医学界新聞

第47回日本病院学会開催される

「病院が変わる」を学会テーマに


 第47回日本病院学会が高橋勝三学会長(武蔵野赤十字病院長)のもと,さる6月12-14日の3日間,東京都武蔵野市の武蔵野市民文化会館他で開催された。学会テーマは「病院が変わる:明るい病院の未来像」,変革期にある医療を反映した内容の学会となった。
 本学会では,会長講演および諸橋芳夫氏(日本病院会長)による講演の他,土屋正忠氏(武蔵野市長),柳田邦男氏(作家),菅直人氏(前厚生大臣),近衛忠輝氏(日本赤十字副社長),曾野綾子氏(作家)による5題の特別講演,シンポジウム(1)国際的にみた日本の医療評価,(2)病院淘汰の時代:あなたが選ぶあなたの病院,(3)病院は変わる,(4)中小病院の経営戦略パート2や344題の一般演題などが行なわれ,多くの参加者を集めた。
 本号では,初日のシンポジウム「病院淘汰の時代:あなたが選ぶあなたの病院」と「国際的にみた日本の医療評価」の内容を報告する。


病院淘汰の時代と患者本位の医療

 シンポジウム「病院淘汰の時代:あなたが選ぶあなたの病院」(司会=高山整形外科病院理事長 高山瑩氏)では,シンポジストとして,利用者側から滝上宗次郎氏(有料老人ホーム・グリーン東京社長),大野善三氏(NHKエデュケーショナルディレクター),医療者側から日下隼人氏(武蔵野赤十字病院),大道學氏(大道病院理事長)を迎え,高山氏が意図した「大きな改革を自ら感じて前に進む医療を検討する」にふさわしい,状況への危機感と新しい医療への情熱を感じさせるシンポジウムであった。

医療はもはや聖域ではない

 シンポジウムでは,まず滝上氏が「日本の医療が取り巻かれている環境」について発言。「医療を取り巻く状況はこの2年ぐらいで様変わりし,厚生省の中だけで医療政策が決まらなくなってきている」とし,その背景には,「医療費が対国民所得比で7%を超えるようになり,国家財政への大きな負担として顕在化した事実がある。医療はもはや聖域ではなくなり,政治家同士のパワーゲームが今後の医療費や厚生省の予算を決めるような時代となった」と指摘した。
 さらに「2004年には実質的な生産年齢人口(20歳~64歳)が減少に転じるとともに,日本の総人口も減少に転じると推計される。国の経済成長率を支える技術の進歩,労働力の増加が,まったく期待できないばかりか,消費もマイナスに転じる」ことを取り上げ,需要・供給の両面においてマイナスになってしまう日本経済の中で,「どのように収入のない高齢者の年金・医療費・介護費をまかなうのか。現在日本の国民負担率は実質43%ぐらいといわれるが,将来的には70%を超えるのではないかと思われる。このような高コストの社会が到来すれば,国際的な価格競争の中でコストを商品価格に転嫁できない日本の輸出産業が壊滅する。あるいは社会保障制度が崩壊することになるだろう。医療制度の抜本改革に手を付けられなかったことに見られるように,政治家がイニシアティヴを取れない現状では,医療制度も年金制度も形骸化していき,いずれ崩壊するであろう」と,日本経済,社会保障への悲観的な展望を示した。

社会保障制度崩壊後の医療

 しかし,アメリカのように,「社会保障制度がなくても,民間保険という形で医療は行なわれ得る」として,本シンポジウムの副題である「あなたが選ぶあなたの病院」に触れ,「『あなた』とはいったい誰を指すのか。この『あなた』とは『あなたは保険証を持っていますか,それとも無保険者ですか。持っているのであれば,どんな民間会社の保険ですか』ということを指し,『あなたの病院』とは『あなたが受けられる限定された病院はここですよ』ということを指す。そんな時代があっと言う間にくる」と今後の医療の行方を予測した。
 さらに病院のあり方についても,「民間病院はお金持ちを客として絞り込んでいくため,建物は立派になっていき,逆に現在は建物がやたらと立派で補助金はたくさんもらうが,やっている中身は民間と変わらないと批判にさらされている公的病院は,原点に戻って不採算の政策医療を中心にやるようになる。すなわち,民間保険に入っていないような無保険者の人たちを治療することとなるだろう」と予測,「日本の医療は社会主義的制度に向かっているわけではなく,明らかにお金がある人を相手にする資本主義的制度に向かって進んでいる」と指摘した。
 次に発言した大野氏は「医療は時代を反映する」との考え方を示した上で,「今や医療は現在ばかりではなく,どのように将来へ向かって動いていくかを考えていかなければならないのではないか」と述べ,ドイツの公的介護保険の経緯,メイヨークリニックの経営姿勢,医師のコスト意識等の話題に触れつつ,「21世紀は利用者をいかに医療機関に巻き込んでいくかが大きな課題になる」と指摘した。

患者志向の病院と病院広報

 続いて,日下氏が「患者志向の病院と病院広報」をテーマに発言。「政治も経済も大きく変わるだろう。しかし,患者さんの願いに応えることが医療の原点であり,その原点を守ることぐらいしか,われわれ医療者が考えられる生き残り戦略はないのではないか。今の医療政策にいかに適応していくかを考えるよりは,私たちのこれからの医療が日本の医療政策を左右していくのだという信念を持ち,病院経営をしていかないと,とても生き残れない」との考え方を示した。
 また,病院広報については,「患者さんを主人公とした医療が行なわれていること,つまり十分な説明の上に患者さんと一緒に考え,患者さんが納得のできるむだのない適切な診療が提供され,患者さんの快適さを第一に考えて病院の構造やシステムが作られていること,礼儀正しく暖かい態度で接することを誇りにする職員がいることこそが最良の広報である」と指摘。「これに対応できないような病院や医師は淘汰される。いくら病院が患者志向を喧伝したとしても,現場の実態が違っていれば不信を生む」とし,病院広報のあり方として,「現実の場での検証に耐えるものであること,広報活動が職員の意識改革・業務点検を促すものであること」を強調し,さらに,「患者さんの視点に立ち,患者さんとともに作る広報活動でなければならない」と述べた。

淘汰の時代の経営戦略

 最後に登壇した大道氏は,「病院は本格的な競争,選択,淘汰の時代に突入した」とし,まず,時代に対応した経営努力で成果を上げている大阪市内の4つの病院((1)大阪警察病院,(2)東住吉森本病院,(3)島田病院,(4)佐藤病院)の概要を報告した。
 そして,これらの病院に共通するキーワードとして,(1)地域のニーズを的確に把握し,患者中心の医療を提供している,(2)医療政策を先取りし,速やかに進めている,経営トップの迅速な意志決定と医局,中間管理職との意思疎通が円滑である,(3)環境の変化に的確に即応する病院組織の環境適応能力の有無,(4)トップ以下の職員のプラス思考,(5)職員を評価するシステムが確立している,などを指摘した。

患者中心の医療をめざして

 4氏による発言を受けての総合討論では,「一般の産業ではマーケットリサーチをする場合,買い手,すなわち客が何を求めているのかということしか考えないのに対して,医療の世界では常に売り手のことしか考えていない。癒しを求めている相手になぜ笑顔ができないのか」,「患者のニーズが第一であるとの前提の確立が急務。患者の満足度にもっと目を向けねば」,「成功している病院に共通しているのは接遇がいいことだ」,「政治経済状況がどうあれ,患者さんに心がこもった医療を提供していれば淘汰されることはないのでは」,「患者中心の医療を行なうためにも,中医協(中央社会保険医療協議会)のメンバー構成など医療政策上の仕組みを変えるべき」,「医療は市町村等,地域との連携が重要」,「医師の患者に対する説明があまりにも不十分,医学教育の中にコミュニケーションを位置づけることが大切」,「笑顔で評価されてしまうような医療ではだめ,笑顔は基本だ」,「2015年までに2600の病院がなくなるという見方もある。相当な努力をしないと生き残れない」など,フロアを含めて多くの意見が出された。
 なお,本シンポジウムでは,利用者側と医療者側の2局からの検討がなされたが,「患者中心の医療をめざさなければならない」という結論においては,明確に両者の一致が見られた。


●日本病院学会シンポジウムより

変化する病院の中で, 医療の質はどう評価されるのか

 シンポジウム「国際的にみた日本の医療評価-病院医療の質」(司会=国際医療福祉大 紀伊國献三氏)では,Brent C. James氏(インターマウンテンヘルスケア),漢万青氏(韓国病院協会長),Errol Pickering氏(国際病院連盟事務総長)および星和夫氏(日本病院会監事,青梅市立総合病院長)の4人がシンポジストとして意見を述べた。
 シンポジウムに先だち紀伊國氏は,「“変化する病院”をキーワードに,選ばれる病院の時代にどのような変化の方向が必要なのか。また,医療の質の評価,地域に不可欠な病院の未来像などを語りたい」との主旨を述べた。

患者の満足度とコスト

 最初に登壇したJames氏は,「患者満足度の改善とコスト還元」に関する問題についてICUにおける例をあげ,「ケアの質を上げつつコストを下げることができる」と未熟児肺呼吸管理などの実践例から報告。一方で,「医療費ばかりに目を向けて抑制策を施すと,医学上の制約がかかることになり新たな問題が生じる。そこで(1)フィジカルアウトカム,(2)サービスアウトカム,(3)コストアウトカムの3要素を同時に検討し管理することが重要」と指摘した。
 続いて漢氏は,(1)政府の質,(2)法律,(3)病院標準計画,(4)医療スタッフ教育,(5)大学教育などの視点から,アジア諸国における第3者医療評価機構の実態を概説。また,韓国における状況を報告するとともに医療の質評価に関する将来展望を語った。
 さらにPickering氏は,「病院評価基準の国際化が進んでいる」としてイギリスの例(British Patients Charter Rights)を提示し,全世界からみた医療評価について解説を行なうとともに,アメリカでの医療費抑制策として導入されたクリティカルパスウェイを話題にあげた。
 最後に星氏は,「日本の医療はaccessibilityからamenityへと変わりつつある」と指摘。「患者自己負担の倍増,老人医療費の有料化をなくしては国民皆保険は崩壊する」と警鐘を鳴らし,医療政策の変革の必要性を強調した。

求められる質の高い医療のために

 その後,休憩を挟んで再開されたシンポジウムの総合ディスカッションでは,Pickering氏が話題としたクリティカルパスウェイやプロトコルの問題などを中心に,壇上とフロアの間で論議された。
 まとめにあたって紀伊國氏は,「求められているのは質の高い医療。そのためには3つのアウトカムが協調されながらマネージメントを行なうことが必要だが,これは発展途上国でも先進国でも同じ。コストファイナンスだけではなく,フィジカルを上げること,チームワークをマネージメントすることが,明るい医療への鍵となるのではないか」と述べた。