医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


一般臨床医にとって優れた実用書

実践の外科臨床 門田俊夫,他 編集

《書 評》藤川貴久(天理よろづ相談所病院・腹部一般外科)

 世に数ある実用書,マニュアル本と呼ばれる書籍には,それぞれの筆者の経験をもとにした工夫やコツがちりばめられていることが多い。こうしたちょっとした工夫,コツといったものは,先人の外科医が臨床の場で試行錯誤を繰り返して築き上げてきた,かけがえのない財産ともいえる。しかし,この工夫,コツというものも時には迷信めいた「常識」もどきの上に成り立っているものもあり,施設間でもかなりその工夫の方向が異なってくることもある。

治療に必要な有用な工夫が満載

 本書はいわゆる「実用書」である。一般外科医が臨床の様々な場で直面する処置,治療の際に必要な有用な工夫,コツが満載されている。内容は,皮膚切開・縫合や消化管吻合といった消化器外科手術の基本操作から,虫垂炎,イレウス,胆石症などの外来でよくみる疾患の診断と治療,さらに小外科手術や創傷の処置など,「実用」という面を最大限考慮して編集されている。
 本書の最大の特徴は,5つの首都圏の第一線臨床研修施設の担当者による共同作業であるという点であろう。この5つの施設は臨床研修の指導という面からみれば,それぞれの病院の位置づけがかなり異なっており,各施設間での処置や治療の工夫には独特のものがある。ここで興味深いのは,各項目をその担当者にまかせるだけでなく,アンケートによる意見交換をまじえ,さらにそれぞれの項目に対して各施設の担当者が簡単なコメントを述べることで,極端な偏りをなくし,かつそれぞれの意見も尊重するようにしている。臨床でのちょっとした知識,工夫,コツというものは,曖昧模糊とした面がある反面,臨床では是非必要なものである。本書のような構成の書は,こうした処置の工夫,コツの要点を習得する上ではかなり効果的に利用できると思われる。

外科だけでなく内科研修医にも

 本書は大変わかりやすい。「難しい内容を難しく書く」ことは簡単で,「難しいことをやさしく書く」ことは難しい。「右も左もわからない研修医にわかりやすく教える」ことは難しいことなのである。近年では,医療が専門分化しすぎてしまったという反省を踏まえて,卒前・卒後教育において総合診療を重視する傾向が徐々に出てきており,特にプライマリケアに最低限必要な手技の習得は必須となってきている。こうした医学教育の面からみれば,創処置や外来小外科(office minor surgery)といった,外来やベッドサイドでの処置や工夫は,外科系のみならず臨床研修医なら最低限習得するべきものである。本書は一般内科研修医にとってもわかりやすく利用しやすいと思われ,普段あまり外来処置などに接する機会のない内科系研修医の面々にも,本書で得ることはかなり多いのではないかと思う。
 内科,外科を問わず,広く一般臨床医にとって,優れた座右の書であり,是非一読をお勧めしたい本である。
B5・頁280 定価(本体6,500円+税) 医学書院


運動負荷試験を正しく実施するための実践的な入門書

運動負荷試験ハンドブック VF Froelicher 著/村松準 監訳

《書 評》村山正博(聖マリアンナ医大教授・内科学)

 一昔前に運動負荷試験といえば,虚血性心疾患の診断のために行なうマスター2階段試験というイメージが強かった。最近では,本法の目的が虚血性心疾患の診断だけでなく,心機能評価や運動処方作成のためにも広く利用されるようになってきた。特に,日常生活における運動の効用が学問的にも証明され,運動習慣が広く国民生活の中に浸透してきたことから,適正な運動処方作成のために運動負荷試験を実施する機会が増えたことが本法のイメージを一変した大きな理由である。

拡大する運動負荷試験の利用範囲

 運動負荷試験を中心とした運動関連のテーマは,「exercise cardiology」として循環器病学の中でも重要な分野となりつつある。これからの高齢化社会に向けて健康維持のために,また動脈硬化を予防するためや,既に疾患に罹患した人の運動療法の手段として,運動の重要性はますます増してくるものと思われる。このような背景の下に,運動負荷試験は医療機関のみならず,保健・体育施設さらに産業医学の現場においても必須の方法となっている。
 このような本法の利用範囲の拡大は,最近のトレッドミルや自転車エルゴメータ利用による定量的・科学的プロトコールの導入により,一層拍車がかかっている状況である。一昔前の2階段試験だけの運動負荷試験はイメージを一変したわけである。しかしその一方では,運動負荷試験が面倒になったとか,危険になったという意見も耳にする。基本的な考え方と手順さえ理解していれば,決してそのようなことはないのであるが,本法におそれを抱く人も少なくない。
 今般,上梓された村松準氏監訳の『運動負荷試験ハンドブック』は,このような不安を持つ人にとってうってつけの本である。原著者のVF Froelicher先生は,私も面識のある人で,たびたび来日されており,一昨年の日本心臓リハビリテーション学会では特別講演をされている。また,アメリカ心臓病学会の運動委員会のメンバーの1人として,1995年には「運動負荷基準」を報告している,この方面の第一人者である。監訳者の村松準氏はベッドサイドにおける診断法に関する著書も多く,鋭い洞察力を持っておられるが,多分,本書の合理的な考え方に波長が合って監訳を思い立たれたのだろう。訳者はいずれも村松氏の親しい友人であり,訳もわかりやすい。

実際の現場でただちに役立つ

 本書の特徴は,実際の現場でただちに役立つ割り切った明快な考え方と手順の提示にあり,フローチャート式に手順を踏んでいけば,ひとりでに本法の施行と判定が可能になる仕組みになっている。その意味では,第II部の「運動負荷試験の実際」と第III部の「試験成績の評価」が本書の真髄といってよい。理論的背景はさておいて,独断的といわれようと長年の経験からこうだと言い切っているFroelicher先生の小気味よさが気持ちいい。
 本書がハンディで白衣のポケットにも簡単に入るのもよい。従来,運動負荷試験に関する入門書やガイドラインも少なくないが,本書のような実践的な本は少ない。これから本法の施行に携わる人はもとより,これまで本法におそれを抱いていた人にも一読を勧めたい良書である。
A5変型・頁192 定価(本体3,600円+税)MEDSi