医学界新聞

第20回日本プライマリ・ケア学会開催される

プライマリ・ケアのさらなる展開を求めて


 第20回プライマリ・ケア学会が,岡村哲夫会頭(慈恵医大学長)のもと,さる6月14-15日の両日,東京の東京国際フォーラムにおいて開催された。今回のメインテーマは「プライマリ・ケアのさらなる展開を求めて―健やかな生命・社会・文化を育てよう」。少子高齢化社会を迎える21世紀を目前にして,人々の健康や福祉にいかに貢献していくかをめぐり,2題の特別講演,5題のシンポジウムをはじめ,教育講演,都民公開講座「高齢社会をいきいきと」などが行なわれた。

「病気を診ずして病人を診よ」

 会頭講演の中で岡村氏は,「現在の医学・医療は技術の進歩によって人々の大きな恩恵を与えてきた。しかし,その反面,臓器中心,疾患中心で人間不在であるなどの批判が起きるようになっている」と述べ,「人間を部分的ではなく,全体として診るような医学・医療の本来あるべき姿に戻すためには,その根幹にある医学教育そのものを改革しなければならない」と提言した。
 また岡村氏は,自らが学長を務める慈恵医大における教育改革を紹介。大教室で教授から学生に一方的に内容を伝達する講義型の授業からの脱却,ややもするとこれまで軽視されていた「医師・患者関係」をはじめとする人文科学的側面や,福祉・医療制度などの社会科学的側面などの医学教育に力を入れるなどの取り組みを示した。
 さらに同大学の改革の原点は,建学の精神にも謳われている「病気を診ずして病人を診る」こと,すなわち病気を持つ患者を1人の人格として,病人とさらに病人にかかわるすべてを含めて対応する,現在で言うところの「患者中心の全人的,包括的医療である」と述べた。

プライマリ・ケアと卒前教育

 医学教育に関しては,シンポジウムI「プライマリ・ケアと卒前教育」(座長=慈恵医大教授 戸田剛太郎氏,同教授 青木照明氏)においても取り上げられた。シンポジウムでは,プライマリ・ケアを単に一次医療としてではなく,人々の精神面をも含めた健康を維持するための全人的な医学・医療の実践としてとらえ,いかに卒前教育に取り込んでいくかをめぐり,4人のシンポジストが討論を行なった。
 最初に寺脇研氏(文部省医学教育課長)が,現在進みつつある医学教育改革の方向と内容について解説し,続いて飯島克巳氏(町立八丈病院長)と松村幸司氏(実地医家のための会)が,それぞれ実習の場を提供する立場から発言。飯島氏は,「卒前教育においては,臨床医をめざす学生が患者の家庭・文化などの背景を踏まえ,患者の個別性を理解できるような医療を体験させる必要がある」と語り,そのような教育が体験できるのはプライマリ・ケアが実践される現場であり,「プライマリ・ケアの現場における教育は,医学教育の要となるべきである」と強調した。
 続いて松村氏は,「実地医家のための会」と慈恵医大が共同で行なっている,「家庭医の診療を見学・実習させる教育プログラム」を紹介。実習経験者に対する追跡調査の結果を示し,卒前教育における家庭医実習は,プライマリ・ケア教育にきわめて有効であると報告した。また両氏とも学生を受け入れる医師に対する報酬などを問題点としてあげ,今後も検討していくべき課題であるとした。
 最後に橋本信也氏(慈恵医大教授)が発言。プライマリ・ケア教育の重要性が強調される一方で,大学付属病院が高度先進医療の提供などを目的とした特定機能病院として位置づけられている矛盾を指摘し,「高度先進医療の現場で,はたしてプライマリ・ケア教育が可能なのかという問題が生じている」と述べた。また,診療科の細分化が進み,指導医自身がプライマリ・ケアの教育から遠ざかっている,などの問題点もあげ,大学付属病院におけるプライマリ・ケア教育は,現実には実施が困難な状況にあることを示した。