医学界新聞

第97回日本外科学会開催

「独創と変革の外科」をメインテーマに


 さる4月9-11日,第97回日本外科学会が,高橋俊雄会長(京府医大)のもと,京都市の国立京都国際会館などで開催された。学会では一般演題に加えて,「癌の発生と転移の機構 研究の進歩とその臨床応用」など4題のシンポジウムや,特別シンポジウム「臓器移植の将来展望」,「先端技術の外科への応用」ほか多くの演題が組まれ,基礎的知見や臨床上の成果が報告された。

独創的発想と着実な研究を

 今回のメインテーマは「独創と変革の外科」。会長講演「独創による外科の変革をめざして」,特別講演「独創性と日本人」(前東北大学総長 西澤潤一氏)のほか,ワークショップ「新しいアイデアと工夫による外科」では領域別に58題の実験的・臨床的研究が発表されるなど,テーマに関連した企画が用意された。
 このうち会長講演では,高橋氏が自らの癌治療研究の軌跡を概説。抗癌剤油脂エマルジョンによるリンパ節転移の選択的化学療法,微粒子活性炭吸着抗癌剤療法,術前3種(5-FU,放射線,温熱)併用療法などの研究とその成果を解説した後,モノクローナル抗体A7-NCSを用いた転移・浸潤に対するミサイル療法(癌細胞のみを選択的に破壊)の効果を紹介。また転移・浸潤の術中診断の重要性から,イムノガイデッドサージェリーについても言及した。
 高橋氏は最後に「外科の変革は,従来の外科学の固定観念から脱却した,新しい独創的発想と着実な研究でもたらされる」と述べ,次代への期待を語った。

回答機で会場の意見を集約

 11題のパネルディスカッションのうち,一部の会場には参加者の意思が電光掲示板の数値で表せる押しボタン式回答機を設置。「肺癌の縮小手術は妥当か」など議論の多いテーマについて,パネリストだけでなく会場の参加者の意見を集約する意欲的な試みがなされた。
 この中で,(7)「乳房温存手術における腋窩リンパ節郭清の意義」(司会=大阪府立成人病センター 小山博記氏,癌研病院 霞富士雄氏,特別発言=勝楽堂病院 泉雄勝氏)では,乳癌患者への乳房温存手術における腋窩リンパ節郭清の省略が可能か否かが議論された。まず6人の演者のうち駒木幹正氏(徳島大),森本健氏(阪市大),池田正氏(慶大),辻尚志氏(岡山赤十字病院),村山章裕氏(大船中央病院)が症例研究の検討から省略の可能性を考察。高塚雄一氏(関西労災病院)は,郭清・非郭清の予後に関して現在進行中の多施設前向き臨床試験の適応基準と根拠を示した。
 次いで全体討論に移り,この中で司会から参加者に質問が提示され,回答が集約された(例=「郭清はすべての症例に必要か」はい62人,いいえ145人,「郭清には治療的意義があるか」ある152人,診断的意義のみ60人,「転移が顕性化してから治療しても最終結果に差はないか」ない75人, ある120人)。最後にこれらの意見も含めた討論のまとめを霞氏が行ない,転移抑制手段としての郭清の意義については今後の研究を待つ必要があること,予後予測因子としての意義は大きいこと,また症例選択の工夫が必要であることなどを指摘した。