医学界新聞

映画『愛する』完成,公開へ


 映画『愛する』(原作=遠藤周作『わたしが・棄てた・女』,監督・脚本=熊井啓,日活配給)が完成,今秋からロードショー公開される。  原作は,昭和20年代のハンセン病がまだ「らい病」と呼ばれ,伝染病・遺伝病として忌み嫌われ,誤解・偏見・差別をもたれていた時代を背景に昭和44年に発表された。また,。過去にも同じ日活が映画化している。昨年「らい予防法」が廃止され,その背景は異なっているものの,この映画は未だに残るハンセン病の偏見・差別の実態を静かに描いている。

〔ストーリー〕
 町工場に働くミツ(酒井美紀)は,クリスマスの日に沖縄県出身の小児麻痺の後遺症を持つ吉岡(渡部篤郎)と出会い結ばれる。その後,ミツは大学病院でハンセン病と診断され,病名を知らされることなく「検査のため」と長野県の療養所「信愛園」に隔離される。吉岡からは「まさかエイズでは」と疑われるなど,不安と悲嘆の中,信愛園の入園者(岸田今日子,小林桂樹ら)と触れ合い,交流を深めていく。
 しかし,ミツのハンセン病は誤診と判明する。退園し都会の吉岡のもとへと向かうミツだったが,思い直し「手伝いがしたい」と訴え,信愛園にとどまり,入園者らともに生活をするようになる。だが……。

〔監督の思いが画面から伝わる〕
 映画では,純な心を持った1少女を通して,心身に傷を負った青年との出会い,初めて恋・性,ハンセン病と診断されたことでの別離,療養所での奉仕活動を行なう人々との出会いや触れ合いが描かれ,人間としての生き方にめざめ,人を「愛する」ことの喜びを伝える。
 熊井監督は,これまでにも遠藤周作原作の『海と毒薬』『深い河』を映画化。この映画が第3作となる。熊井監督はこの映画について,「基本的人権を無視した『らい予防法』は廃止されたが,この病に対する偏見と差別は,遠藤氏が書いた頃と本質的に変わらずに,巌然として残っている。この偏見と差別はエイズのように全世界的な問題でもある。遠藤氏は,こうした重いテーマを独特なユーモアをこめて読者に語りかけているが,それにならい希望にみちた青春映画として描いた」と語っている。
 なおこの映画は,新生日活の第1回作品でもあり,医学書院も背景となる机の上や書棚の雑誌・書籍に協力をしている。