医学界新聞

第30回を迎えた日本腎移植臨床研究会

さらなる成績向上をめざして


 さる1月23-25日,日本腎移植臨床研究会(世話人=国立佐倉病院 横山健郎氏)が,千葉市の幕張メッセ国際会議場で開催された。

同一ドナーからの 生体肝・腎時差移植例を報告

 学会で発表された一般演題は,コーディネーター活動に関するものや看護部門を含め約190題。このうち白髪宏司氏(東女医大)の演題では,末期腎不全となった原発性高シュウ酸尿症の1歳女児に対し,生体肝移植後51日目に生体腎移植を行なった症例が報告された。肝臓および腎臓のドナーはいずれも女児の父親で,父子ともに経過は順調とのこと。日本で初めての例であり,また欧米では同様の場合,肝腎同時移植が根治療法として確立されつつあるが,生体からの移植の報告はなく,世界でも初めての方法と見られる。
 一方,学会初日には恒例の移植腎病理組織検討会が行なわれ,演題の一部には,国立佐倉病院からリアルタイムで会場に送信された病理組織標本の映像を大型ハイビジョンで検討する形で,テレパソロジー(遠隔地病理診断)が導入された。この他にも作家の永六輔氏による特別講演,教育講演,2題のシンポジウム,3題のワークショップが企画された。

シクロスポリン10年のあゆみ

 免疫抑制剤シクロスポリンは,日本では1982年に腎移植での臨床試験が行なわれ,85年に保険適用となり,腎移植の成績向上に貢献してきた。一方で腎毒性などの副作用への対応も研究されている。シンポジウム(1)「シクロスポリン10年のあゆみ」(座長=北里大 遠藤忠雄氏,京府医大 安村忠樹氏)では,腎移植におけるシクロスポリンの臨床について,6人の演者が使用成績,病理,血中濃度と副作用,QOL,作用機序などのテーマで考察した。
 この中で高原史郎氏(阪大)は,「シクロスポリン腎移植長期生着研究会」報告について解説。82~91年の10年間の,シクロスポリンを初期より投与した腎移植例65施設1323件(生体腎1055件,死体腎268件)の分析結果を示した。これによると5年生着率は生体腎80.9%,死体腎74.2%,10年生着率は生体腎56.8%,死体腎58.8%で,海外のデータに比べて高率であった。さらに悪性腫瘍発生率と,妊娠・分娩への影響については,94年8月までの5281件(日本全体の腎移植の約70%以上に相当)を調査。悪性腫瘍(腎細胞癌,悪性リンパ腫,子宮癌,乳癌等)発生率は1.6%で,140件の妊娠を確認した(うち約80%が分娩)ことなどが述べられた。
 免疫抑制剤に関しては,昨年4月よりタクロリムス(FK506)が腎移植での保険適応となり,シクロスポリンとの比較もされるようになってきている。今学会でも,一般演題でタクロリムスの使用経験が多数発表された他,ワークショップ(2)「腎移植におけるタクロリムスの臨床」(座長=千葉大 落合武徳氏,東北大 里見進氏)として取り上げられ,3年以上投与例の追跡データを含め,5人の演者から臨床成績が報告された。