医学界新聞

「人間の機能の科学」をテーマに

第34回日本リハビリテーション医学会が開催される


 リハビリテーション科が標榜科となり,医学的リハビリテーションの重要性が認識される中,第34回日本リハビリテーション医学会が,さる8月31日-9月2日の3日間,近藤徹会長(埼玉医大教授)のもと,京都市の国立京都国際会館で開催された。
 今学会は,国際リハビリテーション医学会第8回世界大会(IRMA VIII,本号1面より関連記事を掲載)の開催に合わせ,例年の開催時期(6月)を変更し,相互に参加ができる体制を整えた。なお学会のテーマは,「高齢化社会の到来とともに,いかに人間の機能をよりよい状態に保つかが,リハビリテーション医療に求められている」との主旨により,「人間の機能の科学としてのリハビリテーション医学」とした。

幅広い領域をカバーする企画が

 今学会では,リハビリテーション医療の幅広い領域をカバーするように,多彩なプログラムが企画された。
 その内訳は,特別講演「神経科学最近の進歩-随意運動の学習と制御に関する中枢神経機構」(岡崎生理研 佐々木和夫氏),招待講演「Transcranial Magnetic Stimulation in Rihabilitation Medicine」(ロンドン神経学研究所 J. C.ロズウェル氏),会長講演「分娩麻痺-予後予測と治療」をはじめ,特別企画のスーパーセミナー「リハビリテーションにおける老年期痴呆の対応」,スーパーコース(1)「筋電図と臨床神経生理学入門」,(2)「インスリン抵抗性仮説に基づく動脈硬化性疾患の予防に対する運動の効果」の他,障害者の健康を取り上げ脳卒中と脊損患者の心疾患の検討を行なったシンポジウム「運動障害者の健康-脳卒中と脊髄損傷患者における虚血性心疾患の発生状況と発病の背景」や,肢体不自由児施設の問題,職業性腰痛,在宅訪問評価の3つをテーマとしたパネルディスカッション,さらにワークショップ「地域医療・ケアにおけるリハビリテーションチーム」,研修セミナー4題など。なお3日目にはIRMAとの合同シンポジウム「The Role of Oriental Medicine in Pain Management」も開催された。また,口演およびポスター発表による一般演題は467題を数え,IRMAの参加者を含めて多くの会場で熱心に討議に参加する光景がみられた。

公的介護保険法の成立をにらんで
パネル「在宅訪問における評価を巡って」から

 パネルディスカッションIII「在宅訪問における評価を巡って」(座長=防衛医大 石神重信氏,横浜市総合リハビリテーションセンター 伊藤利之氏)では,今秋の臨時国会で成立が見込まれる介護保険法に関する話題に集中し,登壇した4名がそれぞれの立場からの発言をした他,特別発言「評価容体としての介護史的視点から」を今田拓氏(東北文化学園)が行なった。

現場からの評価は

 まず園田茂氏(慶應月ヶ瀬リハビリテーションセンター)が,医療機関の立場から「退院時評価とfollow up」を口演。園田氏は,どのような退院時評価が入院中心の医療機関にとって重要なのか,また脳卒中患者の退院後在宅中のADL変化に着目し,報告を行なった。「機能障害,併存疾患は,退院後すぐには変化しにくいため,ADL変化に寄与するのは住宅環境,家族の扱い方である」と強調。また,「実際の在宅環境での評価ができない時期に,退院後の患者の変化を予測して指導を行なうためには,個々の状況を細かく評価するとともに,ADL状況の全体像をつかむことが大切」と指摘した。
 続いて地域リハビリテーション機関の立場からは,小池純子氏(横浜市北部地域療育センター)が「初期評価とリハ効果判定」を意見発表。「在宅訪問における初期評価では,医学的診断,機能障害の程度,ADL能力に関する情報が必要だが,対象の多くは機能障害そのものの回復が期待できず,その評価だけでは実際のリハ計画は立てられない」として,「家族の介助能力,家屋環境の評価や,自宅周辺の環境,地域の社会資源などに関する幅広い情報が不可欠」と指摘した。また,横浜市総合リハビリテーションセンターでの保健所・福祉事務所の保健婦,ケースワーカーによる訪問調査・評価と,リハ医,PT・OT,ケースワーカーなどで構成するリハチームとの評価の棲み分け,違いなどを,数量化されているB.I.&FIM(身体評価と日常生活動作)とともに紹介する一方,介助・介護量の評価やQOLの評価が数量化できていないのが課題であると述べた。

システムとしての評価は

 学会の評価基準委員会の立場からは,西村尚志氏(信州大医療短大)が発言。これまでに学会が提示してきた「評価における日常生活動作の概念」(1976年),「ADL実態チェック表(案)」(1987年)の内容を解説するとともに,ADL尺度の共通化の検討が必要と1994年以来2回実施したアンケート結果から,「入院患者の治療効果を報告する際に評価尺度としてBarthel IndexおよびFIMを用いることにより,会員相互の理解になるだろうとの一応の結論を得た」と報告した。さらに,入院から在宅まで1つの尺度では評価はできないとしながら,「医療と福祉の一体化が社会的に要求される中,職能団体としてこれらの基準への対応も緊急課題として検討が迫られている」と述べた。
 二木立氏(日本福祉大)は「評価システムの在り方」と題し,医療経済学上,(1)障害者の在宅ケアは施設ケアに比べて安くはない,(2)介護保険における要介護度別の給付上限額の設定は妥当ではないとの立場から発言。二木氏は,「障害者の在宅ケアは施設ケアに比べて安くすむという主張が聞かれるが,家族による介護費用を無視している数字であり,社会的費用の視点から金額表示すれば,在宅ケアのほうが費用が高くなることは,欧米での比較試験でも明らか」と述べる一方,訪問ケアと通所ケアの効果・費用の比較については一定の結論が出ていないとした。また,「要介護者の評価では,生活問題の全体性の視点が不可欠だが,要介護認定はそのうちのごく1部(ADL等)しか評価しない。給付費を個別的に設定することに無理がある」と指摘し,「介護保険で現金給付を行なわない場合には,要介護認定は不要,『ムダの制度化』である」との苦言を呈した。
 また,特別発言を行なった今田氏は,「『介護』が保健,医療,福祉の連携の中から理念化され,リハビリテーション医療の中でもクローズアップされてきたが,介護の概念は医療の範疇ではなく,福祉の中で育成されてきたもの」と指摘。さらに「介護」の語源についての見解も述べた。

要介護認定,ケアプラン策定は誰が

 フロアを含めた総合ディスカッションでは,「評価をいつ行なうのか,どのように訪問に結びつけるのか」,また「どのチーム(看護,介護,リハ)が評価するのが妥当なのか」,「要介護認定は誰が行なうのか」などが論議,検討された。
 これらに対しては,「リハ学会員がケアマネジャーの資格を取り,ケアプランをたてることから取り組んでいこう」,「要介護認定がされるまでには1か月もかかるが,それでよいのか」という指摘の他,「リハ関係者が独自にサービスプランを立てる必要があろう」という意見もあった。
 この中にあって二木氏は,「医療制度上,高齢者は老人医療では70歳以上,介護保険では65歳以上とされる。また,障害者(特に精神)は介護保険の対象になっていない」などの矛盾点を指摘。「介護保険は数年先に,老人保健と合体して形を変える可能性が大きい。早急な法制化にはまだ疑義がある」との見解を示し,介護保険法成立を前提とする風潮に警鐘を鳴らした。