医学界新聞

日本国際賞授賞式開かれる

杉村隆氏とB.N.エームス氏が受賞


 国際科学技術財団(理事長=近藤次郎氏)が科学技術の進歩に大きく寄与し,人類の平和と繁栄に著しく貢献した人々を顕彰する日本国際賞(Japan Prize)の第13回授賞式が,さる4月25日,東京・千代田区の国立劇場において開催された。
 今年度の授賞対象分野は,「医学におけるバイオテクノロジー」と「人工環境のためのシステム技術」で,前者の分野では「癌の原因に関する基本概念の確立」の業績に対して,杉村隆氏(国立がんセンター名誉総長,東邦大学学長)とブルース.N.エームス氏(カリフォルニア大教授)が,後者の分野では「ロボット産業の創設と全地球的技術パラダイムの創出」に関する業績に対して吉川弘之氏(前東大総長)とジョセフ・F・エンゲルバーガー氏(ヘルプメイト・ロボティクス社取締役会長)が受賞した。

 

「癌の原因に関する基本概念の確立」に対して

 杉村氏は1957年に変異原物質である4‐nitroquinoline‐1‐oxideがラットに線維芽肉腫を発生させることを,また,1966年には同じく変異原物質であるN‐methyl‐N'‐nitrosoguanidine(MNNG)の皮下投与によりラットに線維芽肉腫が発生することを発見。さらに,1967年にはMNNGのラットへの経口投与によって胃癌を発生させることに成功した。
 一方,エームス氏はサルモネラ菌を用いたヒスチジン合成系の長年の研究をもとに,1971年にサルモネラ菌を用いた試験管内での効率的な変異原物質の検出法を作製。その後この方法に改良を加えて,両氏はそれぞれ独立に多くの発癌物質が変異原物質であることを明らかにした。このエームス氏が開発したいわゆるエームス試験は,世界中の研究機関,企業や環境規制を行なう公的機関で,環境中の発癌物質,変異原物質の検索の基本技術となり,また発癌物質の代謝活性化の機序の解明,抗変異原物質の検索などにも広く用いられている。杉村氏はこのエームス試験を用いて,日常摂取している加熱食品中にヘテロサイクリックアミンの構造を有する変異原物質を多く分離・同定し,これらの変異原物質をラットおよびマウスに投与して発癌物質であることを,さらにこれらの発癌物質で発生した癌が実際に遺伝子変化を起こしていることも証明した。
 その後,杉村氏は多段階発癌の機構解明や癌予防の研究を,またエームス氏は癌における内因性の活性酸素や老化の機構解明の研究を展開。両氏は,化学物質の持つ発癌性と変異原性の関係を示し,環境中の発癌物質をその変異原性の指標に同定できることを明らかにして,癌の発生の原因,またその予防にきわめて重要な貢献をするとともに,「癌はDNAの変化によって発生する」という発癌の基本概念の確立に基盤的な貢献をした。