医学界新聞

第16回日本痴呆学会開催


 第16回日本痴呆学会が,小阪憲司会長(横市大)のもと,さる10月3-4日の両日,横浜市の横浜市教育文化ホールにおいて開催された。本学会においては特別講演にはアルツハイマー型痴呆を,シンポジウムに非アルツハイマー型変性性痴呆が取り上げられ,現代の痴呆に関する包括的な討論が行なわれた。

アルツハイマー型痴呆研究の 最近の動向

 特別講演「アルツハイマー型痴呆研究の最近の動向」(司会=都立神経病院 平井俊策氏)では,分子生物学と神経病理学の2つの視点からアルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)研究の現状が報告された。
 先に登壇した森啓氏(都精神研)は,早期発症性の家族性ADの原因遺伝子とされるアミロイド蛋白前駆体,プレセニリン1および2,晩期発症型および孤発性ADの危険因子として同定されたアポリポ蛋白E遺伝子の遺伝子型ε4などの関連遺伝子の変異が,アミロイド分子の沈着によって生じる老人斑にどのように関与していくかを紹介。最近の研究成果の総括を行なった。
 続いて武田雅俊氏(阪大)は,ADの基本的病理変化の1つである神経原線維変化(Neurofibrillary tangles:NFT)について解説を行なった。NFTは神経細胞胞体・突起内に生じる不溶性の線維構造で,2本の径10nmの線維が80nm周期でねじり合わされた特異な構造(Paired helical filaments:PHF)を有しており,過剰にリン酸化されたタウ蛋白によって構成されている。
 武田氏は,「タウ蛋白は本来チュブリンと結合し,細胞骨格蛋白であるマイクロチュブルの重合を促進し,マイクロチュブルの安定化と機能保持に関与しているが,リン酸化したタウ蛋白はチュブリンとの結合能を失い,このリン酸化されたタウ蛋白が凝集してPHFを形成する。その結果として神経細胞の変性脱落が起こり,痴呆の症状が発現すると考えられている」とし,またタウ蛋白のリン酸化に関与する酵素も同定されており,その活性機構についても現在検討が進められていることを報告した。

非アルツハイマー型 変性性痴呆をめぐって

 シンポジウム「非アルツハイマー型変性性痴呆をめぐって」(司会=小阪憲司氏)では,非アルツハイマー型変性性痴呆と総称される変性痴呆性疾患が取り上げられた。
 シンポジウムの冒頭で小阪氏は,非アルツハイマー型変性性痴呆を,(1)レビー小体型痴呆,(2)神経原線維変化型痴呆,(3)グリア内異常構造物を示す痴呆,(4)嗜銀性顆粒による痴呆,(5)前頭・側頭葉萎縮を示す痴呆,(6)皮質下諸核のabiotrophic変性を主とする痴呆,(7)分類不可能な初老期痴呆症の7つのタイプに分類。今回はその中から,小阪氏の提唱するびまん性レビー小体病(Diffuse Lewy Body Disease:DLBD),石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病(Diffuse Neurofibrillary Tangles with Calcification:DNTC),辺縁系神経原線維変化痴呆(Limbic Neurofibrillary Tangle Dementia:LNTD)の3つが取り上げられ,これらの疾患の解説や,症例を交えた報告が行なわれた。