医学界新聞

〔インタビュー〕第8回IRMA開催にあたって

上田 敏氏(帝京平成大教授・第8回国際リハビリテーション医学会組織委員長)に聞く


演題・参加者ともに最大規模に

本紙 第8回IRMA(国際リハビリテーション医学会)世界大会が,8月31日より国立京都国際会館で開催されますが,その開催にあたりましてお話を伺いたいと思います。まずIRMAが組織され,日本が開催国となりました経過をお願いします。

上田 IRMAは1968年にリハビリテーション医学(以下,リハ医学)に関心を持つ医師が組織した国際的な個人加盟の団体です。その音頭をとったのは,アメリカの故シドニー・リヒトですが,1970年にイタリアで第1回世界大会が開かれ,その後メキシコ,スイス,プエルトリコ,フィリピン,スペイン,アメリカと4年ごとに開催されています。日本はIRMA設立時から役員を出しておりまして,1990年にスペインのマドリッドで開かれた第6回IRMAの際に開催国として立候補し,翌91年の理事会で正式決定しました。
 日本からは毎回一般演題の応募数が多く,大きな貢献をしてきています。開催国からの演題数が多いのは常ですが,アメリカに次いで多いのが日本です。ただ,シンポジウム等の演者あるいは座長として起用されることが少ない。言い換えれば,日本はリハ医学に関する研究活動は活発だが,英語力が弱いためか世界的にあまりPRがされていないと言えるのかもしれない。私としては,単にお祭り騒ぎをしたくて立候補したわけではなく,日本のリハ医学を世界的にもっと認めさせたいという気持ちが強かったわけです。
 今回は招待演題が200以上,一般演題が約800集まり,全演題数が1000件を超えました。これまでのIRMAの中では群を抜いて多い数字で,私も驚いています。
 また,主催団体は日本リハ医学会,日本学術会議,日本障害者リハビリテーション協会の三者ですが,日本リハ医学会の学術集会を,今年だけ特別に同会場で同時期に並行して開催し,国内学会の参加者はそのままIRMAにも参加可能という態勢がとれましたので,海外からの参加者を含めますと3000名くらいの参加が見込まれます。
本紙 開催日数は実質3日半ですが,これまでも同じでしたか。
上田 今回は短くしています。と言いますのは,前回のアメリカの場合は5日間でしたが,それでは長すぎるという意見が大勢を占めました。そこで今回は短くしたのですが,そこにたくさんの演題が殺到し,それをどう配分しようかと非常に苦労しました。うれしい悲鳴ですね。

21世紀への架け橋をテーマに

本紙 今回のテーマと目玉となる企画を。
上田 テーマは「Across The Bridge Toward The 21st Century」です。これは,今回が20世紀に開かれる最後のIRMAで,次回は4年後の2001年ですので,橋を越えて21世紀に向かっていこうという主旨です。私としてはここ10~20年のリハ医学の成果を総括し,そして21世紀に向かう態勢をみんなで確認しようという気持ちで「21世紀への架け橋」としました。

多彩なプログラムを企画

上田 内容ですが,現在のIRMA会長グラボイス先生にリヒト記念講演「21世紀のリハビリテーション医学」をお願いしています。それから,連日朝の1時間はメインホールで総会基調講演を行ないます。初日には日本から前学術会議会長の伊藤正男先生に神経生理学の立場から「脳の可塑性」を,2日目にはイギリスのウェイド氏から「リハビリテーション医学における評価」と題し,特にADLやQOLをどう評価するかについてお話しいただきます。また3日目には,アメリカリハ医学会長のメルビン氏に最も新しいリハビリテーションの臨床的なシステムとして「組織的臨床マネージメント・システム」を,最終日には,オーストラリアのスミス氏に「老年医学的リハビリテーション」をお願いしました。
 またリハ医学に関係する国際団体にはIRMAの他,リハビリテーション・インターナショナル,国際物理医学・リハビリテーション連盟がありますが,そこの代表とWHOのリハビリテーション担当者を招待し,シンポジウム「リハビリテーション医学における国際協力」を開き,どのような協力体制が取れるかを話し合います。
 その他27の教育講演,シンポジウム38題,パネルディスカッション3題,ワークショップ2題,セミナー3題が主たるものです。とにかく,朝の1時間だけは他に企画セッションは行なわず,1会場に集中しますが,その後は一般演題も含め12の会場に分かれて発表が行なわれますので,期間は3日半ですが非常に濃密な内容です。

広い見地からリハ医学をみつめて

上田 また,今回の特徴としてコメディカルの人たちのためのプログラムがあります。企画の段階からコメディカルの人たちにかかわっていただきましたが,通常のシンポジウム3題分に相当する「国際作業療法シンポジウム」を1日通しで行ないます。同じく「言語療法の特別講演およびシンポジウム」を,これは6セッションに分かれますが,企画しています。
 また,臨床的なシンポジウムとして「急性期の脳卒中のリハビリテーション」では国際的な比較をしますし,「神経心理学的な評価とリハビリテーション」では高次脳機能障害に関する討議を行ないます。ここでは,その直前にテーマに沿った教育講演を行ない,演者を含め引き続きシンポジウムを開き,ディスカッションをするという形をとります。他のテーマに関しても同様の形を取るように企画しています。
 9月2日には国内学会とのジョイントシンポジウム「痛みのマネージメントにおける東洋医学の役割」を開きます。これはアジアで開かれるということを考えて,鍼灸が中心になると思いますが,日本と韓国や欧米の方にも参加をいただきます。
 興味をひくと思われますものに,地域リハ関連の「途上国における地域リハビリテーション」と「先進国における地域リハビリテーション」の2つのシンポジウム。それから「心臓のリハビリテーション」や「リハビリテーションにおける電気診断学」。最近磁気刺激で診断を行なうことが盛んになってきていますから,「磁気刺激」のシンポジウムは話題になると思います。
 一方で,狭い意味でのリハ医学ではなく,もっと広い見地からということで,「リハビリテーション医学における倫理の問題」,障害者に対する地域の認識を高めることをねらいとした「コミュニティ・アウェアネス」。「視覚障害者のリハビリテーション」というテーマでは,ご自身が視覚障害者でもあるアメリカのリハ医学教授に座長をしていただきます。障害者に対する地域の認識を高めたいというのは,彼の発案です。 その他にも,自身が脳性麻痺者であるストラックス教授は,「エイズ患者の地域ケア」というテーマの企画をたて座長もします。そういう点では,純粋に医学的な側面だけではなく障害者福祉に関するテーマをかなり取り入れており,幅が広い,いわば何でもあるという学会になったと思います。
 開催第1日目が夏休みの最後の日で日曜日ですから,イベントホールでは午後から京都市民を対象とした一般公開の「親と子の福祉機器教室」を催します。これは一般の人にリハビリテーションをもっと身近な問題として理解いただくという主旨です。
本紙 これまでに併設展はありましたか。
上田 医学的な展示はありましたが,これほど多彩なものはありませんでした。私見ですが,リハビリテーションという分野は医学の世界だけに閉じこもっていては伸びないと思っています。障害者や高齢者,あるいはその家族を含めた国民の理解と支持がなければ伸びません。そういう意味で障害者リハビリテーション協会にも主催団体として参加いただきました。

日本で開催する意義

本紙 日本ではリハビリテーション科が標榜されるなど,追い風に乗っている気もしますが,IRMAの今後の日本への影響,また先生ご自身の抱負や期待などを最後にお伺いしたいと思います。
上田 日本に招致するには,3つの意味があると思っています。1つはランゲージ・バリア,言葉の問題。IRMAの公用語は英語で,どこで開催されようともすべて英語で発表,ディスカッションします。そこで,今回は英語に慣れるという意味を含め,シンポジウムに必ず1人は日本人の演者を立てました。座長もしかりです。
 また日本のリハビリテーションの実力を世界にもっと広く認識させたいという気持ちがあります。外国の人は,今回の開催を通し,話を聞いて,実際をみることで日本の実力を見直してくれると思います。そうするとこれから国際会議に行った時の扱いが違ってきます。国際的に認められますと,向こうから,日本の意見はどうなのか,どう考えているのかと聞いてくるようになります。そういう評判が確立されて,世界各国から投稿や依頼原稿がきたり,国際学会のシンポジストとして依頼がくるようになればいいですね。参加した日本人にも今回が刺激となり,もっと英文で発表しようという機運が起こればと考えています。
 2番目としては,他ならぬアジアで開かれるということです。日本はどちらかというと,目は欧米の先進国を向いている感じがありますが,しかしこの10年間を振り返ると,アジア諸国への貢献も相当大きなものがあります。留学生も多く,技術協力という形で来日,あるいはこちらから出て行く場合もありますが,非常に盛んになってきています。今後一層盛んになるきっかけとなればと願っています。今回の場合,途上国や現在経済的な困難に陥っている国を対象に,演題を申し込んできた人には参加費,交通費などの経済的援助を,全体で約200人ほどしています。
 3番目としては,リハビリテーションというのは医師だけで進めていくものではないということの強調です。今回の場合,準備過程からコメディカルの人たちの力を大いに借りています。日本の広い意味のリハビリテーションの集大成にすべく,医療チーム全体の総力をあげてこの学会を準備し,そして参加いただきます。これは長い目で見て,日本のリハビリテーションの世界のいろいろな部門の人たちが協力し,よいリハビリテーションを築いていくことにも役立つのではないかと考えているわけです。
本紙 ありがとうございました。