医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


日本の小児科学の集大成

小児科学 白木和夫,前川喜平 編

《書 評》鴨下重彦(国立国際医療センター総長)

時代の要請に応える小児科書

 本書を手にして,日本小児科学会創立100周年と期を一にして日本でもようやく本格的な小児科の本ができたとの感を深くしている。
 編集陣は現在の小児科学会の重鎮お2人をトップに,各専門分野8人のスーパースターの方々であり,その下で,各項目の執筆者はベテランに新進のエキスパートを交え総勢284人に及ぶ。1600ページ余り,ちなみに重さを測ったら2.9kgもあったが,文字通りの圧巻である。
 100年前,明治・大正時代は言わずもがな,この20年の間にも小児医学も医療も大きく変わり,特に昨今は社会的には急速な少子化時代を迎え,医学的には疾病構造の変化,医療の一次・三次への二分極化が進んでいる。そのような中で時代の要請に応える新しい小児科書の出版が心待ちにされていた。本書は100年を経た日本の小児科学の集大成と呼んでよいであろう。

全ての点で満足できる内容

 私は本を評価する時,個人的な物差しを設けている。小児科の場合は,まず自分の専門領域についての記載がどうかをみる。具体例として,最近はジストロフィンについてどの程度書いてあるか,またいわゆる新興・再興感染症など,どのように触れられているか,また社会小児科学の領域で,事故やターミナルケアについての記載はどうか,心身症のとりあげ方,慢性疾患での心の問題,あるいはQOLに対する配慮はどうか,育児関係にはどの程度ページが割かれ内容はどうか,各項目の引用文献の選び方は適正か,等々である。このような観点で検証すると,本書は全ての点で満足できる立派な内容である。
 私的な思い出で恐縮であるが,今から23年前,新設の自治医大へ赴任した時,内科の教授が6人もいるのに驚くと同時にいささか憤慨した。11年後に東大に戻ると,心療内科が新設され,内科との教授の比は8:1になっていた。セシルもネルソンも同じ厚さなのに,8対1はひどいではないかと訴えたが,内科の教授からはそれはアメリカのことでしょうと,軽くいなされた。確かに当時の日本では,内科書などに比較すると小児科の教科書はボリュームの点で問題にならなかった。今後は小児科の複数教授制などを主張するうえでも,この本が後楯となり,理解も得られやすくなるに違いない。
 小児科領域は日進月歩であり,ネルソンに対抗するためには早期の改訂も必要になるであろう。そこで希望を1つ述べさせていただくとすれば,西暦2000年あるいはその数年後には,さらに充実した改訂版を期待したい。その時には「小児科学」ではなく,「成育科学」とされてはいかがであろうか。
B5・頁1664 定価(本体25,000円+税) 医学書院


不整脈診療の絶好の入門書

不整脈の診かたと治療 第5版 五十嵐正男,山科章 著

《書 評》小川 聡(慶大教授・内科学)

 本書の第1版が出版された1970年は,私が医学部を卒業した年でした。学生時代から心電図や不整脈に興味を持っていた私は,有名なKatz & Pickの教科書にも目を通していましたが,書店でこの第1版を手にしたときの感激は今でも忘れません。Katz & Pickで有名なあのMichael Reese HospitalでClinical fellowをされていたという著者の五十嵐正男先生の経歴に憧れていたこともありますが,どちらかというと学究的すぎたそれまでの不整脈「学」の教科書とはまったく違う切り口を見て,迷わず購入していました。読み進むうちに,ベッドサイドで不整脈の診断と治療の手ほどきを直接五十嵐先生から受けているような印象を持ったものでした。今ではブックケースもすっかりセピア色に変色してしまいましたが,大切に書棚に納めてあります。
 以来改訂を重ねられた本書も,今回の改訂第5版は12年振りのことと伺い驚いています。不整脈の診療におけるこの10年間はまさに激動の時代でした。CASTの報告は多くの混乱と無用な不安を臨床の現場にもたらしたことは事実ですが,抗不整脈薬の適正使用を改めて喚起した点でその意義は大きいものがありました。一方で,この間多くの新薬が承認され,臨床の場において使用できるようになりました。さらにアブレーションをはじめとした非薬物療法の進歩も,不整脈診療の内容を大きく変えてきています。

治療すべき不整脈をどう見分けるか

 こうした状況にあっても,治療すべき不整脈とそうでないものをいかに見分けるかという基本は変わらないはずです。驚くことに今第1版を読み直して,すでに当時からそれが著者の不整脈治療への基本姿勢であったことを知りました。治療の選択肢が増えた現在においても,この基本姿勢が貫かれている点は今回の改訂版でも特筆すべきことでしょう。27年後にも第1版の記載がそのまま適応される箇所が随所に見られます。抗不整脈薬で心機能障害例の心室性期外収縮を治療することによる予後改善効果が繰り返し調査されてきたにもかかわらず,芳しい効果が得られていない現状を見ても,第1版で「心不全に伴う期外収縮には抗不整脈薬は使わない」と明記されている,著者の臨床不整脈への慧眼には敬服いたします。

診療の一連の思考過程を教授

 不整脈の正しい診断はもちろん不整脈治療への第一歩であり,そのため心電図の読み方から学び,次に治療適応を判断する前にまず不整脈の病因・誘因を見つけてそれを正す努力をし,その上で治療の目標を決めて薬剤の選択を行ない,実際の処方にあたっては様々な副作用の発現に配慮する,という一連の思考過程を本書は正しく教授してくれています。欧米での大規模研究の最新の成果も盛り込まれ,「The Sicilian Gambit」等の新しい治療への考え方も含め,現在の不整脈診療に不可欠な知識がバランスよく新たに加筆されています。
 不整脈の入門書としてはもちろん完成された域に達したものですので,医学生,研修医にはぜひとも奨めたいと同時に,実地医家の先生方や循環器専門医にとってもアップデートな話題を整理する上で必読の書であることは間違いありません。何よりも長年不整脈診療の第一人者として活動されてきた著者の哲学を学びとる絶好の書だと感じました。
B5・頁528 定価(本体7,600円+税) 医学書院


消化器外科に関係する全ての医師必携の書

胃外科 胃外科研究会 編集

《書 評》安富正幸(近畿大教授・外科学)

胃外科の指導者による集大成

 わが国では外科医の大部分は消化器外科に関係し,その中でも最も多いのが胃の外科である。その意味で胃外科は消化器外科の中心であり,基本だということが言える。日本の胃外科は国際的にみても最も進んだ外科である。まさに胃外科に引っ張られて日本の消化器外科が発達してきたのである。このように胃外科が進歩した理由は,わが国では胃外科と対象となる疾患,とくに胃癌が多かったからであるが,胃外科の先達のたゆみない研鑽と,それを引き継いだ現在の指導者の研究の賜物であろう。これらの指導者の執筆による胃外科が上梓された。本書は胃外科の指導者による集大成である。
 胃外科の中心である胃癌は,診断・治療の進歩により根治率が著しく高くなり生存率が改善したが,依然として癌死亡の第1位である。また胃潰瘍は薬物療法の進歩により手術数は減少したにもかかわらず,穿孔・狭窄など最も重要な外科的疾患の1つである。胃癌の手術は消化器のみならず癌外科の基本であり,胃癌の外科の考え方や手技が癌外科全般の発展をもたらしてきた。したがって胃癌外科の歴史や手技を習得することから消化器外科ひいては外科一般の手術を理解することができる。
 本書では胃外科の歴史や変遷から始まる。ここでは胃の切除範囲,胃切除後の吻合法の歴史が興味深く書かれている。また,外科手術から見た胃の解剖や生理は普通の教科書にはない面白さがあるし,胃切除後の残胃の生理機能は胃外科を専攻するものにとって必須の内容で,興味深く書かれている。診断法では形態的診断としてX線診断,内視鏡診断,生検の組織診断が,機能的な診断法は消化酵素から胃酸分泌さらにその検査法・手技まで解説されている。

手術法や手技の最新の成果を記載

 手術の実際については,急性粘膜病変から吻合部潰瘍,特殊な潰瘍,胃癌,さらには特殊な病変を取り上げ,これらの手術法と手術成績について最新の成果が書かれている。とくに胃癌に関して早期癌,進行癌,残胃の癌,再発癌に対する治療と最新の治療成績が書かれている。内視鏡的手術や補助療法の知識も必須であり,この点も十分書き込まれている。とくに,内視鏡的粘膜切除法や近年勢いよく進展している腹腔鏡下胃手術の具体的方法や考察が述べられている。
 最後に胃外科にまつわるトピックスとして,遺伝子異常,Helicobacter pylori,interventional therapy,胃癌手術とQOL,癌告知などが取り上げられているが,胃外科を学ぶ者にとってはトピックスというより必須の知識である。本書の内容は単に現在のエキスパートにより執筆されたというよりも,胃外科を知ろうとする者にとって必須の知識が盛り込まれている。外科系の臨床研修医から消化器外科の専門医まで消化器外科に関係する医師の必携の書である。
B5・頁408 定価(本体22,000円+税) 医学書院


医学生のための充実した小児科教科書

標準小児科学 第3版 前川喜平,他 編集

《書 評》高橋弘昭(金沢医大教授・小児科学)

学生のノート代わりに愛用

 私も金沢医科大学の学生に推薦し,学生たちもノート代わりに愛用してきた前川喜平,辻芳郎,倉繁隆信諸先生編集の『標準小児科学』が今春第3版として大幅に改訂された。1991年に第1版が発行され,1994年に改訂2版が刊行されている。今回の改訂で医学生のためにさらなる内容の充実とともに,常にup-to-dateな教科書をと,編集者諸先生の強い意欲に敬意を表した。
 ちなみに私も昔繰り返し学んだ小児科学の名著,NelsonやRudolphの教科書も約4年ごとに改訂されてきた。しかし,私が米国小児科学専門医,小児内分泌学専門医の資格を取得し帰国した十数年前は,このNelsonの名著も,執筆者の多くがマンネリ化し,Rudolphのほうが内容が充実していた時期があった。最近,編集者,執筆者の大幅な変更で,名著Nelson第15版として復活した。
 今回の『標準小児科学』改訂編集方針として,まず教科書の頁数を現状維持とし,大幅な増加はしないとあったが,確かにこの教科書はコンパクトで勉強しやすく,理解しやすくそして内容があるのが特徴で,いたずらに頁数のみ増やしたらその利点を失っていただろう。

up-to-dateで充実した内容

 今回の改訂では内容を全面的に見直し,学生に必要な充実した内容にするために,執筆者の変更を大幅に行なってある。構成する23章のうち10章以上に執筆者の変更または内容の変更があった。すなわち小児栄養を徳島大学の武田英二教授に,先天代謝異常の一部を島根医科大学の山口清次教授に,免疫疾患を岐阜大学の近藤直実教授に,膠原病を鹿児島大学の宮田晃一郎教授に,感染症を編集者である倉繁隆信教授に,呼吸器疾患を群馬大学の森川昭廣教授に,血液凝固疾患を奈良県立医科大学の吉岡章教授に,泌尿器疾患各論を新潟大学の内山聖教授に,神経疾患総論を北里大学の三浦寿男教授に,変性疾患・筋疾患,その他を東京女子医科大学の大澤真木子教授により執筆されている。またアレルギー疾患は執筆者は代わらないが,全面的に書き替えられている。
 新しい執筆者はいずれも新進気鋭の小児科教授で,内容の充実およびup-to-dateな点で目を見張るものがある。そのうえ,いたるところで学生たちにわかりやすい工夫が,特に図や表にみられる。私が学生の頃,日本には小児科学のよい教科書がなく,勉強しにくい科目であったが,『標準小児科学』第3版は構成が実にしっかりしていて,内容の充実と平易でわかりやすいことで,本学の学生たちにもぜひ推薦したい小児科教科書である。
 編集代表者のわれわれの大先輩の前川喜平教授は,序文を執筆するのは今回が最後であるといわれる。われわれを指導してくださったこと,『標準小児科学」をこんなに立派な教科書にしてくださったことに感謝するとともに,将来,『標準小児科学』は何回も版を重ね,改訂される思われる。
B5・頁676 定価(本体8,800+税) 医学書院


CTの有効利用に関する最も優れたガイド

胸部CTの読み方 第3版 河野通雄 著

《書 評》蜂屋順一(杏林大教授・放射線医学)

新しい撮像法を追加

 本書の初版は1982年で,HounsfieldがCTスキャンナーの開発にはじめて成功してからちょうど10年目に刊行されている。その後1989年に第2版が出て,今回はその改訂第3版であり症例が増え,スパイラルCT,3次元画像など新しい撮像法についての記述が加わっている。
 著者の河野通雄教授(神戸大学医学部放射線科)は胸部画像診断学の専門家として知られ,この領域での研究,教育上の指導者としては本邦の第一人者であるとともに,米国Society of Thoracic Radiologyと日本胸部放射線研究会とで刊行している「Journal of Thoracic Radiology」のassociate editorとして国際的にも活躍されている優れた放射線科医である。
 本書の構成は以下のとおりである。
 まず,1.胸部CT検査法と適応(計20頁)ではCT装置,画像構成の基本,アプリケーション・ソフト,造影検査法,CTガイド下針生検などについての解説がある。次いで,2.正常胸部CT解剖(計32頁)の章では横断CT解剖がカラーアトラスを添えたCT像を用いて要領よく解説され,また剖検標本の割面とそのCT像の対比も加えられている。そのあと,3.胸部疾患のCT所見の章(計236頁)では総計129例の症例を用いて肺,胸膜,胸壁,縦隔,横隔膜,心・大血管,胸椎,肋骨などの病変につきそのCT像を示して読み方を解説し,またこの章にスパイラルCT,小児の胸部CT,悪性腫瘍の治療経過観察,などの項目が含まれている。症例の提示は胸部単純X線像とCT像の併置を基本としているが,必要に応じて肉眼病理標本のカラー像,バリウム造影,血管造影,シンチグラムなども適宜加えられている。

画像,カラーシェーマ,肉眼病理像を読みやすく配置

 本書の特徴は大変読みやすいことであると思う。文字がびっしりと詰まった教科書ではなく,画像,カラーのシェーマ,肉眼病理像などがきれいに配置され,文字は比較的少な目に抑えてあるので,短時間に楽に通読できる。放射線科,内科,外科の研修医,実地医家など広い範囲の医師によい入門書として推薦できる。医学部学生の高学年ならば本書の内容でよく理解できる部分も少なくないと思われる。CTは胸部疾患の診療に欠かせない便利な診断手法であり,本書がその有効な利用に関するガイドとして現在最も優れたものの1つであることは疑いをいれない。
 本書を確信をもって推薦したい。
B5・頁302 定価(本体10,000円+税) 医学書院