医学界新聞

第8回全国老人保健施設大会開催される

「これからの医療保険制度と老人保健施設」を論議


 第8回全国老人保健施設大会が平山登志夫会長(老健施設晴山苑施設長)のもと,さる7月3-4日の両日,千葉市の幕張メッセで開催された。「地方文化としての高齢者介護」をテーマとする本学会では「高齢者保健福祉行政の課題」(厚生省老人保健福祉局長 羽毛田信吾氏),「人間の老いと老化への対応ー優終の美をめざして」(聖路加看護大学長 日野原重明氏)の2題の講演やルイス・A・リプシッツ氏(ハーバード大助教授)による特別講演「おもいやりと地方文化ー高齢者ケアの質の要素」の他,シンポジウム,パネルディスカッションなどが企画された。
 本号では,先の通常国会で継続審議となった介護保険法案や医療保険制度の行方,老人保健施設の機能・役割などを論じたシンポジウム「これからの医療保険制度と老人保健施設-在宅ケア支援をみつめて」(座長=医事評論家 水野肇氏)での議論を紹介する。


 最初に登壇した松谷有希雄氏(厚生省老人老人保健課長)は,継続審議となった介護保険法案に触れ,「次国会での成立を期待している」と述べ,医療保険制度については「さらに踏み込んだ抜本的な改革が必要」と強調。「この夏以降,それらを含めた総合的な議論がなされるだろう」と制度再編への意欲を示した。さらに,在宅ケアについては,「在宅3本柱(デイサービス,ショートステイ,ホームヘルプサービス)や訪問看護等の既存のメニューの他に,介護保険ではさらにメニューを加え,充実させていきたい」とし,「老人保健施設(以下,老健施設)は,在宅ケア,痴呆対策のいずれにおいてもその中核として期待されている。医療法人等の各法人では自由に在宅のメニューを増やせるようになっており,老健施設が中心となって在宅ケアの支援を進めてほしい」との期待を示した。

生活の場で医療が供給されるべき

 次に一圓光彌氏(関西学院教授)は,医療保険を取り巻く状況と老健施設の位置づけについて発言した。一圓氏は「日本経済が右肩上がりが望めない現在,現行どおりの医療費の使い方でよいのかを考える時代」と指摘。「特に高齢化に対しては非常に弱い医療費構造になっており,医療費の出来高払いを保険でサポートするというやり方ではうまくいかない状況にある」とし,「予防・リハビリテーション重視の老健施設の定額性がモデルとなって診療報酬の改定をリードすることになる」との見解を示した。さらに,77日という70歳以上の老人の平均入院日数は不適当な日数であるとし,「老人にとっては医療の日常化,生活の中で医療が提供されることが必要であり,医療だけ,福祉だけではサービスは完結しない。脱病院化,プライマリケアを進め,生活の場でサービスを提供できるような総合力が大事である。老健施設には医療と福祉の中間,施設と在宅の中間として,地域ケアを促進する役割が求められる」と指摘した。

地域ニーズに応えた再構築必要

 続いて横山万蔵氏(山形県西川町長)は,豪雪,過疎,県下最低の平均所得という状況の中で,「健康で長生きできる町づくり」に取り組んできた経過を報告。高齢化率が1989年より20%を超え,現在は28.1%に達しているこの町では,食生活の改善,体育施設の整備,長寿に対しての奨励金制度等に取り組んでいる。最近では町の中央に特養ホーム,老健施設,ショートステイ,デイサービスセンターの機能を一元化した施設を,町立病院と渡り廊下でつなげる形で設置するなど,施設の充実を進めている。また,役場の機構についても保健福祉部として窓口を一本化したことなど,総合的なサービス提供の試みを紹介し,介護保険の必要性を訴え発言を終えた。
 最後に登壇した山口昇氏(全国老人保健施設協会長,公立みつぎ総合病院管理者)は,(1)高齢化の速さ,(2)要介護老人の急増,(3)家族依存型在宅介護の限界,(4)縦割り制度(保健・医療・福祉),(5)医療費急騰等の課題に対処すべく,新しい高齢者介護の仕組みの必要性を訴えるとともに,全国老健施設協会が老人保健福祉審議会に提出した老健の機能に関する意見書の内容を紹介。(1)総合的ケアサービスの機能を持つこと,(2)家庭復帰のための通過施設であること,(3)訪問看護ステーション,支援センター等を併設し,在宅ケア支援機能を持つこと,(4)地域と連携することの4つの機能を強調し,「寝たきり防止から始まった老健施設は,施設と在宅との連携なしには考えられない」と述べた。また広島県御調町での自らの取り組みに触れ,「地域包括ケアシステム」の構築の必要性を示すとともに,「在宅とは,自宅だけでなくケアハウスやグループホームなども含めた,幅広いものと考えるべき。老健施設は,それらへのサービス提供施設としてケア付き集合住宅を併設するなど,地域のニーズに応える必要性があろう」と提言した。
 4人のシンポジストの発言を受けての総合討論では,主に痴呆への取り組みについて議論が交わされた。特に昨年4月から導入された逓減制については,山口氏が「寝たきりは努力次第で何とかなるが,痴呆の場合には6か月で家庭へ返すのは困難」と指摘し,「国もそのことを理解し,画一的な基準を見直してほしい」と提起。フロアからも同様の意見が出され,痴呆性老人については,老健施設の機能のあり方,あるいは療養費のあり方を含めてさらなる議論の必要性を示した形となった。