医学界新聞

第38回日本神経学会開催される

神経内科アイデンティティの確立をめざして


 第38回日本神経学会が,古和久幸会長(北里大東病院教授)のもと,5月14-16日に新横浜プリンスホテルで開催された。
 今学会では,招待講演2題のほか,シンポジウム(1)アルツハイマー病の解明・最新の動向,(2)末梢神経障害の病因・病態と治療,(3)脳血管障害における高次大脳機能障害,(4)錘体外路系疾患-疾患概念と病態生理の4題が企画され,多くの聴衆を集めた。また,ラウンドテーブルディスカッションは,昨年のテーマ「卒前教育のあり方」に引き続き,「神経内科の卒後・生涯教育のあり方-日本と外国との比較」が行なわれた。さらに,市民の神経疾患への理解を深めるため,横浜市のはまぎんホールで学会主催の市民講座も開催された。
 会長講演は,「ある神経内科臨床の現場から-神経内科identityの確立をめざして」と題して古和氏が口演。1986年に開設され急性期の特定機能病院と慢性期中心の療養型病院の中間の性格を持つ北里大東病院神経内科での活動から,氏の経験を通して神経内科医のあるべき姿を示した。

アルツハイマー病の新しい動向

 シンポジウム(1)(司会=東海大 篠原幸人氏,新潟大脳研 辻省次氏)では,最初に辻氏が,最近報告された家族性アルツハイマー病の原因遺伝子や,アポリポ蛋白E4とアルツハイマー病との関連など最近の研究の動向を概説した。
 次いで,田平武氏(国立精神・神経センター研)と高島明彦氏(三菱化学生命科学研)は,家族性アルツハイマー病の原因遺伝子として注目されているpresenilin(PS)について報告。田平氏は,全身に発現がみられるものの,特にアルツハイマー病患者のニューロンに強く発現するPS1と,全長cDNA発現が細胞のアポトーシスを促進するPS2について解説し,「疾患の鍵を握る重要な遺伝子はまだ発見されていない」とし,さらなる研究の必要性を語った。
 続いて,S.G.Younkin氏(メイヨークリニック)と井原康夫氏(東大脳研病理)が,アルツハイマー病発症機序の本質と考えられるアミロイドβ(Aβ)蛋白の蓄積 機序について報告。Aβ40とAβ42に特に注目し,なぜ50-70歳にかけてAβ42の蓄積が進行するのか,Aβ40がアルツハイマー患者に高値に認められるが,どのように発症に関わるかなど問題点を提示し,最新の知見を述べた。

神経内科医の卒後・生涯教育

 最終日には,ラウンド・テーブルディスカッション「神経内科医の卒後・生涯教育のあり方」(司会=北大 田代邦夫氏,順大 水野美邦氏)が企画された。
 最初に,芦澤哲夫氏(ベイラー医科大)がアメリカの卒後教育のシステムを解説。研修についてはACGME(Accreditation Council for Graguate Medical Education:米国医学卒後研修認定委員会)によりその教育内容,期間が決められているなど,日本とのを違いを明らかした。
 次いで,三本博氏(クリーブランドクリニック神経内科)が登壇し,アメリカのレジデントプログラムの欠点として,(1)専門化がいきすぎたこと,(2)内科の総合力が弱くなっていることをあげた。
 中田力氏(新潟大脳研)は,アメリカ卒後教育の特徴として「認可されたプログラムがあり,どこでも同じ内容の卒後教育が受けられること」をあげ,プログラムディレクターとしての経験から米国のRRC(resident review committee)の活動を報告した。続く額田均氏(オタゴ大)は,ニュージーランドにおける神経内科医の卒後・生涯教育について解説した。
 指定発言として秋口一郎氏(京大)が,京大神経内科の卒後研修プログラムの概要を解説。一方,坂口文彦氏(北里大)は,「日本では,アメリカでかつて行なわれたような抜本的な教育システムの再評価がなされていない」と指摘し,さらに,(1)研修プログラム作成,(2)神経教育学のセミナー開催,(3)社会的役割,(4)基礎領域や他診療科,他施設との連携の4点を考慮に入れた学会主導によるlearning systemを作るべきと提言した。

日本の卒後研修の方向性

 演題終了後,会場全体でのディスカッションに移り,大学病院での初期研修の問題やスタッフの層の薄さ,指導医が多忙で教育に時間がさけないなどの問題点があげられた。神経内科の研修プログラムについてはその必要性から論議を呼び,神経生理学,神経放射線,神経病理学のトレーニングが教育内容に含まれているかを司会が問いかけると,2,3の施設がそれに応えて,実践法を紹介。また,小児神経学を研修に組み込めるかなど多くの検討課題が示された。
 最後に水野氏が,今後の日本の卒後研修プログラムを考えるうえで,「(1)一定レベルの専門知識を持ち,独立して診療を行なえる医師を養成する研修標準化の努力,(1)ローテーション研修をとり入れ,国際的評価に耐える研修プログラムの作成の2点を検討する必要がある」とまとめた。