医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


最新の正確な情報をわかりやすく解説

不妊治療ガイダンス 荒木重雄 著

《書 評》森 恵美(千葉大助教授・看護学)

 末期医療の現場で,患者へのインフォームド・コンセントの必要性が指摘されてから数年以上経ちました。患者が自分の状態を理解し,医師との信頼関係を築き,納得した上で治療を受けることが重要であることは末期医療でも不妊治療でも変わりはないでしょう。著者が述べているように,不妊という病態の原因はさまざまで,不妊治療も長期に及ぶことが多いので,不妊医療においてもインフォームド・コンセントがますます重要になると考えます。
 一方,最近の生殖医療の進歩は目覚ましく,日本でも体外受精をはじめとした高度生殖医療技術による治療を受ける不妊治婦も増加しています。しかしながら,マスコミによる不妊に関する情報は偏りがあるものが錯綜しているようにも見受けられます。そのような背景を鑑みますと,本著のように,不妊治療の専門家のみならず不妊治療を受ける方にも理解できるように,最新の正確な情報をわかりやすく解説した本が待たれていたといっても過言ではありません。

理解を深める工夫が随所に

 本著では全編を通じて,インフォームド・コンセントを成立させるために,医療を受ける側と医療を担う側が同じ視点で不妊治療を見据え,正確な情報を共有したいという著者の理念が浸透しています。
 著者は生殖医療の専門医,研究者,教育者であり,「開かれた生殖医療」をモットーとして高度生殖医療の啓蒙活動に意欲的に取り組んでいらっしゃる方だそうです。ですから,どちらの立場の読者にも満足できるように情報が系統的に整理され,カラーイラスト,図表を内容に合わせて適切に配置し,キーワードをカラー文字にするなど理解を深めるような工夫が随所に見られます。不妊患者の問いに答えるような形で,ほとんどの項目の文章が頁ごとに完結しているという細かな配慮も嬉しく,読みやすさを倍増させていると思われます。

不妊治療に関心を持つすべての人に

 生殖医療に携わる医師や不妊相談・不妊学級にかかわる看護職等の専門家にとっては,著者の豊富な臨床経験に基づいていること,引用文献の解説がその都度欄外に付記され研究的な裏づけが明確になっていることが,生殖医療についてのより深い理解を進め,対象者の状況により適した実践のために大変参考になることでしょう。
 索引が和文と欧文の両方で豊富に準備されているので,不妊でお悩みの方でも自分の不妊原因がわかれば,索引によってその治療を理解することが容易であるように考えます。特に自分の不妊の原因や治療について詳しく知りたいという時に使用するとよいでしょう。
 医学生や看護学生にも,不妊症やその治療に関する基本的な知識から最新の治療法までを学ぶための参考書として紹介したい一冊です。特に,不妊治療に対する著者の真摯な態度や,インフォームド・コンセントに対する著者の考えは,ぜひすべての医療関係の学生に触れさせたいものであります。一般の方でもわかるような記述であることが,学習途上にある学生にとっては好都合でありましょう。
 以上のように,内容が豊富の割に読みやすく系統的に整理されていますので,不妊治療に関心のある方ならどなたでも,一般の方から専門家まで幅広い方々にぜひ熟読をお勧めしたいと思います。
(B5・頁120 税込定価4,944円 医学書院刊)


基礎看護学を体系化した専門性の高い教科書

基礎看護科学 R.F.クレイブン,他 編集/藤村龍子,中木高夫 監訳

《書 評》江本愛子(三育学院短大教授・看護学)

 『基礎看護科学』の原書「Fundamentals of Nursing-Human Health and Function」第1版は,第Iセクション「看護の基本概念」と第IIセクション「人間の機能と臨床看護治療」から構成されており,新刊の『基礎看護科学』はその第Iセクションの邦訳である。
 原書は,A4版,厚さ6cm,重さ約4kgという膨大なもので,内容も専門性が高く,詳述されている。この第Iセクションだけでも25人の執筆陣と32人の編集協力者によって大成されたもので,この膨大な著書を23人の翻訳陣を擁して大訳に挑戦されたことにまず敬意を表したい。

機能パターンを知識基盤に

 著者らはこの本の出版にあたり2つの基本的前提があり,それが内容全体に組み込まれていると述べている。この前提を,筆者は以下のようにまとめてみた。
 まず人間は誰しも健康でありたい(健康を回復,維持,増進したい)という目標を持っている。健康とは単に身体の一部に疾病がないこと以上のもので,身体的,心理的,社会的,霊的にその機能が最大限に発揮できることを意味する。その健康の目標達成のために援助するのが看護活動である。看護活動とは第1にその人の機能の変調(起こるおそれのある変調と,実際に起こっている変調)と機能変調に対処する力を認識することである。そして第2は適切な看護介入を選定し適用することである。
 著者らは人間を身体的,社会的,精神的な全体としてとらえ,部分部分の形態からではなく,全体的に機能していると認識している。その機能パターンを知識基盤として基礎看護学を体系化しようとしている。原書第Iセクションの内容は,「I.看護の専門性の基本概念」「II.看護過程:看護介入のための枠組み」「III.人間の機能と看護マネージメントに必要な概念」「IV.アセスメントの重要な構成要素」「V.臨床看護治療学」の5つのユニットにまとめられた23の章から成り立っている。

教育の現場で大いに役立つ

 今日看護はより自立をめざし,専門職としてより拡大する役目を担おうとしている。これらの看護の役割を果たすためのコンピテンス(有用性)の全貌がこの本からタイムリーに浮かび上がってくる。
 著者らは各章において一貫して,健康パターンから説明しようとしている。健康パターンに基づいて全体的ヒューマンニーズを構造化したり,患者教育の領域を分類したりしたもの興味深い。
 看護学生の参考書としても,教育カリキュラムの編成,あるいは教員のシラバス作成にも大いに役立つ好著である。
(B5・頁624 税込定価7,107円 医学書院刊)