医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


解剖生理学の貴重な教育資源が誕生

人体の構造と機能 エレイン N.マリーブ 著/林正健二,他 訳

《書 評》熊田 衛(聖路加看護大学)

 原著は健康科学・看護学系の解剖生理学教科書として,英語圏でひろく用いられているが,その理由の一つに,著者のユニークな経歴があげられる。著者は動物学の博士号を持ち,教育現場で看護系学生と接するうちに,人体の科学的理解と看護の臨床とのつながりをわかりやすく,かつ面白く伝えるにはどうしたらよいかを真剣に考えるようになった。そこで改めて看護学を学び,1985年にマサチューセッツ大学で老人看護学の修士号を獲得した。生命科学のバックグラウンドのうえに,看護教育についての明確な目標を持ちながら看護学を学んだ著者が書いたのが本書である。原著の初版が出版されたのは1980年代と思われるが,すでに4版を重ねている。
 ところで,私はこれまでに看護系の専門学校,短期大学,4年制大学,大学院修士・博士過程で,解剖生理学(形態機能学)を教えたことがある。どの場合でも学生のニーズを充たした,満足のゆく授業をすることは大きなチャレンジである。解剖生理学に割り当てられた時間数が少ないうえに,カバーすべき領域が広い。それをせいぜい1~2名の(多くは非常勤の)教員が担当している。しかも,国家試験により学生の到達度が評価される。教える側がよく工夫をしないと,脈絡のない知識をただただ詰め込むことになりがちだ。幸い,担当した看護系の学生は,医学部の学生より一般に真面目で忍耐強いので授業に付き合ってくれているが,それにも限度があろう。
 本書は何よりも,解剖生理学をわかりやすく,面白く学べるよう配慮している。平易でくだけた表現を用いて,内容が頭に入りやすいよう工夫されている。だからといって,基本的な内容を省いているわけではない。化学や細胞学の基礎がきちんと説明され,現代の分子免疫学や免疫疾患の基本にも触れている。特に感心したのは,多色刷りの図がよく整備され,十分な紙面を割いたことである。実は,生命科学・健康科学の教科書で名著といわれるものは,ほぼ例外なく,これらの条件をそなえている。Stryer著の『Biochemistry』はその好例であろう。

世界的名著に日本語でアクセス

 本書はこのような原著の翻訳である。翻訳ゆえの難しさもあるが,訳者たちはよく努力している。5人の訳者のうち,4人は知己であり,特に親しい2人(武田ご夫妻)については,英語能力もよく知っていて,高く評価している。また,日本語版の出版にあたり,原著のカラー図を写真で複製するのではなく,デジタル技術を使って医学書院が「再現」しているので,視覚情報は損なわれていない。
 英語で書かれた良い教科書が,日本語版として再生するには,著者,翻訳者,出版社の熱意と協力が不可欠である。名著が日本語でアクセスでき,貴重な教育資源として活用できるようになったことは,看護教育に携わる一人として,心から喜びたい。
A4変・頁488 定価(本体4,800円+税) 医学書院


生理学の複雑な知識の迷路を抜け出すために

コンパクト生理学 R.F. シュミット 著/佐藤昭夫監訳

《書 評》黒澤美枝子(国際医療福祉大学・保健学)

 私は現在,看護婦(士),理学療法士,作業療法士,医療言語聴覚士,診療放射線技師等を育てる,いわゆるコメディカル分野の総合大学で生理学を教えているが,いずれの分野においても,生理学は最も重要視されている教育科目の1つである。しかしながら,多数出版されている生理学教科書は,大部分,医学部の生理学教育に主眼をおいて書かれたものであるというのが現状である。
 コメディカル分野の大学教育はスタートしたばかりであり,生理学教育のスタンダードも明確には示されておらず,どういう教育を行なっていくべきかを試行錯誤している。将来医療を助ける人々が臨床の場に出た時,個体として統合された生体機能を理解するためには,生理機能の基本を広く統合的に学ぶことが大切であると考えられる。
 そこで,私は現在,基本的な生理機能全般が正確にかつ平易に書かれている教科書(『生理学』,佐藤優子ら著,医歯薬出版)を使用して,生理機能をなるべく統合的に理解させるべく授業を進めている。生理機能の基本をおさえるという点で,この教科書に大変満足しているが,一方で,生理学をもう少し詳しく勉強したいという学生も多数おり,そういう学生にどの教科書を推薦すべきかと苦慮している。というのも,現在出版されている生理学の教科書は,非常に平易に書かれているか,細部にわたって非常に詳しく書かれているか,の両極端のものが多いためである。

一歩進んだ生理学学習の手引き

 生理機能を深く勉強していこうとすると,多岐にわたって複雑な生体機能の細部の迷路に入り込み,肝心な機能の把握が難しくなりがちである。今回,医学書院から出版された『コンパクト生理学』を見て,これこそ私が求めていた,一歩進んだ生理学学習の手引きだと確信した。著者が序で書いておられるように,本教科書は“生理学の複雑な知識の迷路”から抜け出すための“アリアドネの糸”(ギリシャ神話で,迷路を抜け出すための助けの糸の意)を意図しているとある。まさに,本書は,著書の意図通りにできあがっている。
A5変・頁312 定価(本体4,800円+税) 医学書院