医学界新聞

第70回日本整形外科学会が開催される

「日整会70年の歴史から21世紀への創造」がテーマ


整形外科領域の進歩発展のための豊富な企画

 第70回日本整形外科学会(以下,日整会)が,金田清志会長(北大教授)のもと,さる6月19-22日の4日間,札幌市の北海道厚生年金会館を主会場に開催された。
 「日整会70年の歴史から21世紀への創造」をメインテーマに掲げた同学会の目的について金田会長は,「参加者が,(1)基礎研究成果と臨床応用への連携や臨床研究成果の進歩を発表し,他人の発表に触れ最新の知識を修得する,(2)質疑応答を通し,互いに意見を交換しあう機会を得る,(3)一般演題,シンポジウム,特別講演などを通して,整形外科疾患の病態研究,診断,治療の要諦と進歩の現状を修得する,(4)互いの専門的関係を強化する機会を持ち,整形外科の進歩発展に貢献する」ことなどをあげた。
 これを踏まえて本学会では国内からの一般応募演題722題の他,ビデオ演題22題,海外からの一般演題22題が発表された。また,国際シンポジウム7題をはじめ,国際パネルディスカッション1題,シンポジウム2題,パネルディスカッション8題,教育研修講演18題,症例呈示からの討論8題,さらに先達教授4氏による特別講演,会長講演および特別企画で構成された。

独創的な研究発表を世界の場で

 特別企画「日本整形外科学会70年の歴史から-日本から世界への挑戦」で金田会長は,学会の先輩や同僚が世界に向けた研究成果の発表が,国際的整形外科ジャーナルなどでどのように評価されてきたかを分析。金田氏は,ジャーナルの他に単行本に最低10回以上にわたり引用・論及された日本人の論文を基礎と臨床に分けて,論文名,著者名,掲載誌を報告し,「日本の整形外科研究は世界的にも評価されているものが多い。これからは国際的コミュニケーションを図るために,英語で独創的な研究発表することが重要」と述べた。
 また,山内裕雄氏(順大)は特別講演「日本の整形外科の問題点と今後への提言」の中で,「わが国の整形外科学講座創設は1906年。その50年後の1957年に整形外科医となった私は,隆盛期に身をゆだねたことになる」と前置きし,問題点と今後望まれる姿についての私見を述べた。
 山内氏は,整形外科分野においても進んでいる専門化・細分化の問題に触れ,「学問の進歩に伴って専門化が起こるのは必然であり,この分野でもその結果各種の学会や研究会が設立されてきた。しかし,運動器という各部分の関連性が高い組織を扱う整形外科では,1人の患者を総合して診る態度も重要であり,整形外科医はスペシャリストである前にジェネラリストであってほしい」と述べ,「これらの専門化した分野は日整会という大樹のもとに収斂されるべきであって,ひとり歩きによる細分化は絶対避けたい」と強調。また今後の日整会のあり方についても,「学会,研究会の林立は進歩の反映であるがいき過ぎの感があり,整理・統合しなければ日整会は空洞化する」と苦言を呈した。その一方で,個人病院からグループ病院の創設の検討,経済的評価を含めたアイデンティティの確立,「関節鏡」が果したように日本が世界の整形外科をリードすることを期待するなど,これからの可能性についても示唆した。

日米間をリアルタイムで論議

 国際シンポジウム(1)「人工股関節置換術をめぐる最近の争点」(司会=福井医大 井村慎一氏,愛知医大 澤井一彦氏)では,「21世紀に向けたTHA(Total Hip Arthroplasty:人工股関節全置換術)をどうするのか,またそのガイドラインをどうするかについて討議したい」として,日本側からTHAにおける「セメント使用の功罪,非使用の功罪,セラミック骨頭使用THA」について3名が意見を述べた他,ドイツ,アメリカからも3名が発表。
 また,同(2)「転移性脊椎腫瘍-手術治療における最近の進歩と課題」(司会=金田清志氏,阪大 米延策雄氏)では,国内4名,海外2名(アメリカ)の6名が登壇。それぞれの部位における手術的対応と成績が述べられ,総合討論の場ではターミナル期における患者とのかかわり方,個人の尊厳を守ることの重要性などが,医療全般にかかわる問題として論議された。
 一方,同(3)「脊柱側弯症治療におけるInstrumentation手術の成績と課題」(司会=和歌山医大 玉置哲也氏,慶大 鈴木信正氏)では,日米から6名が登壇。脊柱および胸椎側弯症に対する矯正効果や成績について意見発表が行なわれたが,その中で「成長期後方固定術後の諸問題」を発表した瀬本喜啓氏(阪大)は,「術後の身体に対する不安を訴える者は,身体の成長期であるとともに心の成長期であることを忘れてはならない」と述べた。また,「成長期における患者の関心は体幹変形であり,医師が考えるいわゆる側弯症ではない」と,医師の良好例と患者の思いは大きく違うことを指摘した。また,このシンポジウムの中ではM. A. Asher氏(カンザス大)が,衛星回線を通じリアルタイムで「The Status of Sublaminar Wire Anchorage of Spainal Instrumentation in 1997」を口演し,その後の討議にも加わるという試みも行なわれた。