期待したい。
B5・頁176 定価(本体3,600円+税) 医学書院