医学界新聞

第19回地域リハビリテーション研究会開催される

公的介護保険を見据えた地域リハビリテーションの展望


 第19回全国地域リハビリテーション研究会が,さる8月22-23日の両日,大阪府の大東市立総合文化センターで開催された。実行委員長の山本和儀氏(大東市福祉保健部保健医療福祉センター次長)のもと「公的介護保険を見据えた地域リハビリテーションの展望:市町村行政の果たす役割とは」をテーマに掲げた本会は,浜村明徳氏(国療長崎病院副院長)および澤村誠志氏(兵庫県立総合リハビリテーションセンター所長)による2題の基調講演,それを受ける形で4つの市町の首長,助役らをパネリストに迎えたフォーラム(座長=神戸市看護大教授 岡本祐三氏),大田仁史氏(茨城県立医療大附属病院長)による特別講演と,地域で活躍する当事者,ボランティア,ケースワーカー,開業医らをパネリストに迎えたフォーラム「当事者と支える人たち:当事者が望むこと」(座長=山本和義氏)が企画された他,「地域リハパネル展示」が行なわれ多数の発表がなされた。

介護保険を包括した地域リハ活動

 浜村氏は,「市町村行政の果たす役割:公的介護保険と地域リハビリテーションの展開」を講演。「介護保険はサービスのありようを規定するものであってすべてを解決するものではない。理念として掲げられているノーマライゼーションを達成するには,(1)直接的援助活動の充実だけでなく,(2)組織化活動(ネットワークづくり)の促進,(3)教育啓発活動が不可欠である」と「介護保険を包括した地域リハ活動」の重要性を指摘。介護保険導入にあたっては市町村が(1)運営・管理・財政面においてはサービスの量と質の管理,(2)サービスの提供面においてはマンパワーと財源の確保等の基盤整備,医療保健福祉の連携,相談窓口の一本化等の役所の行革等をなすことが必要であるとし,さらにそれを包括する形で「地域リハ,在宅ケアからの街づくり」,「地域にあったケアシステムの構築からの地方分権を確立」すべきであると展開した。

家庭医の養成急務

 澤村氏による基調講演「地域リハビリテーション活動の現状からみた将来展望」では「既に,施設医療は飽和状態を迎えている。在宅ケアの方向へ転換し,生活の質を問うていく時代であり,いかに優れたコミュニティをつくっていくかが重要である」とし,その観点から家庭医の役割に言及,「日本では地域の開業医も病院の医師もグループでの活動の経験に乏しく,本来であれば,プライマリケアのリーダーたるべき家庭医が日本にはほとんどいない」と指摘し,家庭医の教育制度の必要性を訴えた。
 当事者本位の医療保健福祉のあり方をめぐっては「各々異なる障害を持った人たちのニーズに対応するために,健常者ではなく,障害を持った人たち自身が,仲間たちの住宅改造,カウンセリング,アドヴォカシーをする」ような方向をつくることが重要であると指摘し,最後にプライマリケアシステム,バリアフリー社会,24時間ケアシステムの3つを強調し,「これなくしてノーマライゼーションはない」と結んだ。

ノーマライゼーションへの道のり

 大田氏による特別講演「ノーマライゼーションへの道のり:共に生きることへの誠意」では,「お年寄りが非効率的な存在とされ,排除される」現状を指摘。「現代を生きるお年寄りは輝かしい過去を語る場所を持たない。昭和20年の敗戦によって否定されてしまったそれを語らないことが,むしろ矜持を保つこととなっている。さらに今日,自らのの存在が効率性のもとに社会的な負担としてしか語られぬ中で,彼らは『自分は何のために生きてきたのか』ということを考えざるをえない。この豊かな時代にあって,お年寄りを効率性のもとに負担の対象としか見ないことは,かつての口減らしとしての老人排除以上に残忍である」と指弾した。「私たちの心は効率第一主義のもとに平板に固められがちだが,障害者や病者,高齢者たちは私たちが持ち得ない感性をプラスの方向にもマイナスの方向にも増幅して,そこからの信号を日常の振る舞いや生活の中から,私たちに伝えてくれる。それはあたかも芸術や文学に触れるのと同じように,私たちの感性を耕してくれる。『社会的弱者』といわれる感性に満ちた人々と触れ合う機会を得ている我々は,この人たちの存在の意味を積極的に世に訴える立場におり,その人たちと『共に生きることへの誠意』とはなにかを考える努力こそノーマライゼーションへの確かな道程ではないか」と訴え,介護保険をはじめ,保健,医療,福祉のありかたが議論される今日に,「なぜ,非効率性の中にある人々にお金をつぎ込むのか」というその根本の意味を問わねばならないと指摘した。