医学界新聞

BOOK REVIEW

がん診療に従事するレジデントに最適

がん診療レジデントマニュアル 国立がんセンター中央病院内科レジデント

《書 評》川越正平(虎の門病院・血液科)

 高齢社会が訪れ,これまで以上に慢性疾患,特に日本人の死亡原因の第1位であるがん診療の重要性が増していることは間違いない。
 ここで,日本の卒前医学教育をかんがみると,基礎医学や診断学の教育に重きが置かれている。一方,治療の詳細や高度な判断については,臨床の現場で修得することが期待されており,がん診療の実際についても,卒前に教育される機会は少ない。
 にもかかわらず,日本には標準化された卒後研修が存在しないこともまた事実である。その結果,oncologyを体系的に学んだ医師はごく少数であり,内視鏡を担当して診断に関わった内科医や手術を執刀した外科医が,片手間にがんに対する化学療法を行なっている現状も見受けられる。

内科腫瘍学研修の標準化を意図

 このような中で,国立がんセンター中央病院内科レジデント編『がん診療レジデントマニュアル』が出版された。著者らは,「科学的に明らかにされたevidenceを基に,標準的な内容にすること,科学的にevidenceがはっきりしない場合はそれなりの注釈を加えること」に留意し,「内科腫瘍学研修の標準化を意図した」と明記している。一例をあげると,5-FU経口剤のように世界的には標準化されているとは言い難いが,日本において汎用されている治療について,明確に批判している。
 このように,安易な経験主義を批判し,evidenceに基づくという編集方針は,「がん診療」という深刻な領域が主題であるがゆえに,大変好感を持てるものである。そして,国立がんセンターの医療を,全国の一般病院に浸透させたいという著者らの意気込みが感じられる仕上がりとなっている。

実際の臨床現場を強く意識

 本文においては,まず点滴指示の具体例まで適宜紹介されているなど,実際の医療現場を強く意識して書かれている点が大きな特徴である。regimenの紹介にとどまらず,臨床的注意点を具体的に記載している。例えば,抗がん剤の漏出性皮膚障害の項は,一般医にとっても役に立つことであろう。また,予後因子と予後予測を可能な限り具体的に記載しているのもありがたい。
 もう1つの特徴として,冒頭の第1章をインフォームド・コンセントとがん告知に割くとともに,がん疼痛の治療,緩和医療など,現在のがん診療を語る際に避けては通れない項目までを網羅している点があげられる。Memo欄を設けての用語解説も効果的である。また,本文中にも適宜文献を呈示して読者の便をはかっている。
 インフォームド・コンセントが強調されるようになった現在であっても,「現実には医師の裁量にまかされる部分もかなりの範囲」に及ぶ。「がん診療」のような重大な方針決定の場において,「患者自身に一方的に選択させるのもやはり主治医として無責任」であり,「主治医として治療方針を明らかにする」必要がある。
 本書は,内科医・外科医としてローテイト研修中にがん診療に従事するレジデントにとって,最適なマニュアルであると思う。また,現場で日々発生している問題点や合併症への具体的な対処を解説しており,看護職の方々にも是非お薦めしたい1冊である。
B6変・頁296 定価(本体3,800円+税) 医学書院