医学界新聞

医療の中での放射線医学の存在感を強調

第56回日本医学放射線学会が開かれる


 さる4月4-6日の3日間,山口昂一会長(山形大教授)のもと,第56回日本医学放射線学会が,横浜市のパシフィコ横浜において,「医療の柱-放射線医学」をメインテーマに,第53回日本放射線技術学会(会長=山形大病院 加賀勇治氏)および放射線機器工業会と合同開催。併設の放射線医療機器展も開催された。
 学会では,906題の一般演題発表の他,合同企画として特別講演「絵画の画像診断と修復」(東北芸術工科大教授 黒江光彦氏),パネルディスカッション「放射線診療における連携-IVRを中心に」(司会=山口昂一氏,加賀勇治氏)および電子情報フォーラム“CyberRad”が企画された。また,海外からの招待講演4題をはじめ,ラウンドテーブルディスカッション「放射線科専門医制度を考える」や,シンポジウム((1)MRIで解明された病態と問題点,(2)SPECTによる機能画像の定量化-その基礎と臨床,(3)新しい放射線療法の有用性の評価)の他,教育講演,教育講演カテゴリカルコース「わかりやすい脳神経の画像診断」,フィルムインタープリテーションセッション等も行なわれた。
 本号では,学会としてはじめて公の場で「放射線科専門医制度」を討論したラウンドテーブルディスカッションと,シンポジウム(3)を報告する。

指導医制度の検討を含みながら

 同学会の放射線専門医制度は1966年に発足しているが,ラウンドテーブルディスカッション「放射線科専門医制度を考える」(司会=熊本大教授 高橋睦正氏,京大教授 小野公二氏)は,この制度を振り返り将来の展望を開くことを目的に開催された。
 まず最初に司会の高橋氏が,「これまでの放射線科専門医制度」と題して,学会の専門医制度が確立されるに至った経緯や制度の現状を報告,また学会認定医制協議会とこれからの専門医制度などについて,学会誌などの記録から概説した。
 続いて西谷弘氏(徳島大)は,(1)放射線科の領域とは何か,(2)専門的技能の評価と認定,(3)社会的認知と役割の3点について報告し,問題点を考察。「放射線治療と画像診断に二分されるようになったのは最近であり,癌の診断と治療が放射線科の大きなテリトリー。専門医試験のレベルアップを図ることが必要」と述べた。
 また楢林勇氏(大阪医大)は,1990年に発足した「日本核医学会認定医制度」について解説し,「日本医学放射線学会(日医放)を構成する放射線診断,核医学,放射線治療は守備範囲が広く,関連学会も多い。重複の多い専門医,認定医制度の調整や統合を図るためには,日医放が中心となることが必要」と述べた。
 さらに新井義郎氏(ピッツバーグ大)は「米国の放射線治療専門医制度」と題し,米国の制度試験を受けた経験から他科との関連を重視する発言を行ない,また幡生寛人氏(京大)は,診断学を中心とした卒後教育に焦点をあて,米国の放射線専門医制度を紹介し「学会ないし専門医会,もしくは独立した組織として実際の研修制度を監視する機関が必要」と提言した。
 最後に前野一雄氏(読売新聞社)が登壇。「日本はMRIなどの機器整備は世界一ながら,放射線専門医は少なく存在感が薄い。情報公開をしながら,国民へ放射線専門医の必要性を訴える動きがあってよい」と述べ,本学会がイニシアチブをとることへの期待を強調した。
 その後の討論では,他科との関連,専門医試験と研修プログラムの問題,治療医と診断医を分けるのかなどについて論議された。また司会の小野氏はまとめにあたり,「専門医資格者に2年のサブスペシャリティ研修と試験を加えた指導医の存在が,これからの学会には必要。認定委員会などで検討をしていきたい」と,今後の学会の指標を示した。

データに基づいた放射線療法の有用性

 シンポジウム「新しい放射線療法の有用性評価」では,酒井邦夫(新潟大教授),山下孝(癌研附属病院)両氏を司会に6人が登壇。(1)治癒率は向上したか,(2)副作用は減少したか,(3)経済効果はあるか,(4)有用ならば適応の疾患は,(5)今後のどのような研究が必要か,の視点から客観的データを示し,評価を加えた。
 まず白博樹氏(北大病院)は定位的照射法について,その成績を左右する効果として線量,分割,容積,装置をあげ,ガンマナイフ治療と定位的照射用リニア治療に精度差がないことや,装置効果による危険な治療が行なわれることの懸念を指摘した。
 続いて井上武宏氏(阪大バイオメディカル教育研)は,阪大が1991年から口腔癌や再発子宮癌,直腸癌などに適応している高線量率組織内照射(HDR)について,外来治療が可能なためコスト負担が少なく有効性が認められることから,今後普及が拡大することを予測した。
 次いで陽子線治療について秋根康之氏(筑波大陽子線医学利用研究センター)は,「将来,放射線治療されるすべての疾患への適応が期待される」と述べ,癌治療には有用であることをこれまでの治療例から論じた。また課題としては「照射に伴う物理工学的な開発からのコンパクト化」をあげた。
 さらに多分割照射法を論じた菊池雄三氏(金沢大)は,「頭頸部腫瘍,非小細胞癌,食道癌などでの有用性は第III相試験の結果を待たねばならないが,イギリスでは生存率向上が認められた。今後は化学療法との併用でより生存率の向上を計ることが必要」と結論づけた。
 一方,中島俊文氏(天理よろづ相談所病院)は1996年から保険点数化された「温熱療法との併用」について論じたが,単独では効果が薄いため放射線療法との併用で有用になることを述べ,山田章吾氏(東北大)は一般的に行なわれている放射線療法と化学療法との併用について,治療成績からの有用性を検討した。
 放射線医学の担い手となる放射線医の存在価値改めて問われる時期であることを実感させる3日間であった。