医学界新聞

対 談

准看護婦問題のこれからを考える

准看護婦問題調査検討会報告書を受けて

諸橋芳夫氏   
日本病院会長・旭中央病院長 
 久常節子氏
 厚生省健康政策局看護課長


 昨(1996)年12月20日に,厚生省の准看護婦問題調査検討会は最終報告書を提出。その後,日本看護協会をはじめとする関係各団体,マスコミはこの報告書に対して,「看護婦養成制度の一本化」「准看制度廃止」に代表される様々なコメントを発表した。
 その中にあって日本医師会は,「准看護婦養成と准看護婦制度の維持」を旨とする見解を表明し,(1)養成所の入学資格を高卒に,(2)准看護婦資格を国家資格に,などの改善策を提示している。
 一方日本看護協会は,本年5月に神戸市で開催される平成9年度通常総会において,「准看護婦制度の廃止」をスローガンに掲げるとともに,最重点議案として「2001年までに准看護婦養成停止実現をめざして活動を展開する」旨の提案を行なう。
 また,厚生省では報告書の提言に基づき,准看護婦養成所に対する改善支援,養成所指定規則の一部改正などの省令改正作業に着手しはじめている。さらに,文部省の「高等学校における看護教育の充実・振興に関する調査研究会議」は,3月31日付で報告書を提出。准看護婦養成機関から看護婦養成機関へ移行すべく,衛生看護科から専攻科までの5年間の一貫教育を提示した。
 そこで本号では,准看護婦問題調査検討会の委員であり日本病院会長の諸橋芳夫氏と厚生省健康政策局の久常節子看護課長に,同検討会では何が話され,何が問題となったのか,また今後の准看護婦制度をめぐる話題についてお話しいただいた。

(1997年3月12日,収録)


検討会全員の合意による報告書

「統合」という言葉

本紙 「准看護婦養成所等の客観的実態把握とそれに基づく検討を行ない,准看護婦の養成のあり方等をめぐる長年の議論に終止符を打つこと」を目的に開かれていた厚生省の准看護婦問題調査検討会は,昨年12月に最終報告書を公表しました。その中では,「21世紀初頭の早い段階をめどに,看護婦養成制度の統合に努める」という提言がなされ,「准看護婦・士資格を有する者が看護婦・士の資格を取得するための方策を検討すべき」と述べられています。また,報告書の「統合」という言葉は「准看護婦養成の廃止ではない」という意見も,日本医師会を中心にあります。そのあたりのお2人のご意見からお話しいただければと思います。
諸橋 統合という言葉ですが,私は将来に向けての発展的な准看護婦教育制度の解消だと受け取っています。統合すると言うからには下に統合するという意味はありません。医療界においても,看護の世界においても,みんな向上をめざしているわけですから,上に向けて「准看護婦制度は発展的に解消しよう」という意味と解しています。
 ただ,准看制度を将来廃止するからといっても,現在働いている約37万人の准看護婦さんを切り捨てるという話ではいけません。放送大学などを利用した通信教育や講習会,研修会などの手段を使いながら,正看護婦への道を見つける必要があるでしょう。また,現在の国家試験とは別の,より実務的な試験を行ない,国家資格を取らせる方策も必要です。ただこの試験は永久に続けるものではなく,ある程度の時限を課すことが要求されます。
久常 今回出された報告書につきましては,どのような経過から導き出された結論なのかをきちんと確認しておく必要があると思います。
 この検討会の結論が導き出された意義は,まず准看護婦問題にかかわる全員が参加したこと,2つ目は調査結果に基づいて検討したということ,そしてこの結論は委員全員の合意の上によるものだという3点に集約されるでしょう。
 この検討会は,「少子・高齢社会看護問題検討会」が1994(平成6)年に出しました報告書の「准看護婦学校養成所等の実態の全体的把握を行ない,関係者や有識者,国民の参加を得て速やかに検討し結論を得るべき」のと主旨を引き継いで開かれたものです。先の検討会ではメンバーが10人でしたが,今回は20人に増えています。なぜ倍の数になったのかと申しますと,准看護婦を養成する側,看護関係団体,当事者,国民,雇用する側を代表して医療関係団体の長,そして医師会からも担当理事というように,准看護婦問題にかかわる全員が参加したからで,それが非常に重要です。
 また従来の検討会と違うところは,実態をきちん把握し,事実を明らかにするために,委員全員の合意の上で作成した対象別による11種類の調査と,その結果をもとに検討会をした,つまり,実態に基づいた検討会をしているということです。
 そして,報告書という形の結論も多数決で決めたのではなく,全員の合意によって決めたものなのです。「中止」あるいは「一本化」とはっきり表現すればよかったという声も聞きますが,最終的に参加者全員が合意するために,「統合」という言葉が選択されたわけです。
諸橋 廃止という言葉だとトーンが強すぎるからと,最終報告を出す時に初めて「統合」という言葉が出ました。それ以前の10回に及ぶ検討会の席上では,統合という言葉は一言も出ていませんでしたね。

大規模な実態把握から

久常 確かに「21世紀初頭の早い段階をめどに,看護婦養成制度の統合に努めることを提言する」という部分だけを見るとわかりにくいのかもしれませんが,この報告書の中では入学志願者の減少,就職の困難性をあげ,准看護婦養成所の運営そのものも困難になるという予測もしています。この流れをきちんと読む限り,准看護婦に統合するということは考えられません。
諸橋 調査対象となった人は,准看護婦学校の生徒や卒業生,教育者担当,学校長,診療所長,病院長と,実に5857人に及びました。いろいろな方々からかなり大規模に意見を聞き,現状の把握に努めました。
 私は1987(昭和62)年の「看護制度検討会」の時も委員をしていましたが,その時には各団体から意見を聞いたものの,実際の数字によるデータはありませんでした。今回は数値として現状が示されましたので,非常に迫力があったと思います。結果として,労働基準法違反や健康保険法違反,保助看法違反,人権侵害という問題までが明らかにされた部分もありましたからね。
久常 先の「少子・高齢社会看護問題検討会」の提言に「実態把握を踏まえ」とありましたが,それが非常に重要だったと思います。それまでは,診療所では准看護婦が必要だと言われていましたが,調査結果を見れば,診療所の先生方の35%が「准看護婦であっても十分業務に対応可能」と答えていますが,33%の方は「当面採用なし」とも答えています。また,「働きながらでないと進学できない」ということが准看護学生に共通する特殊性のように言われてきましたが,調査結果によると生徒の過半数がそうであったのは1965年以前で,1970年代後半からは緩和され,現在では大学,短大生と同じ状態にあることがはっきりしてきました。

医療の進歩に見合った対応を

諸橋 この10年間に医学・医術・薬学・看護学は著しく進歩しています。看護教育の世界では,10年前はまだ看護大学も少なく,したがって看護学士や修士,博士号を取得している方もずっと少なかった。また,専門看護婦という制度もなかったわけですが,この10年間で急激に変化をしてきました。その一方で准看護婦問題はそのままにしてきた。そのような背景にあっては,とても中学校や高校を卒業しての2年間1500時間の教育では,医学・看護の現実の進歩に見合った対応はできません。
久常 これはどなたからも異義はありませんでしたね。
諸橋 そうですね。このことは日本医師会の先生方もおわかりなんですよ。1951(昭和26)年から長い期間存在した制度ですから,急に養成中止と言われても戸惑いが生じるだろうことはわからないではありません。しかし,日本医師会は専門学術団体です。専門学術を称する団体が,果たして年間1500時間程度の教育内容で日進月歩の医療の一翼を担う人材を養成したとしていいものだろうか。そこを十分お考えいただければ,おのずと結論は出るのではないでしょうか。

特異な日本型准看護婦制度

イギリスは准看護婦制度を廃止

久常 現在この報告書に関しまして,質疑が国会で行なわれています。その中には,「現在働いている准看護婦さんは非常に不安な気持ちになっているけれど,彼女たちの仕事は保証されるのか」「これから准看護婦をどうように看護婦にしていくつもりなのか」という質問に加え,「看護婦養成に統合する日はいつなのか」といったスケジュールを明らかにしろというものもあります。私はこの報告書に基づいて,現場の皆様に不安のないように進めていかねばならないと思っています。
諸橋 第4回の検討会では,林千冬氏(群馬大助教授)を招き「イギリスにおける准看護婦養成の停止と看護婦への移行措置について」のヒヤリングを行ないました。イギリスは,日本と同じ頃に看護婦が足りないということで准看護婦制度を作ったわけですが,それを廃止できたという事情を聞きました。日本も廃止ができるわけです。
久常 一歩先を歩いている国があるということは,これからの見通しをたてた時に,何をしないといけないのかなど参考になりますね。
 それから「どこの国も准看護婦制度はある」という話もよく聞きますが,フランスにはありませんし,隣の韓国やフィリピンにもありません。ドイツを含め,同じような制度を持つ国はありますが,日本の准看護婦養成のあり方とはとても違います。働くことを前提に教育が組み立てられていることなど,これは完全に日本型准看護婦養成形態と言えるのではないでしょうか。
諸橋 午前中に病医院で働いて,午後に学校へ行き勉強をし,さらに夜になるとまた病医院に戻り働くということは,これはもう不可能ですよ。
久常 それから准看護婦と看護婦の数がほとんど変わらない。このような国はないんですね。例えばドイツを見ても,看護婦10に対し准看護婦の割合は1です。そういう中での看護を国民は受けているわけです。
諸橋 私どものところ(旭中央病院)でも,歴史的に見れば准看護婦が非常に活躍してくれた時代があります。そういう人たちの中には進学コースへ進んだ人も多くいます。
 今年の4月1日の看護職の状況を見ますと,看護婦・助産婦が510名,准看護婦は95名,それから看護助手,メディカルクラーク,保母,歯科衛生士などが250名の合計855名です。
 現在,准看護婦さんには病院の中で再教育を実施しています。まだ看護職員全体のうち16%くらいは准看護婦がいるわけなんでね。ですが,もう2,3年前から新しく准看護婦は採用しなくなりました。これは世の中の趨勢で,しかるべき病院では,これからますます准看護婦は採用しなくなっていくでしょうね。
久常 今回の調査でもその傾向ははっきり出ています。
諸橋 診療所でもどんどん看護婦が多くなってきているでしょう。
久常 訪問看護を始めたためでしょうか,対前年度比ではすごい勢いで看護婦が増えてきています。
諸橋 厚生省では,2000(平成12)年には看護職の需要と供給のバランスがとれると言っています。私は「そんなものは当たったためしがないからまたはずれる」と言っていたのですが,今度はどうも当たるような気がしてきました。
 実は私どもの施設の今春の採用数を見ましたら,一挙に50名も看護職員が増えるんですね。いままではせいぜい12~13人増でしたから,病院の拡張に追いつかなくて本当に困ったものでしたが,今回はどうも久常さんの言うことが当たるのではないかと思えますね。

法的改善に向けて

久常 准看護婦問題については,すぐ改善しないといけないものと,21世紀に向けてどうするかを考えるものと,2つの問題がありました。改善することに関しては,すべての団体が非常に積極的でした。そのことを評価しないといけないと思っています。そこで,働くことを条件づけるあり方,看護学生に不利益を及ぼすあり方を禁止する方向での省令改正は,現在の准看護婦養成所だけではなくて,保健婦助産婦看護婦学校養成所指定規則の一部改正を予定し,全体に及びます。その内容は,関係者の方々にも推進していただけるものと確信しています。早急に解決すべきであるという点で本当に一致していましたね。
諸橋 看護婦と准看護婦の人件費はそれほど違わないというデータもあります。それによりますと倍も違うわけではありませんから,准看護婦を採用するならより高レベルの教育を受けた正看護婦を採用するのが自然です。それでも,3年制コースを卒業して一人前として働けるようになるには,やはり半年以上はかかりますかね。
久常 卒後教育には,1年はかかると思います。
諸橋 だから,病院に入院する場合には4月から5月は避けたほうがいい(笑)。するなら10月から12月。1月になると今度はやめる看護婦も出てくるから,数が少なくなり,その時期もだめ。私が白内障の手術を受けたのは12月でした(笑)。

移行教育のあり方

当事者の意見や提案を聞いて

本紙 養成廃止がいつになるかも大きな問題ですが,約37万人いる准看護婦さんをどのようにして正看護婦に移行するのかが最大の問題に思えます。
諸橋 朝日新聞の今日(3月12日)の社説で准看護婦問題に関することが掲載されていました。ある准看護婦学校の校長の,「この学校の卒業生が将来本当に幸せであり続けるという確信が持てない」という文章を取り上げ,准看護婦教育者が「こんなことでいいのだろうか」と,罪の意識を感じているという内容なのですが,彼女らを送り出すところは看護の最下層の部分であり,早急にこういう制度,准看護婦養成を取り止めるべきだ,看護資格の一本化は看護,医療の質の向上につながると論者は述べています。
久常 基本的には養成所を経営されている方,准看護婦の方々の意見や提案をまずきちんと聞かなければと思っています。皆さんのご意見を聞く機会を持ちながら具体的に進めていきたいと考えています。
 私はこの移行教育ということに大きな夢を持っています。「これが看護教育だ」という最高の質のものを提供することで,看護にさらに大きい夢を持っていただきたいし,看護の可能性を感じていただきたいのです。自分が勉強することによって,目の前にいる患者さんの回復が一層促進される,看護の力で変化を起こしていく,そういう自信を持っていただきたい。その力をつけるのは,教育でしかできないと私は思っています。
 それから,勉強しようと思っても,家庭がある人にとっては,仕事との両立は難しい話ですよね。ですから,継続することをどう支援するのか,どう具体化していくのかということをぜひ今度は考えていきたいと思っています。准看護婦から看護婦への移行教育が日本の医療の質に大きく影響を与えるような,そういう動きになればいいなと思います。それが私の夢ですね。

看護の質を重視して

久常 アメリカの文献などを読みますと,「2000年までに42万8000人の大学卒の看護婦が必要とされ,これにより15万6000人の短大卒の看護婦が余剰になる」と書いてあるんですね。日本でしたら,どこを卒業しても差をつけることなく,看護婦・准看護婦トータルで何人足りないとなるでしょう。医療における看護効果に非常に敏感になっているアメリカの現状を表していると思います。日本では,いままでは看護効果が高かろうが低かろうが,看護の質の評価は,看護婦の数,准看護婦の数という単位で見てきましたが,これからはより看護効果を高める質が重視されるようになるでしょうし,要求されるようになると思います。そういう意味でも,質の高い移行教育による看護婦資格にしていかなければならないでしょう。
諸橋 日本看護協会としても,長年の懸案であった准看護婦廃止に向け一歩を踏み出したわけですから,准看護婦から看護婦となる方策や支援をするだけの度量と責任があると思いますよ。
久常 看護婦の先輩として,同じ仲間として,日本看護協会もそれに向かって本気で努力してほしいと思いますし,してくれると思っています。なにより行政が責任を持って進めねばと思っています。
諸橋 どのようにするかですが,4月から新しく検討会が始まるのですか。
久常 もう少し準備が必要になるかと思いますので,おそらく夏ぐらいから始まるのではと思っています。
諸橋 私の病院では,衛生看護科の実習も引き受けているのですが,文部省ではどのような方針を考えているのでしょうか。
久常 次の検討会で結論が出るそうですが,専攻科と合わせた5年間の一貫教育で,最初から看護婦教育をめざすという方向になるのではないでしょうか。
 今春新設の看護学校を見てみますと,3年課程の新設が13校あるのですが,そのほとんどが准看護婦学校をやめて看護学校に移行するというものでした。
諸橋 いまから数年前になりますが,日本看護協会の総会であいさつをさせられました。参加者が5000人もいるんですね,驚きました。でもその時に,これからの病院の良否は医療・医術だけじゃなくて,看護の質と量によって決まる。はっきり言えばこれからの病院をよくするか悪くするかはあなた方の双肩にかかっていると言ったのですが,5000人の前で演説すると声が響くものですね。
久常 若返りましたでしょう,5000人の女性から見つめられましたら(笑)。
諸橋 これから病院を背負って立つのは,医師はもちろんだけど,看護婦が主力ですよ。うちだって940床の病院で医師は160人ですが,看護職員は605人,他に助手250名,総計855名もいるのですから,大きな原動力ですね。
本紙 いまのお言葉を読者へのメッセージとさせていただき,おわりにしたいと思います。本日はありがとうございました。