医学界新聞

第40回全国医学生ゼミナール開催

「医学・医療における科学性と人間性」がメインテーマ


 医学生の自主的学術文化活動を全国規模で行なう第40回全国医学生ゼミナール(通称=医ゼミ)が,さる8月7-10日の4日間,愛媛大学医学部において,「医学・医療における科学性と人間性」をメインテーマに開催された。
 今年は全国の大学医学部,医科大学の学生のほか,看護系大学や,看護系専門学校などから約750名が参加。3つのメイン企画と総論,60を超える分科会などを通じて,現在の医療・医学が直面している問題について真剣な議論が行なわれた。


●医ゼミを現地で取り組んで
 上城統士(愛媛大3年・医ゼミ全国実行委員,現地財政局長)

 僕が初めて医ゼミに参加したのは2年前(1995年)の弘前医ゼミの時でした。この時に高齢者福祉の問題についての分科会を自分たちのサークルで出したのですが,予想以上に多くの人に参加してもらい,日常の大学生活ではなかなか語り合うことのなかったこの問題について,初めて会った人とでも真剣に討論することができました。この時に,真面目に医学・医療のことについて考えている人がたくさん集まる医ゼミは本当に楽しく,愛媛大学の自分の周囲にいる学生にも広げていきたいと思いました。この想いは大学生活が続く中で一層深くなりました。
 僕の周囲(全国の医学部でもそうかもしれませんが)では,知識詰め込み型の教育と忙しい日常の中で,自分たちの周囲で起こっている重要な問題(医療保険制度の改革や臓器移植などの医療問題から,消費税率の引き上げ,沖縄問題などの社会問題まで)について深く考える機会がなくなっているように感じます。大学のテストをいかに要領よく乗り切るかだけで,自主的に深く物事を考えるということがなくなってきていると思います。そんな時に医ゼミに触れて,医学・医療について深く考え,自分がどんな医師になるのか,どんな生き方をするのかを改めて考える機会ができたら,と思っていました。

チャンス到来

 そのチャンスは思ったより早く来ました。去年の信州医ゼミ(本紙「医学生・研修医版」2212号参照)の最後に,愛媛大学で次の医ゼミを開催することを立候補し,それから医ゼミの開催に向けての取り組みが始まりました。11月の学生大会で学生自治会での主管を決定するために,医ゼミの魅力・内容を全学生規模に広めていきました。この中でもさまざまな困難はありましたが,多くの学生から医ゼミへの意見が寄せられ,関心や期待を感じることができました。また多くの教官から期待のメッセージが寄せられ,医ゼミの魅力が多くの学生に伝わっていき,学生大会でも圧倒的多数の賛成で主管が決定しました。十分とは言えない取り組みではありましたが,医ゼミの全体像を知らせることができ,医ゼミの開催に向けて大きな一歩を踏み出しました。
 それからは実行委員の募集に力を注ぎましたが,多くの医学生は自分の日常を持っており,そこから踏み出して協力してくれる人はごく少数で,大変な時期が続きました。それから春を迎えて新入生歓迎の活動の中で,医ゼミの魅力を多くの新入生に伝えることができ,30人以上の実行委員を迎えることができました。新入生の期待や要求に医ゼミというものが,十分にかみあったからこそ,これだけの取り組みができたのだと思います。新入生の問題意識は高く,一部にある「医学生は偏差値が高いだけで入学してきて,問題意識が低い」などという論調はまったくあたっていなくて,むしろその後の教育に問題があるのではないかということを感じました。
 新入生の高い要求や関心に応えるだけの取り組みは十分にはできませんでしたが,それでも医ゼミを成功させるために少なくない実行委員が頑張ってくれました。深夜にまでおよぶ会議やビラの作成など,医ゼミを準備していくことは思ったよりも大変でくじけそうになることもありましたが,お互いの意見を率直に出し合い,ともに作業し学ぶ中で,信頼関係もできていき,今までにはなかった現地実行委員会の中での団結が生まれたように感じます。このような,学生が受け身でなく自主的に深く考え,集団的に議論し,ともに実践していくような取り組みが,もっともっとできたらよいと思います。それが将来医師になった時にも,視野を広げ問題を解決していく力にもなり,これからの日本のよい医学・医療をつくっていく担い手として成長していけるのではないでしょうか。医ゼミが愛媛大学で開催され,僕自身も含めて少なくない学生がその中で成長できたことは,これからの愛媛大学にとって大きな財産になると思います。

「医ゼミの魅力」を満喫

 今年の医ゼミは,「医学・医療における科学性と人間性」というメインテーマで開催されました。最初は僕自身もピンとこないテーマでしたが,医ゼミが具体的になる中で本当に大事なことだと感じることができ,とても充実した医ゼミでした。特に今の医学生は科学的に考えることが不足していることを医ゼミを通じて改めて感じました。大学の知識詰め込み型教育,また政治的な思想に対しての誤解や偏見などに縛られて,事実に基づいて考えるという最も基本的なことができない。これは科学者になるものにとっては大きな欠点だと思います。例えば,先輩や医師が言ったことを事実を確認せずに鵜呑みに信じたり,ある人の意見を,「あの人はそういう考えの人だから」と事実からではなく,その人の思想から出発して考えていることはないでしょうか。事実を見つめるということは,簡単なようで難しいと思います。
 今年の医ゼミは僕自身にとっても深く学ぶことのできたものでしたし,多くの参加者が,医ゼミの基調にある「医ゼミの魅力」を満喫できたと思いますし,参加者の想いにも十分に応えられたものだったと思います。来年もいいゼミをつくっていきたいし,多くの人に参加してほしいと思います。


●「医ゼミ」一色の夏
 今野友貴(弘前大1年)

 全国医学生ゼミナール。今年の私の夏はこの「医ゼミ」一色でした。愛媛大学において開催された今年の医ゼミでは,「医学・医療における科学性と人間性」をメインテーマに,分子生物学,医療保険「改革」,脳死・臓器移植という3つのメイン企画と,医師養成,平和の2つの全国企画を作り上げていきました。そんな中で私ができたことは本当に小さなことでしかなかったけれど,確かに医ゼミをこの手で「作った」という充実感を持っていられることをとても幸せに思うと同時に,私に医ゼミの存在を教えてくれた先輩方に感謝したい気持ちでいっぱいです。

医ゼミとの出会い

 弘前大学に入学して間もなく「医ゼミに参加する会」の存在を知り,最初は講演会に行くような感覚で参加した私でしたが,そこで驚いたのが,上級生が常に講演内容について自分の中でしっかりと噛み砕き,それに対して意見を持ち,それを堂々と発表する姿でした。そして私たち1年生にも必ず意見を求めてきたのです。上級生のそんな姿を前にして,私も負けていられない,私もしっかり聞いてそれに対して意見が言えるようになろうと思いました。
 7月21日から始まった準備期間においても,周りの学生の関心の高さや勉強量の多さに圧倒されるばかりで,自分の未熟さを恥ずかしいとも感じました。しかし,私は今回の医ゼミでいかに自分が勉強不足であったかを知ることができただけでも,よかったと思います。医ゼミのよい点は多くのことが学べるということであり,先輩たちの姿勢から学び方,考え方も学べるのだと実感しました。医ゼミの大きな魅力はもう1つあると思います。それは,とにかく議論が徹底していることです。どんなに時間がかかっても,疑問に対する到達点が見えてくるまで議論を続けるのです。こんなにディスカッションができる場は,他にはあまりないのではないでしょうか。
 この準備期間は,本当に目まぐるしく過ぎていきました。午前中は仕事をし,午後は講師をお呼びして,学習会とメイン企画・全国企画のプロジェクト会議。夜は交流会で親睦を深めました。私は平和企画のプロジェクト会議に参加し,その中で原水禁世界大会に行くことができました。医ゼミと同様に,平和な世界を求めて学んだり実際に働きかけたりしていこうという人々の熱気に包まれる中で,人々の健康を守る医療従事者になる者として,平和について考えていくことが,重要かつ当たり前であることに気づきました。

「成長できる場」

 そして医ゼミは本番を迎えました。各企画では,学生レポートと講師による講演があり,それぞれの内容を深く学ぶことができ,いろいろな面から1つの事例を見ることもできました。誰かの意見を鵜呑みにするのではなく,多くの意見の中から共感できる点は共感し,自分の頭で考えていくべきだし,そうできる環境を持っていることが,医ゼミが「成長できる場」たる所以なのだと思います。また,全国の大学から分科会が持ち寄られ,医学・医療,ひいては私たち人間を取り巻く事象についてそれぞれが考え,その到達点を発表しました。大事なのは答えを出すことではなく,「どう考えるか」だと思います。分科会は,それを主体的に作ることで学んだり,違う会に参加して新たな分野に関心が生まれたりという2つの面を持っているのです。
 医ゼミは,学ぶ場であると同時に交流する場でもあります。talk & talk,テーマ別交流会,学年別交流会,ビアパーティーと,様々な交流会を経て,私も全国に多くの友人ができました。普段は「自分とは何なのか」「どう生きていくべきなのか」なんて考えようとしないけれど,そういったことを正面から向き合える雰囲気でした。また,尊敬できる先輩にもたくさん出会うことができ,こういう人になりたい,この人たちに認められたい,そのためには,社会のことなどをもっと勉強して成長しようという意欲が沸いてきて,目標ができました。多くの人たちとの出会いはこれからの私の頑張りにつなげていけると思います。
 医ゼミを1年生のうちから知ることができて本当によかったです。来年からはもっと主体的に医ゼミを作っていき,自分の描く医師像に少しずつ近づけるように成長していきたいと思います。