第2231号 1997年3月10日


第5回総合診療研究会開かれる

総合診療の将来をシンポジウムで展望



 さる2月1-2日,佐賀市の佐賀医科大学において,第5回総合診療研究会(会長=佐賀医大教授 小泉俊三氏)が開催された。会期中には「臨床」「臨床疫学」「卒後臨床研究」などのカテゴリーで一般演題27題が発表された他,教育施設紹介(ポスターセッション),ワークショップ,ナイトセッション,シンポジウムが行なわれた。
 なお今回開催地となった佐賀医大は,国立大学で最初に総合診療部が設置(1986年)された大学。初日には来賓の松浦啓一氏(佐賀医大前学長)が,佐賀医大総合診療部開設前後の経緯を紹介した。

5つのワークショップで学習

 総合診療研究会のワークショップは,総合診療に関わるトピックスの学習の場として位置づけられている。今回企画されたのは,(1)総合診療の研究方法(自治医大 五十嵐正紘氏),(2)ティーチャートレーニング(川崎医大 伴信太郎氏),(3)臨床疫学と決断分析(京大 山本和利氏),(4)医学文献の批判的読み方(国立東京第二病院 新保卓郎氏),(5)医療倫理とコミュニケーション技法(三瀬村国民健康保険診療所 白浜雅司氏)の5題(カッコ内は講師)。ワークショップは小グループ討議や実習などで構成され,各会場で参加者の積極的な姿勢が見られた。
 またナイトセッションは,若い世代の医師が参加した「若手医師にとっての総合診療」(司会=聖マリア病院 小田康友氏)と,指導的立場にある医師が中心の「総合診療の教育のあり方」(司会=佐賀医大 吉原幸治郎氏)との2つを同時に開催。前者では総合診療医としてのアイデンティティについて,また後者では教育におけるロールモデルの重要性などについて,それぞれ自由に意見が交わされた。

医師の教育と総合診療

 プログラムの最後に行なわれたシンポジウム「総合診療をどのように展開するか その将来像」(司会=小泉俊三氏)では,総合診療の将来像を展望する目的で5人のシンポジストが登壇した。
 はじめに青木誠氏(国立東京第二病院)が,国立病院での総合診療の展開について発言した。この中で青木氏は卒後教育を1つの大きな柱と捉え,総合診療科レジデント研修の中身などを解説。また,これからの総合診療は診療・教育・研究において積み重ねられてきたデータベースを用い,各施設が協力して学問体系づくりをしていく時期に来ていると期待を述べた。
 続く前沢政次氏(北大)は,昨年7月に診療を開始した北大の総合診療部について紹介。「専門科への振り分けが困難な患者を診療すること,患者や家族が問題を解決できるよう,あるいは成長できるよう援助すること」などの基本方針を解説し,さらに学生・研修医の個性に合った教育の必要性などを,経験をまじえて語った。

社会・医療情勢の変化の中で

 一方,総合診療は,社会ニーズの影響を強く受ける領域でもあると言える。石川誠氏(近森リハビリテーション病院長)は,入院期間短縮・在宅ケア推進の傾向を重視。高齢者ケアに携わる医師は,在宅ケアサービスの要点である(1)基盤整備,(2)ケアプラン,(3)ケアマネジメントを理解する必要があるとし,「この変革の中では総合診療医こそがプライマリケア,リハビリテーション,ターミナルケアの実践とチームリーダーを担わなければならない」と述べた。
 さらに,医療政策・管理学が専門の池上直己氏(慶大)は,社会情勢の変化により,(1)医療の成果の立証,(2)超高齢社会への対応が求められ始めたと指摘。(1)では基準となるデータベースづくりとそのための新しい患者分類法が必要とし,また(2)では要介護状態の予防や改善によるQOLの維持・向上と,死の看取りが医師の大きな役割になると述べた。また,ケアプランやアセスメントを総合診療と結合させることが今後の課題の1つであるとの考えを示した。

総合診療の発展を決定する要因

 最後に福井次矢氏(京大)は,「入学時には医学生の30~50%がプライマリケアに携わりたいと思っているが,卒業時には数%にまで減っている。動機を育むだけの環境が大学にない」と述べ,若い優秀な医師を迎えるためには,総合診療研究会の目的である情報交換や研究の促進によって,大学内に総合診療のフィロソフィーを持つ人を増やす必要があると述べた。
 また総合診療の発展を決定する要因のうち,現在の課題は医学界におけるプレスティージであるとして,「総合診療の発展のためにはこれまでの価値観(研究重視)でも認められる必要がある」「研究面でも評価を受けつつ,臨床と教育を実践し熱心に総合診療のフィロソフィーを伝えていくことが必要」と語った。
 その後はフロアからの質問に答える形式で総合討論が行なわれ,総合診療医のアイデンティティや総合診療能力の捉え方,教育上の工夫などについて意見が交換された。また,地域や総合病院,大学など,総合診療医の実践の場は様々だが,総合診療研究会はコアになる共通部分(フィロソフィー,教育,研究手法など)で団結し学び合う場であることなども確認された。