医学界新聞

連載 vidence-Based Medicineのための

実践統計学入門

山本和利 京都大学医学部附属病院総合診療部講師

(7) 治療効果の指標

●事例1

 週に1度片頭痛を起こす患者40人を無作為に割り付け,4種類の薬を予防投与した。片頭痛を起こさなくなるまで薬の量を増やすように指示し,表1のような結果が得られた1)

●3つ以上の母平均間の差の検定

 3群以上の平均値を比較する際に最もよく用いられているのはt検定の繰り返しである。しかし,これは間違いである。事例についてt検定を用いると,4C2の組み合わせ,すなわち検定を6回行なわなければならない。
 さらに以下のような問題が起こってくる。検定結果が帰無仮説(第4回参照)のもとで「確率(p)0.05で有意」とすると,2つの検定とも有意でない確率は(1-0.05)×(1-0.05)=0.9025となる。とすると,2つの検定のうち少なくとも一方が有意になる確率は1-0.9025=0.0975と,0.05のほぼ2倍になる。
 検定回数がn回になると,少なくとも1つが有意になる確率は1-(0.95)nとなる。事例にt検定を6回用いて少なくとも1つが有意になる確率は,1-(0.95)6=0.26となる。検定は1回ごとが独立していると仮定しているが,実際には群間に関連があるかもしれない。それを無視すると偽陽性を示しやすくなる。
 New England Journal of Medicineの298巻から301巻中で,3群以上の平均値を比較した50論文のうち,27論文が統計学的手法が不適切であった2)3群以上の平均値を比較するには分散分析をする必要がある(分散分析を適切に用いた論文は14/50,約30%であった2))。

●分散分析

 1回の検定だけで差があるかどうか判定するにはどうしたらよいであろうか。そこで開発されたのが分散分析法である。
 ここでは薬A,B,C,Dの効果に差があるか分析したいのであるから,これらの平均値を求めてみる(図1)。さらに,薬間の比較をするのだから,全体の基準を1つ決めておく必要がある。そこで総平均を求めると21.925が得られる。
 データの変動をみるには差そのものよりも差の2乗和をとったほうがわかりやすい。各データと総平均との差の2乗和を全変動(ST)と呼ぶ。ST=(17-21.925)2+(21-21.925)2+(23-21.925)2+…+(20-21.925)2[40回]=600.77と計算できる。
 薬間の変動を水準間変動(SA)と呼ぶ。SA=10[(20.0-21.925)2+(25.9-21.925)2+(22.2-21.925)2+(19.6-21.925)2]=249.88と計算される。
 同じ薬の中での変動を水準内変動(SE)と呼ぶ。SE=(17-20)2+(21-20)2+(23-20)2+…+(29-25.9)2+(28-25.9)2+(23-25.9)2+…+(17-22.2)2+(15-22.2)2+(24-22.2)2+…+(18-19.6)2+(20-19.6)2+(25-19.6)2…+(20-22.2)2[40回]=350.90と計算される。ST=SA+SEの関係が成り立つ。
 薬の間に差があるかどうかを知りたいのであるから,SAに注目しなければならない。同じ薬の中での変動よりSAが大きいならば,薬間に差があるためと考えられる。SAとSEの比をみることを利用して薬間に差があるか検討できる。実際には,自由度によってSAとSEの平均を求めて,比を出して検討する。
 自由度(3,36)のF値は,有意水準α=0.05で2.864である。実際の計算から得られたF値8.55はこれよりはるかに大きいから,帰無仮説は否定され,薬間には有意な差があることがわかった(表2)。しかし,これだけでは満足できない。一歩進めて,どの群とどの群とに有意差があるのか知りたい場合にはどうしたらよいのであろうか。

●ニューマン・クルーズの段階法

●事例2

 陰部ヘルペスの治療法を評価するため,患者36人を3つの診療所で無作為に割り付け,薬または偽薬を投与した。ヘルペス病変が消失するまでの日数を表4に示した1)

●2つの要因を考慮した分散分析

 標本の変動を,偶然の誤差と1つの要因の差異によるものであることを,それぞれの分散比によって検討する方法を一元配置分散分析法(one‐way ANOVA)と呼び,要因を2つ考える場合には二元配置分散分析法(two‐way ANOVA)と呼ぶ。
 事例2のように同じ条件のもとで試行が何回か繰り返された場合には,2つの要因(診療所,薬)それぞれが単独に与える影響のほかに2つの要因の交互作用も検定される。これには総変動(ST)=要因A間の変動(SA)+要因B間の変動(SB)+交互作用A×Bの変動(SA×B)+要因内の変動(SE)という関係が成り立つ。手近のコンピュータ統計パッケージにデータを入力すると,表5が得られる。薬と偽薬で有意差が認められるが,それ以上に診療所間に有意差があることがわかる。

●ここまでわかるとどの程度論文が読めるか?

 分散分析に精通して多重比較を理解していればNew England Journal of Medicineの論文の84%は読めることがわかっている3)

●まとめ

■3群以上の平均値を比較するには分散分析をする必要がある。
■どの群とどの群とに有意差があるのか知りたい場合にはニューマン・クルーズの段階法を用いる。
■要因を2つ考える場合には二元配置分散分析法を用いる。

参考文献
1)Hirsch RP, Riegelman RK: Continuous Dependent Variables, In Statistical First Aid Interpretation of Health Research Data, Boston, Blackwell Scientific Publications, 205-254, 1992.
2)Godfrey K: Comparing the means of several groups, In Bailar III JC, Mosteller F, ed.: Medical Uses of Statistics 2nd ed., Boston, NEJM Books, 233-257, 1992.
3)Emerson JD, Colditz GA: Use of statistical analysis in the New England Journal of Medicine. In Bailar III JC, Mosteller F, ed.: Medical Uses of Statistics 2nd ed., Boston, NEJM Books, 45-57, 1992.