医学界新聞

第98回日本耳鼻咽喉科学会開催される

21世紀の耳鼻咽喉科医像を模索


 さる5月22-24日,第98回日本耳鼻咽喉科学会総会が,中井義明氏(大阪市大教授)のもと,ホテルニューオータニ大阪と大阪城ホールで開催された。
 シンポジウムでは「将来の耳鼻咽喉科学」,「血管条性難聴を考える」が,パネルディスカョションは「アレルギー性鼻炎診療の鍵」をテーマが企画された。
 P.W.Alberti氏(トロント大)による招待講演は「Noise Induced Hearing Loss」をテーマに,特別講演は早石修先生の「遺伝子操作―未来医療のインパクト」がそれぞれ行なわれた。
 本紙では,シンポジウムの1つである「将来の耳鼻咽喉科学」(司会=東医歯大 小松崎篤氏)を紹介する。

将来の耳鼻咽喉科学

 本シンポジウムは,4人の演者のうち2人は耳鼻科医で,他は高齢者医療,情報科学と他領域の専門家を招いたユニークなもの。小松崎氏はシンポジウムの狙いを,(1)社会情勢とどうかかわるか(疾病構造の変化やテクノロジーの進歩),(2)本領域以外の専門家からみた問題提起にあると冒頭で示した。
 まず最初に,井形昭弘氏(国療中部病院・長寿医療研究センター)が「長寿医療から考えた未来の耳鼻科」をテーマに登壇。高齢者医療を考えるとき,患者の全身管理の必要性から,「総合医学の一環としての耳鼻科学の確立が今後の課題では」と提言。また,耳鼻咽喉科をコミュニケーション能力や嚥下障害など生活に因んだQOLを保証する分野と位置づけ,ハイテク技術の進歩が大きな役割を果たすとした。
 次に,野村恭也氏(昭和大)は,聴覚にも大きく関与する嗅覚・味覚について触れ,経口投与ではデリバリーできない薬剤の全身投与に鼻の粘膜を使う新しい薬物送達システムを紹介。また最近話題となったミラクリンなど味覚修飾物質の最新の知見を報告。また,マサチューセッツ州で知事は署名した医師個人の医療過誤や訴訟,刑事記録などをすべて公開する医師「プロフィル公開法」を紹介し,「日本でも医師個人の情報公開が大きな問題となる」と指摘した。
 続いて,金子敏郎氏(千葉大名誉教授)は,耳鼻咽喉科を考えるうえで(1)分子生物学の発展,(2)シグナル化,シグナル伝達機構の解明,(3)シナプス,脳の可塑性,(4)がん研究の進歩の4つをキーワードに,それぞれの最新の知見を報告。また,日本医療機能評価機構の事業の一環で,自身が関わった耳鼻科診療の評価基準作成の経験から,機能の自己評価の重要性を述べ,「耳鼻咽喉科医は専門性を維持するだけでなく,新たな専門性を創造することが不可欠」とした。
 最後に,石井威望氏(慶大政策メディア研究科環境情報部教授)が,「複雑系」やフラクタル理論,カオスなどをキーワードに物理学領域の新しい分野を解説。また,パーソナルコンピュータが教育や科学研究に与えた衝撃を様々な事例を交えて述べ,また一方では情報のセキュリティ管理など,問題は山積しているとまとめた。