医学界新聞

第22回日本脳卒中学会開催される

日本における脳卒中学(strokology)確立を


 さる3月6-7日,福岡市博多のシーホークホテルにおいて,藤島正敏会長(九大教授)のもと,第22回日本脳卒中学会が,参加者約1400人を集めて開催された。
 基礎から臨床,内科から外科,疫学からリハビリテーションと多岐にわたる研究成果366題が発表された。
 特別講演には,P.A.Wolf氏(ボストン大教授)が「Contribution of Epidemiology to the Prevention of Stroke」を,またG.J. del Zoppo氏(スクリプス研究所)が「Clinical Response to Thrombolysis in Acute Ischemic Stroke, and the Importance of the Microvasculature」の講演を行なった。

脳血管障害の位置づけと脳卒中学

 会長講演で藤島氏は,1960年以来30年間にわたる久山町脳卒中疫学調査の成果を発表。この調査から,脳塞栓症や脳出血のあり方に性差があることや,1980年代以降,肥満や高コレステロール血症などの代謝異常の増加が脳卒中発症率の低下をもたらしたと報告した。
 藤島氏は,「脳血管疾患は癌に続く死亡原因第2位であり,いまなお日本人の国民病である」とし,その病態から脳卒中を全身疾患として認識すべきと述べた。
 さらに,現在,脳卒中の遺伝要因を明らかにすべく,久山町の脳卒中死亡剖検例1,500例(剖検率82%)の遺伝子解析を,特にアポリポ蛋白Eに注目し進めていると公表。同時に,スウェーデンのAsplundが提唱した神経内科と循環器学に精通した脳卒中専門医(strokologist)の概念に加え,内科,脳外科,神経放射線,リハビリテーション等の知識を合わせ持つ脳卒中学者の育成が急がれるとし,日本における脳卒中学(strokology)の確立を提言した。

脳卒中の高血圧の管理を どうするか

 シンポジウムは,「脳血管障害と高血圧管理」(司会=国立循環器病センター 山口武典氏,自治医大教授 島田和幸氏)をテーマに行なわれた。脳卒中の最大の危険因子である高血圧の管理について,内科と外科,さらに急性期,慢性期と様々なステージから議論がなされた。
 まず最初に,苅野七臣氏(自治医大)が脳血管障害の1次予防をテーマに,脳梗塞発症と血圧日内変動異常の関係を提示した。高齢高血圧患者を夜間血圧低下のないnon-dipper,適度な夜間血圧低下を示すdipper,また過度の夜間血圧降下を示すextreme-dipperの3グループに分類,検討し,このことから,血圧日内変動,特に夜間血圧を考慮した降圧療法が脳梗塞の1次予防の重要な鍵になることを述べた。
 脳出血の急性期については,外科の立場から本藤秀樹氏(徳大)が,内科の立場から小松本悟氏(足利赤十字病院)がそれぞれ報告。本藤氏は脳出血の血腫吸引術中と術後の積極的な降圧療法中は,発作早期の血腫拡大を防止し,術中術後の再出血を減少させるため,むしろメリットが大きいと述べた。
 一方,小松本氏は脳出血急性期における降圧治療に対して,循環ペプチド動態,特にET-1, アドレノモジュリン値の変化が連動することを報告し,予後にも反映されることを示した。
 脳梗塞急性期については峰松一夫氏(国立循環器病センター)が,日本で進行中の治験において,拡張期血圧110以上の場合,24時間以内の頭蓋内出血発生の危険度はそれ未満の39倍とのデータを提示。また,脳梗塞急性期では降圧療法は原則的には行なわないが,今後増加が考えられる超急性期血栓溶解療法や,抗凝血薬療法中の患者の場合は降圧療法が必要とまとめた。
 慢性期の脳卒中の血圧管理については井林雪郎氏(九大)が報告。降圧は有効としながらも,病態によっては使用する降圧剤を慎重に選び,過度の降圧が招く脳卒中再発(Jカーブ現象)を考慮する必要があるとし,慢性期治療中は血圧を140/80程度でキープするのがよいと述べた。

脳虚血における細胞死

 2日目のシンポジウムでは,「脳虚血の病態と対策」(司会=東大教授 桐野高明氏,日医大教授 赫彰郎氏)と題し,脳虚血を分子生物学的側面からアプローチし,虚血後の神経細胞死のメカニズム解明を中心に話し合われた。
 まず,脳梗塞の遺伝子治療の可能性を視野に入れた虚血性脳血管障害治療の展望を阿部康二氏(東北大)が報告。続いて田中耕一郎氏(慶大)が,一酸化窒素(NO)が持つ細胞障害性および神経保護の2つの側面を,さらにFK-506投与が虚血性細胞障害を抑制することを提示した。北川一夫氏(阪大)は,白血球集積に関与する接着因子であるセレクチンファミリ―,ICAM-1と微小循環との関連を述べた。
 さらに脳虚血とアポトーシスに関する最新の知見について,山田和雄氏(名大)がp53, bcl-2などアポトーシス抑制・促進にかかわる遺伝子の解析を,辻本賀英氏(阪大バイオメディカルセンター)は細胞死の分子メカニズムから報告した。