医学界新聞

●第38回日本心身医学会開催される

心身医学的ケアの発展をめざして


 さる5月29-30日,第38回日本心身医学学会が,筒井末春会長(東邦大教授)のもと東京国際フォーラムで開催された。今回は,昨年9月に「心療内科」標榜が正式に認められてから初めての学会となる。
 高橋清久氏(国立精神・神経センター)による招聘講演「生体リズム障害の臨床-感情障害と睡眠リズム障害をめぐって」の他,特別講演2題と治療やアルコール関連問題をテーマに教育講演2題が企画された。またシンポジウムでは「性役割からみた中高年の心身医学」と「心身医学からみたコンサルテーション・リエゾン活動の現状と問題点」が行なわれた。一方,パネルディスカッションは,「研修診療施設の役割と展望」と「心身医学の卒後教育」をテーマに,心身医学教育のあり方を模索するものとなった。
 筒井氏による会長講演では「心療内科からみた薬物療法の歴史と発展」と題し,特に心療内科で使用頻度の高い向精神薬である抗不安薬と抗うつ薬を中心に,その使い方の変遷や問題点を解説し,フルボキサミンなど現在治験中の新薬を紹介した。

心身医学の役割と今後の展望

 特別企画として「心身医学の役割と今後の展望」(司会=愛知医大 祖父江逸郎氏,東邦大 阿部達夫氏)が行なわれた。まず最初に中川哲也氏(福岡県立大)が,「今後心身医学の期待される役割として,(1)老年期の医療,(2)サイコオンコロジー,(3)ストレス,(4)成人病,(5)健康科学,保健の5領域の活動があげられる」とした。次いで,五島雄一郎氏(東海大)と長谷川和夫氏(聖マリアンナ医大)がそれぞれ高齢化社会と心身医学との関係やその役割ついて述べた後,最後に大月三郎氏(慈圭会精神医学研)は,心身医学に関連する領域の中でもストレス関連障害は大きな問題の1つであるとし,対処法となる心理療法の知識を得ることの有効性を明らかにした。
 演題終了後の総合討論では,「医療の流れを見た時,総合診療内科の重要性が認識されつつあり,今後は心療内科とともに協力しあうことが重要」との意見が出された。
 最後に司会の祖父江氏は,「心身医学の治療的意義はまだ物足りない。いま一歩『病人を治す』という視点が必要」とまとめた。

心身医学のコンサルテーション・リエゾンの現状

 シンポジウムIIは,「心身医学からみたコンサルテーション・リエゾン活動の現状と問題点」(司会=東海大 岩崎徹也,東大 久保木富房)をテーマに行なわれた。
 最初に佐々木直氏(東大)が,内科からの要望で1995年から開始された無菌病棟内の骨髄移植患者および主治医・看護婦らへの心理的サポートのシステムを紹介。次いで,芝山幸久氏(東邦大)が,心療内科の役割と専門性を明らかにすべく,5年間に他科から依頼を受けたコンサルテーションリエゾン(以下,CL)活動を分析。内科が最多で,疾患名ではC型肝炎などの肝・胆道系疾患が,DSM-IV診断ではうつ病と判断されるケースが多いと報告。しかし,「内科医の中には『心理サポートは心療内科』という安易な図式がある」と指摘した。
 続いて,精神科医の立場からみたCL活動の現状と問題点を,柏瀬宏隆氏(防衛大)が口演。柏瀬氏は経験した様々な症例から問題点を取り上げ,特に近傍の精神科のない総合病院から頻繁に依頼される実情を述べ,「地域を支える国公立病院が精神科を持たず,軽症の患者にも対応できないのは大きな問題」と指摘した。また,菊地孝則氏(公立昭和病院)は,診療に様々な支障をきたす対人関係的問題に,専門的立場からの助言や介入が求められることを「関係中心的観点」と呼ぶが,実際の臨床におけるこの観点の必要性の現状を,入院症例を対象に検討。このような関係性の問題は,心療内科に依頼される症例の約4割を占め,医師-患者間だけでなく,スタッフ内の関係の問題も見過ごせないとした。
 最後に,狩野力八郎氏(東海大)は,CL活動の現状への対応策として,(1)他科への教育活動(入院前のインフォームドコンセントや,早期依頼),(2)危機介入技法の習得,(3)地域医療や入院効率化を考えて退院後計画を早期作成するなどがあげられるとし,「患者はinformed consumer(よくインフォームされた医療の受け手)ではなく,医療者と直接関わるアクティブなパートナーである」との視点が重要とした。
 次回学会は櫻井浩治氏(新潟大医療短大)が会長となり,同大内科の荒川正昭副会長と共に新潟で内科との共同開催の形で行なうことを明らかにし,またコメディカルの自由参加を呼びかけた。