医学界新聞

1997年度「武田医学賞」に矢崎義雄氏と北村幸彦氏


  

 1997年度「武田医学賞」〔主催=(財)武田科学振興財団〕が,矢崎義雄氏(東大教授)と北村幸彦氏(阪大教授)に決定し,その贈呈式がさる11月17日,東京のホテルオークラにおいて開催された。
 対象となった研究は,矢崎氏が「心血管系における分化と適応に関する基礎的・臨床的研究」,北村氏は「マスト細胞の分化過程と分化制御に関する研究」。

心血管系における分化と適応に関する基礎的・臨床的研究

 心血管系は生命維持機構の中枢的な役割を担う器官であり,個体発生の過程で他臓器に先駆けて分化し,器官を形成して循環を維持するように働く。しかも,血行力学的な負荷に対して迅速に対応するきわめて高度に,かつ特異的に分化した機能を有する臓器である。
 矢崎氏はこのような心血管系の発生分化,負荷に対する適応現象である肥大形成と形質変換および機械物理的刺激に対する特異的な細胞応答という,循環器領域ばかりでなく生理学的にも最も重要な3つの研究課題,すなわち(1)心血管系の負荷に適応した形質変換とその分子機序への応用,(2)機械物理的刺激に対する細胞内情報伝達系の解明とその臨床的意義,(3)心血管系の発生分化とその先天異常に関する研究,において独創的な方法論を加えて分子・遺伝子レベルから解明し,画期的な業績をあげている。

マスト細胞の分化過程と分化制御に関する研究

 一方,北村氏の業績はマスト細胞に関するものである。
 マスト細胞は即時型アレルギー反応に必須の細胞であり,マスト細胞の表面には石坂公成・照子夫妻によって発見された免疫グロブリンE(IgE)に対する高親和性受容体が発現している。高親和性受容体に結合したIgE分子が,花粉やダニ由来の抗原により架橋されることで,マスト細胞の好塩基顆粒中に含まれるヒスタミン,種々のプロテアーゼ,TNF-αなどの活性物質が放出されて,即時型アレルギーを起こす。さらに脱顆粒反応により活性化されたマスト細胞はプロスタグランディンやリュウコトリエンなどをアラキドン酸から産生するばかりでなく,種々のサイトカインを産生することにより炎症反応を持続させる。
 北村氏は,このマスト細胞に関して,(1)マスト細胞の起源の同定,(2)マスト細胞欠損動物の発見,(3)マスト細胞の分化過程と分化制御,(4)マウス細胞機能を調べる実験系の開発,(5)マスト細胞におけるc-kit遺伝子の発現調節,(6)マスト細胞性腫瘍とc-kit遺伝子の活性化突然変異,など広範多岐にわたって業績をあげている。