医学界新聞

介護保険の導入とケアプランをめぐって

第5回全国老人ケア研究会が開かれる


 「看護と介護の協調と自立をめざして」をスローガンとし,老人ケアの質の向上に貢献することを目的に発足した全国老人ケア研究会(会長=都老人研 鎌田ケイ子氏)の第5回研究集会が,さる7月5日,横浜市の神奈川県立青少年センターにおいて1000名を超える参加者を集め開催された。
 本研究会では,2000年から施行予定である介護保険法をにらみつつ,特別講演「介護保険とケアプラン」(厚生省介護対策本部 三浦公嗣氏),会長講演「老人ケアにおけるケアプランの意義」(鎌田ケイ子氏),シンポジウム「ケアプランの取り組み」(司会=東海大教授 井上千津子氏,鎌田ケイ子氏)が企画された他,4題の研究発表(1題は紙上発表)が行なわれた。  

介護保険・ケアプランに向けた準備を

 特別講演で三浦氏は,介護保険制度のねらいについて,「(1)サービス提供が主目的となるのではなく,老後の不安を除去し,自立をめざす,(2)国民からの保険金徴収により,40歳以上の者なら誰でもが受けられる権利,(3)提供する側の一方的なサービスではなく,受給者である高齢者に選ぶ権利があり,受給者のためのサービスの構築,(4)医療保健制度のように全国一律なものではなく,保険+自費支払いの組み合わせも可能な,地域に合ったサービスをめざした保健・医療・福祉を超越する保険である」と説明。在宅とするか施設サービスとするのかは本人が選択できること,在宅と施設を交互に行き来できるケアプラン(サービス計画)の策定が可能であることを述べる一方で,「特別養護老人ホームだけに重症者が集中することにはならない」,「個々のニーズにあったサービス計画をどう作成するかが重要となる」ことを強調した。
 またケアマネジメントについては,「ケアプランとは,要介護者が介護サービスを適切に利用できるよう,心身の状況,生活環境等を勘案し,サービスの種類,内容および担当者を定めた計画」と定義づけた。
 さらに介護支援専門員(ケアマネージャー)の要件と役割について,(1)専門性,(2)公正・中立性,(3)サービス提供事業者との連絡調整・情報交換,(4)サービス提供の管理,(5)必要に応じたサービスの見直し,(6)要介護者およびその家族に対する情報提供,(7)要介護者およびその家族に対するサービスに要する費用等の説明をあげた。
 一方,サービス計画作成に際してのアセスメント手法については,「厚生省としては一定の書式は整えるものの,ケアプランの作成にあたっては,MDS方式などそれぞれの方式の特徴をいかし,最もあった方法を用いること」と述べるにとどまった。また,介護支援専門員の要請に関しては「実施研修が受けられるかどうかの視点が重要」と指摘。
 演習および実習を主体とする研修や,実施研修後に試験を行なうなどの提言をするとともに,試験に向けた標準テキストを作成する用意があることも明らかとした。

「ケア」の定義を提言

 鎌田氏は,会長講演で「介護保険の導入が見込まれる中,これからはケアの時代。ただ,ケアの概念に共通性がない」とし,「さまざまな疾患,障害を持った高齢者に対する生活支援。その人らしい自立性と質の高い生活の維持の支援。そのための多様なサービス提供が求められている」と問題提起し,看護を含めた広義の介護を「ケア」の定義とすることを提言した。また,その定義の上に立った「あらゆる職種が合意できるケアプランであることが重要」と述べ,ケアマネージャーは各職種がなれるが,利用者の立場でのケアプランが基本であり,医療の枠や保健・福祉の枠にとらわれることのないケアの視点が重要であると指摘。さらに,体系化されていないケアの領域に科学性を持たせることが今後の課題であることを示唆するとともに,ケアプランの作成にあたっては,科学的な裏づけ,共通言語を持った手法を用いる必要性を説き,現時点ではMDS-HC(Minimum Data Set-Home Care)が最も優れている手法であることを強調した。

ケアプランの取り組み

 シンポジウムでは,MDSを現場で導入している5施設からの発表があった。
 最初に浜砂貴美子氏(宮崎温泉リハビリテーション病院総婦長)は,老人病院の立場から,ケアプランの導入の過程において,看護と介護の協働がありカンファレンスなどで調整をしつつ計画を立てていったことを解説。「看護婦のケアの視点が広くなった」ことをその成果にあげた。
 次いで是枝祥子氏(福音の家在宅支援室長)は特別養護老人ホームの立場から発言。若い人の動機づけに,夕食を一緒に摂りながらMDSの勉強会を進めたことを述べるとともに,入居者の自立支援のために,「アクティビティアセスメント表を作り,ケアプランを作成した」ことを報告した。
 また古田美奈子氏(清雅苑婦長)は,家庭復帰率がオープン以来80%を超えている老人保健施設の立場として,看護婦7名と3年以上の経験のある介護福祉士8名で勉強会を行なった経過や,その後の導入の過程を発表。地域の訪問看護ステーションなどとの連携を今後の課題にあげた。
 さらに前田栄子氏(やまはな老人訪問看護ステーション)は,ケアプラン導入の成果として「看護の視点での,自分の行為に自信が持てるようになった」と報告する一方,今後の課題として「患者・家族とともに共有できるプランの構築のために,ヘルパーを含めさらなる連携が重要」と述べた。
 最後に一広伸子氏(北九州市役所)は,5人に1人が高齢者という市町村保健婦の立場から発言。北九州市八幡東区が進める高齢者対策の「いきいき21推進協議会」の状況を解説し,カンファレンスと多職種との協働から,自分たちの役割がわかるようになったこと,医師の参加が増えたことなどを利点にあげた。
 演者らの発表の後に行なわれた総合討議では,ヘルパーとの協働,連携などが話題となった。また,フロアからの質問にあった「協調と自立」の意味について鎌田会長は,「看護と介護が協調することで双方が自立へ向かい,相互に自立することが協調へつながる」と研究会の主旨を解説。介護保険制度を見据え,より看護と介護の連携が重要となることを強調した。