医学界新聞

16万人を超える透析患者のQOL向上のために

第42回日本透析医学会が開催される


 第42回日本透析医学会が,さる7月18-20日の3日間,阿岸鉄三会長(北大教授)のもと,札幌市のホテルロイトン札幌,北海道厚生年金会館などを会場に開催された(2253号に一部既報)。


「パラダイムの拡大」をテーマに豊富な演題が発表される

 本学会では,「透析医療は,腎不全患者の生命維持手段として有用であることは紛れもない事実。透析療法は,人工腎臓として生体の器官・臓器の一部品であるという理念に基づき始まったが,透析患者のQOLの向上のためには,近代西洋医学のパラダイムにとどまらず,東洋思想を含めた全体医療(ホリスティック医学)など,より広いパラダイムで対処する時期に来ている」との阿岸会長の考えにより,メインテーマは「パラダイムの拡大から潜在発想力の開発へ」とした。
 また,16万7192名〔同学会統計調査委員会(委員長=名大教授 前田憲志氏)1997年7月1日発行;わが国の慢性透析療法の現況(1996年12月31日現在)より〕の慢性維持透析患者のQOLを検討すべく,226セッション1157題の一般演題口演,ポスターセッション554題の他,カレントコンセプト'97,ビデオフォーラムなど全体で371セッション2042題にもおよぶ発表が,医師・コメディカルスタッフら1万人を超える参加者のもと行なわれた。これらの演題の中には,メインテーマに沿った会長講演「透析医療におけるパラダイムの拡大を考える」をはじめ,「インフォームドコンセント-考え方と実際」(京都女子大国際バイオエシックスセンター長 星野一正氏)など12題の教育講演,「維持透析患者のquality of lifeとその評価法」(司会=横浜第一病院長 日台英雄氏,日鋼記念病院長 大平整爾氏)など7題のシンポジウム,「わたしの勧める特殊療法-東洋医学・漢方・気功・全体医学」(司会=新宿石川病院長 徳中荘平氏,栗橋病院長 本田宏氏)などワークショップ14題などが含まれる。

透析医療と腎移植の接点

 ワークショップ「透析医療と腎移植の接点」(司会=新潟大教授 高橋公太氏,日本医大教授 飯野靖彦氏)では7名の演者が登壇し,透析医療と腎移植の比較や両者の協力体制の必要性などが論じられた。
 まず下条文武氏(福井医大)は,「透析患者における管理とその限界」を口演。「長期透析患者の多くに関節障害,骨破壊が起こるが,その主要因はアミロイド症や腎性骨異栄養症である」と指摘した。また,合併症が長期透析の限界を招くことから,「透析アミロイド症に対しては,β2-microglobulin(β2m)が体内に蓄積することが発症の引き金となるため,β2m除去能の高い透析治療が有用」とその可能性を示し,腎移植によってβ2mが大幅に下がり進行が止まることを示唆した。
 川口洋氏(東女医大腎医療センター)は,「慢性腎不全患児の管理とその問題点」を発表。「小児慢性腎不全に対しても,成人同様に血液透析やCAPD療法,腎移植の治療法がある。これらは独立したものとみられがちだが,実際の臨床の場では相互に深い関係がある」としながら,成長障害など成人と異なる臨床的特徴を提示。その上で,「成長ホルモンの障害により,女児9歳,男児11歳で成長が望めなくなる。成長ホルモンの投与が必要だが,早期腎移植が最も有効」と指摘した。
 一方,斎藤和英氏(新潟大)は「長期透析患者の腎移植」と題する口演で,腎移植を行なった透析歴22年および27年の長期患者例を提示。「経過は良好ながら,抑うつ感や妄想などが発症することある」と,透析がなくなったことの解放感とは逆の不安感が生じ,精神科を受診した患者がいることを明らかにするとともに,社会復帰には精神医学的なサポートが必要と述べた。
 吉村了勇氏(京府医大)は「高齢受腎者における腎移植の臨床検討」で,腎移植を施行した481例の中から50歳以上と以下で術前問題点などを比較検討。「高齢受腎者では術中よりも術後,特に腎機能以外の合併症に対する管理が必要」と報告した。
 また「透析患者および腎移植患者における妊娠・分娩の問題点」を発表した柏木哲也氏(日本医大)は,「腎移植患者による出産は1963年が初例」と述べ,早期低出生体重児が多いながら出産例が増えていることを実数をあげ紹介した。
 さらに打田和治氏(名古屋第二日赤病院)は,「慢性腎不全ライフ20年への透析療法と腎移植療法の関与」と題し口演。透析医と移植医が同次元,同座標で連携関与することの必要性をあげた。
 最後に,「沖縄,日本,アメリカの比較より腎移植を考える」を発表した潮平芳樹氏(沖縄県立中部病院)は,アメリカでの高齢者(70歳)の腎移植例を示し,「腎移植は医療費や患者のQOLなど多くの面で透析よりも明らかに優れており,本邦でもさらに推進することが急務」と指摘した。
 その後のディスカッションでは,フロアを交え「透析・移植の対比ではなく,透析から移植へともっていく必要がある」,「社会的意味合いを考え,両者の連携,協力体制が重要」,「互いがどこまで可能なのかを知り,連携するためには情報交換が必要」などと指摘,論議がなされた。