医学界新聞

第32回日本理学療法士学会開催

「保健・福祉への理学療法士の展開」をテーマに


 第32回日本理学療法士学会が,関 勝夫会長(埼玉医大短期大学理学療法科教授)のもとで,さる5月16-17日,大宮市の大宮ソニックシティにおいて開催された。
 言うまでもなくわが国の高齢化対策は急を要し,障害者や病弱高齢者への継続的ケアに対する基盤整備の確立と,健康高齢者への積極的な障害予防や健康管理などの種々の施策が急がれている。そのような状況の中で,「障害者や高齢者がより安定した生活を保障されるためにも,病院や施設における集中的な医療の発展と,地域生活における在宅医療や在宅ケアへの充実を両輪の輪とし,新たなリハビリテーション機構を構築し実践しなければならない」という関会長の意図によって,今年のメインテーマは「保健・福祉への理学療法士の展開」となった。
 学会には全国から3000名を超える理学療法士,学生,地域住民が参加し,特別講演2題の他,562題の研究発表,会長基調講演,4題のイブニングセミナーが行なわれた。


会長基調講演:理学療法士への期待と展望

 わが国に初めて理学療法士が誕生したのは1966年7月のことで,当時の理学療法士110名が結集して日本理学療法士協会を発足させ,以来日本のリハビリテーションを支える職能団体として,さらに学術団体として大きな発展を遂げてきた。
 関会長は会長基調講演「理学療法士への期待と展望」で理学療法士の歴史を概説し,さらに「1974年6月にモントリオールで開催されたWCPT(世界理学療法連盟)の総会で,日本理学療法士協会が正式加盟を認められ,世界の3分の1の国が加盟するWCPT学会(学会長=広島大 奈良 勲氏)がきたる1999年8月にパシフィコ横浜で開催される」と改めて学会の歩みを振り返った。

保健医療の専門家の1人として 社会に貢献できる絶好の機会

 わが国の高齢化は近年急速に進展し,少子化と伴って一挙に超高齢化社会に突入することが予想されているにもかかわらず,高齢者・障害者を取り巻く社会環境は必ずしも十分でなく,その対応において総合的な基盤が整備されていない。この問題についても関会長は,「高齢者・障害者の生活の質(QOL)を求める健康教育やスポーツ領域にも関心が寄せられており,理学療法士に新たな期待がかけられている。いまこそ,理学療法士は保健医療の専門家の1人として地域医療・在宅ケアの発展に大きく貢献できる絶好の機会である」と強調。これからの,地域医療サービスの発展は在宅ケアを拠点としながら,各施設の特徴を十分に生かし,開放的で多様な機能を持つ共用施設に対して,経験豊かな理学療法士による積極的な関与の必要性を提言した。
 学会第1日目の夕方には,(1)「運動療法(1):成人片麻痺患者へのアプローチ」(リハビリテーション天草病院 長久武史氏),(2)「運動療法(2):PNF(固有受容性神経筋促通法)の最近の動向とスポーツへの応用」(PNF研究所 市川繁之氏),(3)「運動療法(3):内部障害と理学療法」(信州大医療短大 大平雅美氏),(4)「保健・福祉領域:生活再建の実現に向けて」(長崎市障害者福祉センター 奥村愛泉氏),(5)「健康増進領域:健康増進分野における理学療法の可能性」(広島大 浦部幸夫氏)の5題のイブニングセミナーが企画された。


「地域生活を支援するサービスを考える」

 また学会最終日の夕刻には,多数の一般市民の参加を得て,公開シンポジウム「地域生活を支援するサービスを考える」(司会=地域リハビリ研究所長 篠原英二氏)が開かれ,地域医療の第一線で活躍している医師(西部診療所長 小川正時氏),地元で活動する保健婦(川越市市長公室政策課長 酒井正代氏),理学療法士(兵庫県福祉部 備酒伸彦氏),また福祉行政に携わる担当官(厚生省大臣官房政策課 香取照幸氏)などの立場からの発言を踏まえて,差し迫った高齢社会における理学療法士への期待の大きさが語り合われた。
 前述のように,わが国の人口の高齢化に伴い,医療の様々な側面で理学療法および理学療法士への期待がますます高まっている。こうした社会的要請(それは同時に厚生省の施策でもあるが)を受けて,4年制大学・大学院の設立の他,養成校の増加など,理学療法士の養成が急進している。事実,今年の国家試験においても,新たに1797名の理学療法士が誕生した(本紙第2241号参照)。
 今後とも量のみならず,質の伴った理学療法士の拡充が期待されよう。