医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


質の高い看護を提供するための対人関係理論

ペプロウ看護論 看護実践における対人関係理論
アニタ・W・オトゥール,シェイラ・R・ウェルト 編集/池田明子,他 訳

《書 評》古家明子(杏林大・看護学)

 ペプロウは,『ペプロウ 人間関係の看護論』(医学書院刊)の著者であり,精神看護学を専門として看護界においては既知の理論家である。私が学生の頃は「精神看護を学習する上で,よい理論である」と教えられた記憶がある。しかし,実際に読んでみると,精神看護学のみではなくあらゆる看護学の領域において看護婦-患者関係を考え,形成していくのに共通する基本的理論であった。

専門看護婦の役割を具体的に示す

 本書は,まず精神科での患者と看護婦の対応事例3例をもって対人関係における重大な出来事について説明している。それは,看護婦のニーズを優先させるがため患者のニーズを察知することができず,しかし看護婦は満足するといったことである。自分も陥りがちな状況であるような気もした。
 ペプロウは,「自分が話すという看護婦のニードを適切な看護婦の行動と考える人がいたら,対人関係理論がその人の看護実践を変えることはないだろう」,また,対人関係理論は「看護婦が,看護状況をより知的に観察し,鋭い感受性をもってケアを行なうことを可能にする知識の集合体であり,この理論を知らない看護婦に比べれば,その違いは明らかであろう」と説明している。
 看護婦のニードが優先されたとしても,患者に対し質の高い看護を提供したとは言えない。看護婦-患者の間での関係を成立させられるか否か,また対人関係理論を学ぶか否かにより,看護婦の資質および提供するケアの質に違いが如実に現れるであろう。
 日本の看護界においては,現在盛んに専門看護婦が活躍する場やその教育について検討がなされている。筆者は,早期に看護専門職の確立をめざし,一般看護婦と専門看護婦には明確な違いがあることを主張してきた1人である。本書では,精神病患者の課題と看護婦・専門看護婦の役割を表にし,その違いと期待される役割をより具体的に示している。

臨床場面を近くに感じさせる記述

 多くの看護婦は臨床場面で様々な体験を得るであろう。その体験をそのまま過ぎたこととしてしまう場合がある。また体験を積み重ねるうちに,理論的根拠なく,患者が示す現象に感覚のみで対処している場合が多いのではないだろうか。本書は,体験を定義しその体験を通じて教育を構成する要素をあげている。
 看護婦が毎日積み重ねていく体験を,多くの同僚に提供し,その体験が看護婦にとってどのような意味があるか,どのような学習をする必要があるか,学習内容を実施しどのような結果が得られるかを検証することが重要である。ともすると個の体験としてしまい,学びへと結びつける行動は実際にどのくらい実施されているか疑問であり,また少々恥ずかしいというのが実態ではなかろうか。精神看護学においては,このことは非常に重要な意味を持つと思われる。なぜなら患者の体験が学習へと通じていくからである。
 看護婦と患者の関係を成立させていく過程で,起こった出来事や患者の言動を看護婦が一方的に解釈し行動を起こすのではなく,出来事や言動1つひとつに立ち止まり,耳を傾け,「それはなんなのか」を考えることの重要性が,本書の根底に流れていると私は読みとった。本書では豊富な図や,具体的な看護の場面,丁寧な理論的概念の説明が示されており,非常に臨床場面を近くに感じさせるものである。
A5・頁352 定価(本体4,300円+税)医学書院


教育・臨床の場で幅広く活用できる

看護診断にもとづくオストミー・ケア 阪本恵子著

《書 評》廣田玲子(愛媛大附属病院)

 著者は,1985年に『ストーマケア:オストメートへの理解と援助』(医学書院刊)を出版後,数々の症例を研究された。今回はNANDAの共通概念である看護診断名,定義,定義上の特徴,関連因子などを用い,ロイと松木と看護モデルの概念枠組みでケース・スタディを示した点が強調されている。また臨床現場で何か1つの看護モデルによる概念枠組みを活用することによって,看護者が苦手とされる心理・社会面の看護診断,対象の把握ができ,看護実践者がより効果的に看護を展開できると言っている。
 私はこの著書を読んでみて,経験にかかわらず教育の場,臨床の場で幅広く活用できると確信を持った1人である。

ケアの実際をわかりやすく解説

 本書は第1章「予防・早期発見・リハビリテーション」から始まり,第2章,第3章,第4章で,手術前,手術後,退院後の看護と現場におけるオストミー・ケアの実際について,術前看護プログラムをはじめ,心理精神面の調整,身体面の調整,ストーマの位置決定,ストーマの形状などをわかりやすく解説し,実用的である。そして,その2~4章をもとに問題解決過程/看護過程を展開しているのが第5章である。
 看護過程は,看護独自の守備範囲である健康問題を5段階のステップ,すなわち(1)アセスメント,(2)看護診断,(3)計画,(4)実施,(5)評価という一連のプロセスとしてとらえる。1人ひとりの患者の看護展開には,「手術前,手術後,退院後の看護」を問題解決過程/看護過程に有効に統合する必要があると著者は解説している。

ロイと松木の看護モデルを用いる

 第6章では,ロイの適応看護モデルと松木の生活統合体モデルをとりあげ,具体例として看護診断に重点をおいたケース・スタディを示している。私たちは著者による指導のもと,看護過程は方法論にすぎないので,看護モデル/看護理論にもとづいた看護を展開をする必要がある。本書では演繹実践されたいくつかの看護モデル/看護理論の中から,ロイによる適応看護モデルと松木の生活統合体モデルを選び展開している。
 臨床現場におけるオストミー・ケアの実践者のみならず,患者家族指導に役立つ著書である。ぜひ一読を勧めたい。
B5・頁166 定価(本体2,500円+税)医学書院


患者の苦悩に焦点をあて看護論を構築

看護することの哲学 看護臨床の身体関係論 鈴木正子著

《書 評》木本良重(埼玉県立がんセンター)

 患者中心の医療という病院の理念を実現するために,看護は何をしているのか,何をすべきなのかを自問自答し,看護のあるべき姿を模索している時にこの本に出会った。

身体への関わりを具体的事例で解説

 本著は患者を理解すること,看護とは何かについて,人体と身体の相違を明らかにした上で,身体の概念を「体験する身体」すなわち人格全体を意味するものとし,「身体として存在する個人体験としての苦悩」と述べて身体関係論を説明している。そして,この身体への関わりを,1章から3章で具体的な事例を通してわかりやすく解説し,4章では,看護婦がやりがいと同時に多くのストレスを体験する,ホスピス病棟での癌患者への関わり方への問題提起がされている。
 5章では患者の苦悩の研究から「患者の苦悩にアプローチするには,疾病とその原因の追究,疾病の結果もたらされた問題を中心にアプローチするのではなく,人間存在全体として専門家自身が自らの人格を投入してかかわっていくことが必要と考えられる」と結び,患者との関わりそれ自体が看護であり,その関わりのあり方が看護の質を左右するとしている。そして著者は看護の役割について,患者の「そのときどきの苦悩のありように,専門的ケアが必要である」と述べている。
 臨床の現場でも,患者の苦悩を理解するために看護婦たちは患者の話にゆっくり時間をかけて耳を傾けようと努力をしている。しかし,それによって患者が苦悩から解放されたのかどうかの評価がされずにいるのが実情である。患者との関係を評価することにより,看護婦1人ひとりの看護の質の向上が生まれるのかもしれない。

看護とは何かを考えさせられる

 著者はあとがきに述べる。「看護とはいったい何であり,何でないのか。何をどのようにしなければならないのであり,何をすべきでないのか。また,医療従事者として最も身近な医師をその代表とした場合,いったいどこが同じであり,同じでないのか。こうしたことどもが繰り返し私を襲う……」。この言葉から,著者が,看護が看護として何をすべきなのかについて悩み苦しみ,終末期癌患者との関わりから患者の苦悩に焦点をあて,看護臨床の身体関係論という看護論を構築された思いが強く伝わってきた。
 本書を読み進めていくと,臨床で実践している看護を振り返りながら看護とは何かを考えさせられる。著者の看護への強い思いがあとがきに込められているので,本書はあとがきから読むことをお薦めしたい。
A5・頁168 定価(本体2,500+税)医学書院