医学界新聞

「精神科看護の実証」をテーマに

第22回日本精神科看護学会が開かれる


 第22回日本精神科看護技術協会総会・日本精神科看護学会が,鹿島清五郎会長(北林病院看護部長)のもと,さる5月28-30日の3日間,金沢市の金沢市観光会館を主会場に開催された。
 今学会のメインテーマは,「精神科看護の実証」。これは,これまで教育・研究の場や臨床の場,さらに地域社会,産業保健,行政の場で実践してきた精神科看護を,今こそ実証する必要があろうとのことから設定されたもの。粕田孝行氏(長谷川病院看護部長)による基調講演「精神科看護の実証」をはじめ,同テーマでのシンポジウムも開かれた他,一般演題173題(ポスターおよび誌上発表を含む)の発表,および研究助成論文の発表も行なわれた(関連記事)。


研究の積み重ねによる看護の実証

 粕田氏は基調講演で,「薬物依存による障害や接触障害など,人格障害が増えている」と現代社会における精神疾患を概説。「生活障害と人格障害をどうサポートするか,また精神科看護は個をどうみていくかが課題」と示し,自らの看護のアイデンティティの確立を踏まえて,「(1)時代をみつめる,(2)個をみつめる,(3)対(関係)をみつめる,(4)集団をみつめる,(5)看護をみつめる,(6)看護パラダイムをみつめる」と6テーマから精神科看護の実証を試みた。
 粕田氏は,1974年にM.シーグラーとH.オズモントが提唱した「脳の病院という考えがベースとなる医学的モデル」の他,道徳的・障害モデルなどの「精神保健(医療)モデル」について解説。「個をみつめ,関係をみつめるだけでなく,集団をみつめる」必要性を強調するとともに,「看護職の特性は,集団(病棟)をみることにあり,日常患者をみている看護職が行なう集団療法が治療に役立つ」と述べた。
 また,個・集団だけでない「セルフケア看護アプローチ」やCNS・エキスパートナースなどに関する「専門教育の大切さ」などを訴え,個・関係・集団を基本とした精神看護者の役割については,「(1)観察し介入する,(2)役割モデルとして患者とつきあう,(3)精神療法の代行者となる,(4)環境の創造,(5)コーディネート」をあげ,「看護の実証には研究の積み重ねが重要となるが,看護がその結果(アウトカム)をどう見出し,生かしていくのかがさらに重要となる」と指摘した。

行政,企業,地域,教育からの実証

 シンポジウム「精神科看護の実証」(司会=東海大 瀧川薫氏)では,行政,企業,地域,教育から4人のシンポジストが登壇。
 最初に井口悟氏(都立松沢病院)は,精神保健行政職に従事していた経験を基に,臨床に携わる看護者が知っておかなければならない法的知識,精神科看護に求められる専門性について述べた。井口氏は,第3者介入による入退院判定(医療審査判定)や精神鑑定(措置診察),精神科救急医療,病院指導(立入り監査)などを概説するとともに,専門職に求められることとして「(1)患者,看護職関係を明確にした援助,(2)患者と医師のコーディネート機能,(3)人権を守る」をあげた。
 次いで桜井輝子氏(大和銀行)は,産業看護婦の立場から発言。「男性社会(企業)では生産性,利益を上げることが優先されるが,その中にあって健康の維持が必要」と述べる一方,「心の病気や成人病が増えている」と指摘。集団にそぐわない人格障害が増えていることも明らかにした。また,その予防のために社員全員との面談を実施していることなども報告した。
 さらに西田千恵子氏(石川県立中央病院)は,同県立高松病院勤務時代の訪問看護活動の実状を紹介し,地域の中での看護職と患者の関わりを述べた。西田氏はその経験から,「(1)対象者と信頼関係を持つこと,(2)対象者に病気であることを認識してもらう,(3)対象者をコントロールするのではなく,対象者に合った生活スタイルを見出しサポートする,(4)他機関と共通の視点を持つために緊密な連携を保つこと」などを基本とした地域支援システムを紹介した。
 最後に野島佐由美氏(高知女子大)が教育の立場から発言。「一般性,客観性,専門性のある精神科看護に,サイエンスとアートをどう違和感なく取り入れていくか課題」と示し,「精神科における看護は患者にどうかかわっていく(いる)のかを実証することであり,現象の中にある相関関係を記述し,分類し,パターン化することが必要。1つひとつの研究に対する検証の積み重ねが実証へつながる」と結んだ。
 なお,その後のフロアを含めた総合討論は「患者との関係」を中心に展開。インフォームドコンセントの必要性や「人権を守るために,守られるために」などの論議が熱く交わされた。
 なお,本学会の定期総会において役員改選が行なわれ,櫻井清氏(群馬県立精神医療センター)が会長就任。次回は明年5月20-23日の3日間,広島市で開催される。


地域に根ざす精神科看護の展開

「日本精神科看護学会」一般演題より



 さる5月28-30日の3日間,金沢市で開かれた第22回日本精神科看護学会では,ポスター・誌上発表を含む173題の一般演題発表が行なわれた。
 ここ数年の学会一般演題では,社会生活技能訓練(SST)に関する研究発表が多くみられたが,今年は在宅に関する演題が増え,今後より一層地域に根ざした精神科看護が展開される傾向がうかがえた。

積極的なボランティア活動を展開

 新垣病院(沖縄県)の社会復帰病棟では,道路植栽樹木管理ボランティア「ひまわり会」を1995年に組織。県の道路植栽樹木管理会よりボランティア団体として認定を受け,積極的な社会参加活動を進めている。
 演題「地域に花を咲かせよう―ノーマライゼーションの確立をめざして」を発表した同病院の根路銘冷子氏は,「患者の社会復帰を妨げる一因として社会からの偏見がある。一般社会の理解を得る意味で,院内活動だけでなく患者が地域社会に参加しアピールする必要がある」と述べ,ボランティア団体「ひまわり会」を結成した経緯を説明。
 その活動内容は,苗の植付けや堆肥,灌水等の一連の作業。「苗木の購入に同伴し選択をさせるなど,患者の体力や能力に合わせ,作業の割り当てを工夫し,主体性を持たせることで患者の自発性や作業意欲を呼び戻させた」とその成果をあげた。直に地域の人たちから反応が得られることで,患者にはよい刺激となり,また地域の人たちも自然に患者に接触できる機会となり,精神障害者が一般社会から理解を得られることにつながった。このような活動は,これからの精神的障害を持つ患者の社会参加に向けた取り組みとして評価されるとともにその可能性が注目されよう。

日光浴と睡眠との関係

 一方,須藤裕氏(新潟県 南浜病院)は「精神分裂病患者の睡眠における日光浴の効用―長期就寝前薬服用中の断薬を試みて」を発表。
 睡眠と覚醒にはサーカディアンリズム(生体内時計,日中リズム)の影響が大きく関与していることは知られている。須藤氏らは,長期入院患者はこのサーカディアンリズムに変調を来しているのではないかと仮定し,閉鎖病棟に入院中で就寝前薬(VDS)服用中の問題行動,睡眠リズムに乱れのある精神分裂病患者3名を対象に,睡眠障害の改善を目的に規則正しく日光浴を実施した結果を報告した。
 患者へのVDS投与は,主治医と相談の上,リバウンド出現を警戒する意味で日光浴と並行し3週間をかけて段階的に減量から中止。むり強いしない程度の規則的な日光浴を実施し,入眠時間や睡眠時間,起床,中途覚醒回数,日中の落ち着き度などを計測した。
 その結果,ある患者では平均睡眠時間がそれまでの5時間36分から減量中に8時間24分へ,さらに中止後は9時間と増加した。また入眠時間や不穏行動にも改善がみられ,看護者との会話も成立し,穏やかな表情がみられるようになった。
 須藤氏は,「日光浴の効用として,(1)入眠時刻の早まり,(2)睡眠時間の延長,(3)夜間の問題行動の減少,(4)中途覚醒の減少などがあげられる。このことから,日光浴を継続することで睡眠障害は改善された」とまとめた。
 須藤氏の発表は新しい視点からの研究として注目された。しかしこの発表に対しては,「睡眠時間の改善は,日光浴との関連ではなくVDS投与を中止したことによる効用なのではないか」,「研究対象が少なく結論づけるのは危険」などの意見が集中。会場での熱い論議となり,さらなる研究課題となることも示唆された。