医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


外科トレーニング中の医師に最適の書

実践の外科臨床 門田俊夫,他編集

《書 評》山崎洋次(慈恵医大教授・外科学)

実践的かつ臨場感のある内容

 「ユニーク」,「類書がない」などという手垢のついた形容詞は語彙の貧困さを物語っているが,本書は文字どおり類書のない高著である。最大の理由は,編著者一同が冒頭で述べているように,日常外科臨床に必要な知識や技術を実践的にかつ臨場感のある内容に仕上げているからである。通り一遍の最大公約数的な解説は避け,「私はこれこれ云々の理由から,このようにしている」という明確な主張がみられる。
 特に各章末には編者が属する5施設(三井記念病院,虎の門病院,聖路加国際病院,みさと健和病院,羽生病院)の診療の実際と指針が表示されていて大変便利である。また,その章を担当していない他の4施設の編者がコラムでコメントしているが,このコラムが出色で,これだけでも読む価値が十分にある。診療上注意すべき点,手技上のコツ,時には現行医療保険制度の矛盾などが述べられていて,評者自身参考になった。
 25章の「外科的感染症対策」を例に,編者のコメントを取り上げてみると,「外科感染症に対する姿勢は,研修医時代で,その基本が決まってしまうように思われる」(みさと健和病院:鈴木氏),「HIV感染者は(中略),全員大企業のサラリーマンであり,平均以上の外見で異性間感染である。このため応急を除く手術予定例は外来小手術でも必ずHIV検査を行なわなければならない」(三井記念病院:坂本氏),「Candida sepsisは網膜症から失明に至ることがあり,血液培養からCandidaが検出された場合は至急眼科受診しなければならない」(虎の門病院:梶山・鶴丸氏)などである。このような章ごとのコメントは,Nyhus & Condonの教科書“Hernia"にもみられるが,わが国の医書としてはめずらしい形式である。

外科認定医取得をめざす医師に有益

 話が前後するが,本書は,I「消化器外科手術の基本」,II「診断と治療の実際」,III「外来・ベッドサイドでの処置と工夫」,IV「周術期の患者管理と合併症対策」,V「外科医を取り巻く諸問題」の5部,29章から構成されている。とかく軽視されがちな小手術,ドレナージ法,術前・術後管理,緩和ケアなどにも十分な頁があてられていて,研修医をはじめ外科認定医取得をめざす医師には有益である。通常最も多い消化器外科手術から導入,記述されていることも,編集上の工夫が感じられ好ましいことである。索引も充実している。
 本書を一読,いや反復して読むことを外科トレーニング中の医師に勧めるが,ある程度経験を積んだ外科医がコラムを中心に通覧するのも本書の利用法の1つである。第2版,第3版と版を重ねられることを大いに期待するが,第2版では嚢胞性肺疾患に対する鏡視下手術などの胸部外科の基本的事項も章立てをお願いしたい。繰り返すが,特色溢れる実践的な高著である。
B5・頁280 定価(本体6,500円+税) 医学書院


臨床にすぐに応用できる

結膜クリニック 大野重昭,青木巧喜 編集

《書 評》北野周作(日大名誉教授)

 何度読んでも興味深くそしてその都度得られるものの多い本があるが,本書もその1つであろう。
 本書は疾患篇と基礎篇から成るが,前者は I 感染症,II 免疫疾患,III 腫瘍・変性症・代謝性疾患に,附録として眼瞼と結膜疾患があり,後者には,結膜の異常所見,生理学および薬理学,病理組織学,局所免疫,検査法,抗生物質の起炎微生物スペクトル,アレルギー性結膜炎の診断基準と分類が記載されている。

疾患の全貌が理解できる

 疾患篇では,まず「サマリー」があって簡潔に要点がまとめられている。「病原体もしくは免疫学的背景と疫学」についで,「典型的症例」がカラー写真で提示され,診断のポイントが述べられている。「バリエーション」として,「鑑別診断困難例」,「難治例」などがそれぞれ具体的症例をもって図示され,鑑別に役立つポイントが示されている。疾患の全貌が理解されやすい流れになっている。
 さらに,最新の治療法,手術法が紹介されている。例えば,アデノウイルスに対するcidofovirやスティーブンス・ジョンソン症候群に対する羊膜移植術などである。
 最後に「実験室アプデート」の項目があり,PCR,免疫クロマトグラフィー,サイトカイン,細胞接着分子,遺伝子型分析など文字通りup-dateな情報が紹介されている。これらの他に,ブドウ球菌のスライム産生能,MRSA,MRSEの最近の知見,ニューキノロン耐性株の増加,ACV耐性のヘルペス,発売されたばかりのアデノチェックなどいたる所にホットな知見が記載されている。
 基礎篇で目につくことは,結膜疾患の診断上有用性の高い免疫組織化学の情報,アデノウイルス,クラミジア,単純ヘルペスなどの検出用各種キットの紹介であり,これからの臨床にすぐ応用されるのであろう。

最新の知見に基づいた内容

 それぞれの項目に記されている文献のほとんどは1990年代のもので,本書がいかに新しい知見に基づいた内容であるかを示している。
 カラー写真は豊富でサイズが統一され,原則として頁の上方に置かれていて見やすい。余白を埋める12篇の「TEA break」があるが,「分子疫学」,「健保の矛盾」,「つぼのつぼ」,「点眼薬の汚染」などいずれも面白くためになる。
 本書の序文に,「外来で結膜炎患者を前にして実地に役立つよう編集に心がけた」とあり,そして「基礎篇で最近の研究の進歩を感じとってほしい」と記されているが,その意図は十分に達成されている。
 とても20名以上の方の執筆によると思えないほど,構成,文体などが統一されて読み易い。
 ご一読をお推めしてよい本である。
B5・頁144 定価(本体14,000円+税) 医学書院


救急医療に携わるすべての人に

救急外来マニュアル 第2版
J. L. ジェンキンズ,他/山本保博,上嶋権兵衛 監訳

《書 評》加来信雄(久留米大教授・救急医学)

 救急医療は時間的行動が最も重要な使命を持っている。気道の確保には,頭部後屈法,あご先挙上法,下顎挙上法があるが,これらを知識として知っていても,すみやかに適切に施行できなければ,“人の命”を救うことはできない。このあたりが多くの諸検査データを並列にならべ熟思熟考を重ねて,治療を展開する分野の医療と趣きを異にする。

日本の救急医療

 また,救急医療は交通事故だけでなく,心筋梗塞や喘息発作など,それぞれの疾患の急性期の対応も当然のことながら含まれる。これは診療の間口を広く受け持つこととなり,専門志向が強いわが国の医学界に受け入れられない時代が続いてきた。しかし,最近になって診療の間口が広くても,診断の進め方が基本的に正しければ,確定診断はついていなくても,治療自体は間違っておらず,診断が確定するにつれて治療法も焦点が絞られてくることが理解されるようになってきた。むしろ,診療面では細分化された教育を受けただけでは,全体的で関連性を持った視野に立っての診断力が弱く,突飛な疾患を想定していることが多く,一旦,診断の方向性が間違ってしまうと,それを修正し転換すること自体が困難となり,治療が遅延してしまう結果となる。
 本書はJ. L. Jenkins,J Loscalzo,G. R. Braenの3氏による「救急外来マニュアル」で,わが国の救急医学界の第一人者である山本保博,上嶋権兵衛両教授による監訳本である。一般に,訳本の良さはその国の医療の実際を総括的にすみやかに知り得るところにある。一方,医療の基本は世界共通であるが,やはり国情が違えば医療状況も異なり,治療の実際が異なるため(例えば,治療展開や薬剤の投与量など)読みづらいことが多い。ところが,本書はこの長所を遺憾なく発揮し,短所となるべきところを救急医療に卓越した経験豊かな訳者陣による翻訳技術でよく補完されている。
 わが国でも「救急外来マニュアル」がすでに数冊発刊されている。しかし,わが国では冒頭に述べたように,救急外来が各科診療型(極言すれば片手間診療)をしてきたために,Department of Emergency Medicineという部門が存在せず,そのためデータの蓄積や解析ができないので,オリジナル性の高いものが出版されなかったものと思われる。したがって,既刊の多くが,初療展開,decision making,ハンドブックといったものに止まっている。

膨大なデータを分析,抽出

 本書を手にして驚異に感じることは,その内容が莫大なデータを分析し,抽出したもので,文中に訳された症状,病態,数値の1つひとつが吟味され的確な意味を持っていることである。すなわち,救急医療体制の歴史の上に出版された成書の集約本ということができる。
 本書を監訳し紹介された山本保博,上嶋権兵衛両教授に敬意を表するとともに,救急医療に関係している方々には,是非,ご一読をお勧めする次第である。
A5変・頁642 定価(本体8,700円+税) MEDSi


CCU 治療や救急医療に携わるレジデントに

CCUレジデントマニュアル 高尾信廣 著

《書 評》堀 進悟(慶應大助教授・救急部)

患者中心の安全な治療をめざす

 『CCUレジデントマニュアル』が上梓された。著者は聖路加国際病院内科の高尾信廣先生である。高尾先生が,やはり医学書院のベストセラーとなった『内科レジデントマニュアル」の著者の1人であったことを思い出しながら,楽しく一読させていただいた。そして,この本もベストセラーとなるに違いないと思った。
 戦後の一時期に聖路加国際病院がわが国の医療に果たした役割は大きいと言わざるを得ない。すなわち当時は本邦にもまだインターン制度があり,そのために日本中から応募した優秀なレジデントが聖路加に集まり,当時としては画期的な米国指向の医療を学んだのである。そのレジデントたちが各医療機関に戻り,後進を指導する立場に立つとともに「聖路加の医療」の雰囲気をレジデントに伝えたのである。小生はインターンも知らなければ,また聖路加で学ぶ幸せにも浴しなかった者ではあるが,聖路加で臨床訓練を受けたオーベンから直接的に,日野原先生の回診の素晴らしさなどを聞いたものであった。聖路加の患者中心(無駄に苦痛を与えない)の安全な治療をめざす「良き保守主義」は,このCCUレジデントマニュアルを読む限り今も健在のようである。

実際的な心臓病のミニ教科書

 本書をひもとくと,心性危機の救急処置から始まり,最終章の薬剤まで,実に49項目にわたり細かく項目が設けられ,あたかも心臓病のミニ教科書を思わせる。しかし,いずれも実際的である。循環器内科の臨床訓練を始めたレジデントを想定すれば,どの項目も必要不可欠で教えたいことばかりと言える。例えば無視されがちなConsultation Cardiologyについても,「非心臓手術の術前評価」として一項目が設けられてあった。また「鎮静薬」の項もレジデントには不可欠な知識であろう。なぜなら,CCU患者への鎮静薬投与はICU患者,あるいは外来患者に対する鎮静薬投与とはニュアンスが異なるからである。すなわち,著者が病棟で直接にレジデントを教育している情景が浮かんでくるのである。さらに,サイドメモとしてトピックやミニ知識が79項目にわたりまとめられ,その中には「インターフェロン治療中の心臓合併症」,「観血的血圧測定」など,ついつい教育し忘れがちな,あるいはいい加減になりがちな事項までが含まれていて,実に親切である。しかし,治療方針は保守的であるばかりではなく,「不安定狭心症」の緊急冠動脈造影,「肺塞栓」の血栓溶解療法など,かなり積極的な部分が含まれ,いわば緩急自在である。
 CCU治療に携わるレジデントのみならず,内科レジデントのすべて,さらに救急医療に携わる若い救急医のすべてに本書の通読を薦めたい。本書を読んだ上で,その底流に潜む「良き保守主義」についても考えていただきたい。
B6変・頁504 定価(本体5,500円+税) 医学書院


学生の講義,臨床実習に有用なスタイル

NIM 内分泌・代謝病学 第4版 井村裕夫・清野裕 編集

《書 評》斎藤宣彦(聖マリアンナ医大教授・内科学)

 最近の内分泌学や代謝病学は,そのコアとなる知識の大部分を分子生物学関係の知見が占めている。そのため,このコアの部分における新たな知見の集積は,周辺の学問に多大な影響を与え,飛躍的な進歩をもたらしている。
 20世紀もあと10年というあたりから,この進歩の速度が急加速したように思う。後世の人々は世紀末の大進歩の時代などと呼ぶのかもしれない。それはあたかも,ジャンボ機の離陸の時のように,あのばかでかい銀色の物体が神を恐れる気配など微塵も見せずに,想像をはるかに越えた速度と角度で急上昇していくのにも似ている。そして,油断していると,上昇速度について行けずに振り落とされそうな気持ちにさえなる。評者は,今,この領域の進歩に遅れまいと,新知見という風圧を受けながら歯をくいしばって尾翼の尻尾のほうにどうにかこうにかしがみついている状態である。

先端的知識とLecture方式

 そんな時,助けの手を差し延べてくれた書物,それがこのたび改訂された本書の第4版である。改訂にあたり執筆者諸兄は,第4版にはどこまでの先端的知識を収載すべきか,悩み,迷われたのではなかろうか。それは,各章の執筆者が斯界をリードしている方々,つまり先端的知見を創造しつつある方々であるが故の悩みではないかと推察する。そしてその方々が,それぞれ熟考の末,ここまでは改訂第4版に収載しよう,この知見は収載を待とうというラインを定めてくださったに違いない。その結果,冗長にならず,それでいて,食後過血糖改善薬やインスリン抵抗性改善薬,レプチンやβ3アドレナリン受容体などという新しいことにもさりげなく触れている。この抑えた切り具合が,なんともちょうどいいのである。このことと,従来通りのLecture方式を踏襲したこと,この2点が本書をきわめて明解なものに仕立て上げた源泉だろうと思う。
 第3版と比較してまず目につくことは,各頁から白い部分が少なくなり,字が多くなった。それは内容が豊富になったことを意味しているのだが,字が多くなることによって予想される読みにくさを,今版から2段組にしたことによって見事に回避している。第3版の目次と比べると,今版から新しいいくつかの項目が導入されていることがわかる。中でも最も目につくのは「アミロイドーシス」の章が新たに書き加えられた点である。これによって本書はますます充実したといえる。

学生から生涯教育まで

 卒前の学生の講義やテュートリアル,あるいは臨床実習など,いずれの場合にも,単元ごとのLecture方式というスタイルは有用で便利なことに違いない。また,卒後初期内科研修に際しては,本書を治療の実用書とペアで書棚におくことで利用価値が倍増するはずである。さらに本書の生涯教育資源としての有用性も高く評価したい。とくに,最近のこの分野はどうなっているのか…と感じ始めた向きには,一度本書をひもとくことをお勧めする。
B5・頁568 定価(本体7,500円+税) 医学書院