医学界新聞

これからの小児看護のあり方

瀬谷美子氏(横浜市立大学看護短期大学部・教授)に聞く


 少子化が進む中,国立病院・療養所を中心に,「不採算を理由に小児医療を後退させてはならない」としながらも「小児科の存在が重荷になっている」との声を聞く。また,地域では医療圏内ごとに病床を集約しようという計画も練られ,国立小児病院は「国立成育医療センター(仮)」への整備を進め,幅広い小児医療への転換を図っている。
 このような中,少子高齢社会を背景として小児看護のあり方も転換を迫られるのだろうか。そこで本号では,第7回「日本小児看護研究学会」の瀬谷美子会長に,これからの小児看護教育のあり方などをうかがった。

(4月14日インタビュー)



●小児の病態を知るために

 私は,疾病に至らしめない,成長発達の阻害因子を与えないという保健的取り組みが小児看護では大事だと思っています。実は医師も同じことを考えていますし,むしろ医師のほうが小児保健という領域を熟知しているかもしれません。私たちとしては,日常生活の援助の中でどう具体的なケアを繰り広げるかというところが焦点となり,重要なことだと思います。
 小児を診る時に,病態なくして診られるわけもありません。脈をとる,手を握る,目と目を合わせる,素手で診ることからいろいろな隠れた症状があることに気づき,その病態を理解できるのです。
 そういう意味では,フィジカルアセスメントを実践し,考え方も教育もしてきたつもりです。小児のうちから,看護婦が聴診器を持って,「どれどれ」と言いながら身体を診て,これは,医師だけではなく看護婦もすることだと教えれば違和感なく子どもに受け入れられます。フィジカルアセスメントの原点は,表現力の未熟な小児にこそあるのではないかと考えています。
 近年,看護界でフィジカルアセスメントを強調して教育する傾向にあるようですが,それこそ小児の領域では30年も前からその重要性を教えていました。ですから「いまさら何で」という感じも実はしています。生意気ですけれど,そう思います。ただ,それを意識的に項目化してきたかと言うと少し違う気がします。その行為はコミュニケーション手段でもありますし,その子に合った対応というのは,システマティックではないにしろ,重要なポイントです。

●少子化が言われる中での教育

 「少子化」という言葉が高齢化と相まって言われていますが,基礎教育の中では,老人も小児も基本的な看護の考え方は同じです。決めつけを教えたのでは小児看護は成立しません。赤ちゃんだってものを言っている,子どもの言葉も聞こうよというような教えの努力をしていると,また発見があります。子どもからの発見,障害を持つ児からの発見で看護者としての自分も励まされることがありますが,これは成人にも老人にも共通することなのですね。その原点が小児にあります。
 障害を持つ子どもたちを通して学べることも数多くあります。重度障害を抱えていて反応を示さなかった子でも,繰り返し遊ぶことで変わることがあります。個別性や個人差を認めてかかわることで見えてくるものもあるのですね。それをわかろうとするきめの細かいセンスや情緒的な見方も大事です。それから,新生児もあなどれません。ですから,少子化時代で看護の対象となる子どもがいないなどと言わないで,病院でも助産所でもいいですから,もう少しゆるやかに体験をしてきてほしい。そうすると老人に対する理解も進むと思います。
 少子化で,小児科をめざす看護婦がいないのではと危惧されていますが,学生にとって小児看護はやはり人気があります。ゼミなどを開講しますと飛びついてきます。中には「子どもなんて大嫌い」という学生もいましたが,実習に出た後に「私,嫌いと言ったのを撤回します」と言ってきました。このように学生は,貴重な体験を通して,自身をふくらませていくのですね。

●臨床につながる研究を

 看護界全体に言えると思いますが,特に小児の領域では臨床と研究の積み重ねが必要です。小児はまだ成長発達の途中の段階にあるわけですから,ある時点で終わりというのではなく,長くみていくことも重要になります。新生児からかかわった事例を30歳まで見届けてこそ援助の評価が可能,という思いが私にはあります。自分が受け持った事例には責任を持ちたいですね。
 何らかの疾病や障害を持った子どもたちも,健康な子どもたちと同じように義務教育が受けられます。その中でも彼らは見守られ発達していきます。そこでの基礎データが,臨床の中で活用されていければよいと思いますね。例えばアトピーの場合がそうです。発症はしたけれど,ある時期は落ちついていた。では,その要因は何だったのか,という視点で考えていくというようにです。
 私は,助産婦として数年間地域で活動していたことが今日の原点となっています。胎生期から赤ちゃんを見続けて,成長するまで継続して見ていくことの重要性はいくつか研究として発表してきました。そういった成長発達する段階での様々な知識を,担当する看護婦がどう活用するのか,援助活動をする際にどう利用していくのかという能力が必要とされると思います。
 私は7月に開かれる学会の会長講演で,今まで述べたことを踏まえ,助産婦として,また障害を持つ児・家族の方々とともに学び合うことで何かをつかんだ者としての立場から,基礎教育における小児看護学のあり方に触れたいと思っています。