医学界新聞

「平成9年版厚生白書」発表される

「“健康”と“生活の質”の向上をめざして」を謳う


 今年で40回を迎えた「平成9年版厚生白書」が,さる6月19日,厚生省より発表された。ちなみに,第1回に当たる昭和31年のテーマは,「国民の生活と健康はいかに守られているか」だったが,今回は「“健康”と“生活の質”の向上をめざして」と謳っている。
 全体は例年どおり2編に分かれ,第1編は記述を中心として,「第1部:“健康”と“生活の質”の向上をめざして」,「第2部:主な厚生行政の動き」から,第2編は「I:世界の社会保障」と「II:制度の概要および基礎統計」からなっている。
 第1編第1部の概要は以下の通り。

新興・再興感染症と健康危機管理体制

 第1編第1部「“健康”と“生活の質”の向上をめざして」では,「近年,新興・再興感染症が国際化時代の新たな脅威となっている一方,生活習慣病や“心の病”も増加傾向にあるなど,わが国の健康をめぐる状況は新たな時代を迎えている。また,高齢化の進行にともない,介護の問題も深刻化している」として,(1)新興・再興感染症,(2)生活習慣病,(3)心の病,(4)高齢化をめぐる課題,(5)厚生科学と技術評価を取り上げている。
 第1章「新興・再興感染症と医薬品による健康被害-健康の危機管理」では,エボラ出血熱,エイズ,O157といった新興感染症や,結核などの再興感染症の脅威を指摘した上で,「国際的な交流の増大によって,感染症対策は国内のみを視野に入れたものでは限界が明らかであり,国際的な連携を強化し,“地球規模の対応”を行なうとともに“健康危機管理体制”の構築が必要である」としている。

生活習慣病と現代社会と“心の病”

 第2章「生活習慣病」では,従来の「成人病」に代わって登場したこの言葉の概念を解説し,「癌・脳血管疾患・心臓病が死因の上位3位を占めている現在,健康増進や疾病予防という“一次予防”が一層重要であり,特に子どもの健康習慣の確立が求められる」と指摘。また,「喫煙が健康に与える影響は大きいことから,喫煙習慣は個人の嗜好の問題にとどまらず,総合的なたばこ対策を推進していく必要がある」と強調している。
 第3章「現代社会と“心の健康”」においては,「神経症やうつ病,心身症,睡眠障害などさまざまな“心の病”が増加している現在,ストレスへの対応の重要性が増している」としてアルコール依存症や薬物依存症の問題に触れ,また子どもの心に大きな傷を残す“児童虐待”への対応や精神疾患に対する“心の障壁の除去(バリアフリー化)”が重要となっている」と記述。

高齢化をめぐる問題と厚生科学と技術評価

 第4章「高齢化をめぐる課題」では,「高齢者が社会で積極的な役割を果たし,生きがいを持って生活できるような環境づくりが重要である」と述べ,高齢者に対する理解を深めるとともに,「要介護高齢者の自立支援」や「高齢社会を担う人材育成」の重要性を改めて説いている。
 第5章「厚生科学と技術評価」では,国民の生命・健康を守る上で科学技術が果たしていく役割は大きく,「厚生科学の振興」の重要性とともに,技術革新がもたらす影響について,医学的,経済的,社会的観点からの技術評価を行なうことの重要性をも指摘。さらに,遺伝子治療の可能性や,その臨床研究について遵守すべき事項,また昨今話題になっている「臓器移植」および「臓器移植に関する法律案」についても言及している。