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Clinical Skills Assessment

アメリカ臨床研修の資格取得に義務づけ



 USMLE(United States Medical Licensing Examination)とは,アメリカの医師国家試験に相当し,この試験に合格しなければアメリカで医療行為は行なえない。USMLEを受験することは,アメリカで臨床研修を行なうための必須の条件なのである。
 現在,アメリカで臨床研修を受けるためには,USMLE step1(基礎医学試験)とstep2(臨床医学試験),ECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduates)English Test(もしくはTOEFLで代行可能)において基準点以上を満たし,ECFMG certificationを取得することが課せられている。
 それに加えて,1998年7月1日以降にcertificationを取得する受験者には,Clinical Skills Assessment(CSA)に合格することが義務づけられるようになった。
 本紙では,新しい試験方式であるCSAについて,先般行なわれたCSAプレテストの内容とともにレポートした。

USMLE受験から臨床研修開始までの流れ


Clinical Skills Assessmentとは

 CSAは,アメリカ以外の大学医学部を卒業した受験者を対象とした,アメリカで医師に要求される能力を,標準模擬患者(standardized patient;SP)を用いて総合的に評価するテストである。SPとは,患者役として一定の標準的対応ができるよう訓練を受けた者のことである。
 この試験では,受験者はさまざまな訴えを持つSP10人前後を相手に,診察・問診を行ない,鑑別診断をし,患者に今後の治療方針を告げるまでの,一連の診療行為を行なう。1人の患者の診察に15分間ずつ与えられるが,そのなかでいかに時間配分をし,適切な診療を行なうかが要求される。
 試験官でもあるSPは,受験者について以下の4点に関する評価を下す(SPは元俳優が多く,医療面での評価のためにもう1人評価者が同席することも考えられる)。
(1)history-taking(既往歴や病歴聴取,カルテの作成)
(2)physical examination(身体所見)
(3)interpersonal communication(対人コミュニケーション)
(4)spoken English
 (3)については5ポイント制(1=poor,5=excellent),(4)は4ポイント制(1=low comprehensibility,4=completely comprehensibile)で評価される。
 受験者は診察後,1患者あたり7分の制限時間で「patient progress note」を作成する。これは,個々の患者の診察所見に加えて,診断名と治療計画をレポート形式で記載するものである。
 また,CSAは,受験者ごとの予約制で,フィラデルフィア州ペンシルベニアでのみ受験可能となる。step1,2を日本で受験して合格しても,CSA受験のためだけに渡米しなければならず,時間的に余裕のない研修医にとっては厳しいものになる。
 さらに,CSAはいままでのペーパーテストとは全く異なった試験方式であり,実際に患者を目の前にしたときの臨床能力に加えて,医師と患者間の信頼関係を築くなど,医師として本当に必要な能力がためされる試験なのである。同時にそれをすべて英語で行なわなければならない。この試験で受験者に求められるレベルは,臨床能力,コミュニケーション能力,そして英会話力と,従来に比べてはるかに高くなることは必須である。

CSA合格のポイント

 アメリカで医師生活を経験し,医学留学の最近の動向に詳しい国立東京第二病院総合診療科の伊藤澄信氏はこう語る。
 「CSAは,カナダの医師国家試験にもなっているOSCE(objective structured clinical examination:客観的臨床能力試験,本紙2224号参照)の手法を取り入れたもの。現在,OSCEは医療面接や身体所見の習得に最も効果的であると考えられ,世界的なトレンドともなっているので日本人も理解すべきもの」
 「CSA受験者に必要な心構えとして,まず評価者が自分の何を評価しようとしているのかをきちんと考えて診療すること。限られた時間の間に,患者から必要な情報を聞きだし,鑑別診断に必要な診察をし,最後に患者に診断名や今後の治療方針を告げるなど,実際の診療の場においても必要なことが要求されていると考えればよいのでは。また,受験者は患者が何を訴え,何を望んでいるかをきちんと理解していることをアピールしないと,CSA合格は難しいのでは」
 「同時に,患者の診察の仕方やアピールのやり方に,ちょっとしたコツがあるのも確か。普段から患者中心の医療行為を行なうことを心掛け,それに応えるだけのトレーニングを積めば,怖くはないと思う」

CSAプレテストの内容

 CSAの正式導入に先がけて,昨年アメリカで行なわれたCSAのプレテストは,10~12症例のSPを相手に,診察に15分,レポート作成に7分という時間配分で行なうというものであった。OSCEと同様に,SPにはあらかじめ自分がどのような患者役になるかのシナリオと,受験者の何を評価すべきかが一覧になったチェックリストが渡され,そこに評価を書き込んでいく。
 以下は,ある日本人受験者に割り当てられたSP11人の症例である。ここではSPの他に,評価者としてもう1人が同席して行なわれた。
(1)高血圧(35歳以下)
(2)高脂血症(35歳以下)
(3)呼吸困難
(4)下痢(1か月以上続く)
(5)腹痛(右下腹部)
(6)下肢痛
(7)聴力低下(老人)
(8)抑うつ状態(配偶者の死亡後,服薬希望)
(9)針刺し事故(患者の感染情報不明)
(10)予防接種後の皮疹(小児,次回接種はどうすべきか)
(11)癌宣告を受けた直後の患者への対応
 このように,症例は多岐にわたり,日本で初期臨床研修を経験していないと,実際に患者を前にして対処するのは難しいと思われる。
 日本で唯一のUSMLE対策の予備校であるメディカル アカデミーの有村直人氏は,今後の日本人のUSMLE合格について危惧の念を隠さない。
 「現在,外国人のUSMLE Certification取得率は45%と言われていて,その中で,日本人は,平均して年に200-300人前後受験して合格するのは50-60人」
 「CSAが他の試験と最も異なる点は,今までのように客観的に評価されるのではなく,どうしても評価者の主観が入らざるを得ない方式であること。そのため,外国人の合格が厳しくなることが懸念される。さらには,CSAで特に評価される口語英語が,日本人の受験者にとって最も苦手な分野であることも,アメリカ臨床留学の門を狭くする要因となるのでは」

試験はすべてコンピュータで

 また,1997年度のUSMLE Information Bookletに,今後,USMLE step1‐3試験はすべて,アメリカでの大学院受験と同様に,コンピュータ上で行なわれる予定であることが記されている。1998年12月実施のstep3(アメリカ各州ごとで定められている,医師免許証の取得に義務づけられる試験)からスタートする。つまり,いままでのように紙と鉛筆を使って,テスト用紙のマークシートに答えを記入するのではなく,画面上に浮かぶ設問を読み,キーボードで答えを入力していくのである。コンピュータ化が導入されることで,今までと試験制度が大幅に変化することも考えられる。

1997年USMLE試験スケジュール
 
   step16月10-11日
 10月14-15日
   step23月4-5日
 8月26-27日
   step35月13-14日
 12月2-3日

新しい情報を入手する

 CSAの詳細に関しては現在まだ協議中であり,今年の秋ごろに明らかになる予定である。今後,日程が近づくにつれて,新しい情報がどんどん流れてくるので,近々USMLEを受験したいと思っているなら,ホームページでこまめにチェックするのも1つの手である。
 また,USMLEの細かい受験方法については,ホームページ上でも検索できるが,冊子を取り寄せてじっくり読んでみるのもいい。以下にホームページのアドレスと,冊子の入手先を記す。

インターネット ホームページ
http://www.ecfmg.org
USMLE Information Booklet入手先
■Education Commission for Foreign Medical Graduates
 3624 Market Street, 4th Floor Philadelphia, Pennsylvania 19104-2685 USA
■日米教育委員会
 〒100 東京都千代田区永田町2-14-2 山王グランドビル2階
 TEL(03)3580-3231(留学相談課)
■横須賀米海軍病院
 〒238 神奈川県横須賀市本町1丁目 石橋尚子(同病院内科)
 TEL(0468)21-1911(内線8748)