医学界新聞

 Nurse's Essay

 携帯電話は医療の敵? 宮子あずさ


 私たち夫婦の身内は病人だらけ。共働きで互いに外出がちなため,特に移動中に何かあったら,ということは大きな問題でした。一昨年の冬,私の母が肺気腫に肺炎を併発して入院。一時はICUに入っていた時期もあり,そんな時に限って地方に出なければならなかった私は,とうとう携帯電話を買ったのです。
 やはりいつでも連絡がつくと思えば気持ちも楽で,その気楽さ,便利さをみて夫も購入。呼び出し音は小さくし,できればバイブレーター機能を使い,会話の時は口元に手を当て,公衆の中での会話は最小限にとどめる等のマナーさえ守れば,それほどはた迷惑な器械でもないように思います。健康を気遣う身内を抱える身にとっては,これほど頼りになるツールはありません。
 しかし,小型化が進んで便利になるのはいいのですが,年寄りには使いにくいのがちょっと難。本当は両親たちにも携帯電話を持たせたいのですが,老眼の目にはプッシュボタンが見にくく,機能も盛りだくさんすぎて,使いこなせないようです。それこそ短縮ダイヤルだけが特大になっている高齢者向け携帯電話なんかがあるといいんですけどね。
 それにしても,病院の中での携帯電話は,その電波による医療機器の障害のために完全に悪役。でも実は病院に集まってくる人々こそ,携帯電話が必要な人たちなのではないでしょうか。
 もちろんこれは安静度とマナーの問題もありますが,患者さんによっては,携帯電話を持ち込むことで,社会との接点を保ちながらの入院が可能となる場合もあるでしょう。また,付き添う人にとっても,外からの連絡がいつでも入るとなれば,どんなに来やすくなることか。さらに,看護婦の立場から考えても,急変しそうな患者さんの家族が皆携帯電話を持っていたら,とても助かるとは思いませんか?ですから私としては,医療機器の障害の対策として,病院で携帯電話を切りなさい,というだけの対応でいいのかはとても疑問なのです。
 一度便利な道具を手にした人間は,やはり不自由だった状況に後戻りはできません。それこそ新しいツールを積極的に活用していくための方法をこそ,工夫する動きがあってもいいのではないでしょうか。